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ある少女の恋物文学  作者: カイ・ナナミ
2/2

再会

「それじゃあ、次の人〜」

 私の前の人が終わり、ついに私の番になった。


「は、はい。えっと……私のな、名前は……里中……麻衣です。趣味、特技は……ありません。あ、あと……人と話す時、口数が……少なくなり……ます。人見知りです。な、仲良く……してくだひゃいっ!?」

「かわい〜」「かんだよ!」「何あれっ! 小動物みたい」「嫁にしたい」

 私は緊張のあまり噛んでしまっ……って、最後の誰ですか!?

 私は辺りを見回したが誰か分からなかった。


 ……まぁそれは置いておくとしてとりあえず掴みは良かったみたいだ。


 私が自分の席につくと、隣にいた中学の時からの親友西末花陽(かよ)が話しかけてきた。

「可愛かったよ〜、麻衣」

「もう、からかわないでよ」

「ごめんごめん。でも、ちゃんと大事なこと言えたじゃん。心配して損した〜」

「うん」


 花陽は私が人と話すのが苦手なのをよく知っていて、中学の時から代わりに喋ってくれたりしていつも助けてもらっていた。

 今回も私がちゃんと自己紹介できるか心配してくれていた。


 私と花陽はこの光城高校に無事に入学して、今日はクラスメイトの自己紹介をしていた。


「ありがと〜花陽。……でも、ちゃんと話せたのはあの先輩のおかげかな?」

「えっ? あの先輩って誰!? 麻衣、いつの間にそんな人と出会ってたの?」

 私が小さく呟いたのを親友の花陽は聞き逃さなかった。

「う、うん。オープンキャンパスの時に……」

「うっそー、まじで? あ〜あたしも行けば良かった〜」


 花陽は中学の時、薙刀(なぎなた)部に入ってて、オープンキャンパスの時は部活の大会があって参加してなかった。


「で? で? その先輩と何があったの?」

「うん。実は……」

 私は花陽にその時の出来事を話した。


「かっこいいじゃんその先輩。初めてあった麻衣を校門まで連れて行くなんてね〜」

「うん。びっくりしちゃった……」


 私はその時のことを思い出しながら、そう言った。


 すると、花陽が何か言いたそうにこちらを見ていた。


「……でも、相変わらずだね。麻衣は」

「うっ……」

 花陽がそう言ったのには訳がある。

 私はどうやら方向音痴らしい。らしいというのは自分ではちゃんとした道を通っているつもりが、いつの間にか同じ道をずっと回っていたり、全く違う場所にいたりすることがあるからだ。


