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夜雨夢

作者: ラタリタ

 洗ったばかりの清潔な身体で布団に滑り込むと、安らかな香りがあなたをやわらかく迎え入れる。

シャワーも浴びずにかろうじて着替えだけ済ませて、或いはスーツだけ脱ぎ捨てたワイシャツ姿で、ベッドに倒れ込むこともままあるあなたは、この心地よさに、とても敏感なのだ。

 しかも今日は雨だった。天然のBGMである雨の夜を、あなたはとても快く思っている。肺の奥深くまで寝室の香りで満たし、水滴が地面を、屋根を、葉を打つ音に耳を澄ませる。屋根や樋を流れて、滝のように落ちる音と、水溜りへ落ちる雨の、涼やかな高い音。

 窓を開けると、細かい飛沫を肌に感じる。あなたは雨の日に窓を開けて、部屋の中まで濡れてしまうことを厭わなかった。放っておけばいつか乾くのだから、と思っている。

 目をつぶって、体の力を順番に抜いていく。頭も手も脚も支えるのをやめて、額も目も顎も、下に落としてしまうと、ゆっくりゆっくりと水の中に潜っていくみたいだ。雨の日には、空気そのものが雨を含んでいるから、呼吸をするごとに、肺が湿った空気に満たされていく。

 目を開けると、部屋のそこここにミズクラゲが漂っていて、悠然と海ガメが泳いでいるのだったらいいのに。光を透過してやんわりと虹色に光るクラゲの間を、海ガメがオールのような前足をひとかきして、軽くすべっていく。海ガメの中にはべっ甲細工という工芸品にも使われるほど美しい模様の甲羅を持つものがいる。簪や櫛、始皇帝の王冠にも使われたという透き通った金色のべっ甲。

 しかし、とあなたは思う。しかし海ガメはクラゲを食べるのではなかっただろうか?べっ甲に使われる美しい甲羅を持ったタイマイという種は、あるいは海藻しか食べないのだったか。嘴のように鋭い口先でクラゲを引き裂くのか、否か。

 突然、まっしろな光と耳をつんざく轟音があなたの意識を連れ戻し、いつの間にか深く眠りへ落ちかけていたことに気付いた。沈んでいくときはひどく遅いのに、浮上するときはウソみたいに一瞬だ。

 雨足はどんどんと激しくなって、地面を打つ。その大きな音を心地よく聞きながら、あなたは再びゆっくりゆっくりと水の中に潜っていくように、あなたの内側へ帰っていく。


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