「なんでみんなそう言うかな……。私はちょっと道を間違えてるだけなんだけど……」

「麻衣…。そう言うのを方向音痴って言うんだよ」

 私が小さく呟いたのを親友は聞き逃してくれなかった。


「と、とにかく! その先輩のお陰でちゃんと話せたの」

 私は花陽の呆れた視線から逃れるように話を戻した。

「ふぅ〜ん。そうなんだ〜。良かった、良かった」

 花陽は何か納得したような顔をしてそう言った。


「な、何よ? 気持ち悪い顔しちゃって……」

「ちょっ! 気持ち悪いって! ……まぁいいけど、とうとう麻衣にも好きな人が出来たんだね」

 と、そんなことを言ってきた。


「えうっ!? そ、そそそんなわけないじゃない!? べ、別に私は先輩のこと好きじゃ…………」

「おやおや〜。あたし先輩(・・)なんて言ってないけど〜」

「うっ……」

 私は顔を真っ赤にして俯いた。いつの間にか全員自己紹介し終わっていた。


 確かに私はあの先輩のことが好きになっていた。胸の奥にあるこの気持ちは今にも溢れだしそうだ。


「で、どうするの? 告白するの?」

「えぇっ!? こ、告白なんてまだ早いよぉ……。それに……先輩の名前も知らないし…」

「うそっ!? 名前知らないの!? ……麻衣、ちゃんと聞かなきゃダメじゃん…」


 そう、私はあの先輩の名前も知らない。あの時は聞く暇なんてなかったから。今更後悔しても遅いけど、何で聞かなかったのか疑問に思うばかりだ。


「あ、でも、分かるかも知れないよ。その先輩」

「ほんと!?」

 花陽のその言葉に思わず前のめりになって聞いていた。


「うわっ!? 麻衣そんな焦んなくても教えるって!」

「ご、ごめん…」

「その人確か文芸部でしょ?」

「うん。会った時は2年生って言ってたから今は3年生かな」

「そう。だったら1人しかいないよ」

 花陽は確かにそう言った。


「で、名前は?」

「いや〜それは自分で聞きな。あたしが教えるよりよっぽどいいよ」

「えぇ〜なんで〜!?」


 その後、いくら問いただしても花陽は一切喋らなかった。



「そういや、花陽は部活どうするの?」

 ホームルームも終わり、それぞれが部活の体験入部へ行くことになっていた。

「うーん。どうしよっかな?」

 光城高校には薙刀部がなく、花陽が何の部活に入るのか正直興味があった。


「どうするの?」

「まぁ、色々回ってみるよ。気に入った部活があるかもしれないし」

「そう。分かった」

 私は花陽と別れて文芸部のある図書室へ向かおうとすると、別れ際に花陽が突然変なことを言ってきた。


「麻衣があんなに必死になって食いつくなんて珍しいね。そんなにその先輩にお熱なんだ」

「ちょちょっ!? かか花陽!? 何言ってるの!?」

 私は花陽の言葉に顔を真っ赤にした。


「なんか嬉しいなって思ってさ。中学の時、如何にも人に興味がないですって感じだったからさ」

「花陽……」

 確かにあの時は人に興味がなかった。けど、花陽と出会って少し変われた気がする。


「だから、麻衣に好きな人が出来て本当に良かったよ」

「全部花陽のおかげだよ。花陽と出会ってなかったら私は私じゃなかった。ありがとう花陽」


 私は自分の気持ちを真正面に伝えた。

「な、なんか素直に感謝されると照れるな……。とにかく頑張りなよ、麻衣」

「うん。ありがとう!」

 私は花陽の応援を受けて頑張ろうと決意した。



 私は花陽と別れて図書室へと足を運んだ。


 すると、そこにはオープンキャンパスの時と何も変わっていない先輩の姿があった。


「あの……ぶ、文芸部って……ここですよね?」

 私が恐る恐る声をかけると、本を読んでいた先輩が顔をあげてこちらを見た。

「もしかして入部希望者? 良かった〜やっと来てくれた。ありがとう……ってあれ君は確か、オープンキャンパスの時の子だよね?」

「は、はい。そうです……」

「やっぱり!! 本当に来てくれたんだ! ありがとう! 嬉しいよ!」


 先輩が私のことを覚えてくれてた。そのことがすごく嬉しくて、私は頬が赤くなるのを抑えながらなんとか喋った。

「あ、あの時は本当に……ありがとうございました」


「いいって言っただろ。それより自己紹介しないとな。俺は星空拓真。3年C組だ」

「え、えっと……い、1年C組のさ、里中麻衣です。あ、あの……その……私、は…」

 私はクラスに喋ったように自分のことを言わなくちゃいけないのに、緊張のあまり喋れなくなっていると突然先輩が、


「麻衣ちゃんか。うん、可愛くていい名前だね。多分麻衣ちゃんは人と話すことが苦手なのかな? それに表情があまり変わらないから誤解されることがあったはず。……そうだな、あとは人見知りってとこかな? どう、合ってる?」


「は、はい……」

 私の性格を拓真先輩は見事に当てた。訳がわからずどうやって私の性格を当てたのか聞いてみると、

「色々なジャンルの本を読んでいたせいかな。気が付くと、名前だけで相手の性格を当てられるようになったんだ。……大した役には立ってないけどね…」


 拓真先輩は苦笑いをしてそう言った。

「そ、そんなことないです! 少なくとも私の性格を当ててもらったことは……役に……立ってます……」

 私は食い気味で否定して徐々に声が弱くなってしまった。


 けど、拓真先輩はそんなこと気にせずに、

「そう。お役に立てて嬉しいよ。あと、慰めてくれてありがとう」

 拓真先輩はそう言って私の頭を撫でた。


 私は顔を赤くして俯いた。でも、すごく嬉しかった。

「さてと、今日は体験入部だから後日改めて来てくれるかな。その時入部届けを出してくれると君も晴れて文芸部だ! これからよろしくね麻衣ちゃん!」

「はい!!」


 私は後日、担任から配られた入部届けを出して、文芸部へと入部した。


 ちなみに、その日は拓真先輩と一緒に帰った。その時はすごく嬉しかったけど、その翌日花陽に一緒に帰らなかった事情を話す羽目になった。

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