表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

2-2

挿絵(By みてみん)




 オージッドはリモートコントロール式端末に自分のPADを繋げ、いくつかの操作をした。この場にいる全員、それぞれの目の前にテキストデータが立体映像ホログラムとして空中に展開される。


「今回の事件は本日付で、都市警察から我々A.L.I.V.E.に捜査権が移った。バイオロイドの保護・管理も我々で行うことになる」


 バイオロイドと聞いて、レイの頭には『天使』と呼ばれた銀髪の少女と、その少女と瓜二つの黒髪の少女が思い浮かんだ。レイは黒髪の少女が向けてきた笑顔の意味について考えようとしたが、オージッドはそんな猶予を与えないかのように会議を先に進めた。


「つい先ほど、バイオロイドは警察病院から軍部医療機関に搬送された。担当スタッフは渡辺医師だ。医師によると、かなり深い睡眠状態から長時間変化がないために覚醒する見込みが予測しづらいのが現状だそうだが、命に別状はないという。バイオロイドが目を覚まし次第、聴取を執り行うことになると思うが、レイ、お前にやらせる」


 レイはオージッドの決定に、まぁそうなるか、と素直に納得した。聴取関連はいつも、『読心』を行えるレイの担当だった。レイは「オーケー」と返事をすることで先を促した。オージッドは頷く。


「続いて、不明とされていた犯行グループの名がわかった。昨日の殲滅したグループに所属していたと思われるアンドロイドの死骸を鑑識が解剖、解析したところ、通信ログのなかにそれらしい言葉が散見されていたそうだ」

「へぇ? やっこさん方はなんて名前だったんだい? 興味があるな」

「俺もー」

「あたしも」

「俺も気になるな」

「勿論、俺も気にはなってはいたがな、なかなか厄介そうな集団かもしれない。『讃美歌』というらしい。ログからできる限りの情報を探そうと試みたんだが、重要であると思われる事項は不自然なほど完全に遠隔消去されていた。相手も徹底的な体制をとっているようだ」


 讃美歌アンセム、か。嫌に輝かしい名前だ、とレイは思った。そういうグループに限って狂信的で、結束力が強く現れる。レイはオージッドが『厄介そう』と評した意味がわかった気がした。


「彼らの犯行目的はまだ明確には言いきれない。ただ言えるのは、拘束されていたダニエル=カーターに目立った外傷がないことから、彼らがダニエルからなにかを吐かせようとしていたのだろうということだ。そしてそれは十中八九、ダニエルが自宅の地下に隠し持っていたバイオロイドとなにか関係がある」


 ニクソンが溜め息混じりに言葉を漏らす。


「ダニエル氏に詳細を訊いたほうが早いんだろうが、彼は銃弾が急所ぎりぎりを貫いて意識不明、か。一番の近道が絶たれたわけかよ」


 事件で被弾したダニエル=カーターも、警察病院から軍部医療機関に移送、そのまま入院し療養していることが与えられたデータには記載されてあった。数時間前に警察病院に運び込まれたころにはすでに意識不明であったが、医師によれば命に別状はないそうだ。彼は家族とともに重要参考人として保護対象に認定され、現在も世間から隔離された場所でひそやかに治療を受けている。

 ここでふと、レイはあることを疑問に思った。


「なぁオージッド、ダニエル氏の処遇はどうなる? 防衛省の人員が都市法違反の結晶である生きたバイオロイドを抱え込でたんだ、ただじゃ済まされないだろ?」


 レイが問うと、オージッドは小さくかぶりを振った。


「バイオロイドの成功例の発見に関しては完全な報道管制が敷かれたうえ、ダニエルの都市法違反に対する処罰も保留となっている。どうしてそうなったのかはいまだ不明だ。人間の絶滅を真剣に心配していた都市上層部がいつの間にか成功していたバイオロイド技術に興味を示したか、あるいは……」


 オージッドが言い淀む気持ちも、レイにはわかる気がした。つまり、彼が言いたかったのはこういうことだろう。

 ――あるいは、都市政府自身が秘密裏にバイオロイドを生成していたか。

 もしそれが本当なら、自分たちの知らないうちに、自分たちが安全を守り、健全性を保つために貢献し続けてきた都市自身が都市法を逸脱していたことになる。正義を掲げる部隊に所属している身としては、これは認めたくはないことだった。オージッドは続ける。


「このままでは最悪の場合、事件の真相が世間に知られぬままに迷宮入りとされてしまう。もし都市自身が法を犯しているのならば、それは断じて認めてはならないことである、というのが都市法務省の決定だ。だからこうして我々が捜査権を得ることになった。我々は独自のやり方で、都市法を違反した者たちを公正に追及していく。たとえその相手が都市であったとしても、だ」

「……なぁ。ちょっといいか?」


 ニクソンが不意に挙手をした。オージッドは視線で彼に発言を促した。


「バイオロイド技術を陰で行使していた都市は当然、法規違反になるわけだろ?」

「もし本当にそうであるなら、そういうことになる。こちらがいくら政府に情報開示を求めたところで黙殺されるだろうが」

「それってつまり、悪いことをしてるのは都市のほうってことだろ? その讃美歌って犯行グループは、都市の逸脱を阻止しようとしてるって考え方もあるわけだ」


 ニクソンの意見に、オージッドは頷く。


「当然、その可能性もあり得る。しかし、彼らが行っていることは明らかなテロ行為だ。見逃していいことではないだろう」

「おっしゃる通りで」

「今回の件に関して、都市に情報開示を求めても相手にされないことは目に見えている。重要参考人であるダニエル=カーターは意識不明で入院中、バイオロイドの少女は覚醒の見込みが立たず、犯行グループである讃美歌は足がつかない。……情報を得る手段が少なすぎる」


 顔の前で手を組むようにして肘を突いていたオージッドは、そこでレイへと顔を向けた。


「レイ、今回はキーラに本格的に捜査に協力してもらおうと考えている。頼めるか」


『キーラ』と名前が出ると、一同の視線がレイへと集まった。レイは溜め息をつきながら眉根を寄せた。


「なんだよ、俺だけこうして本部に来なきゃならなかったのはそのためか、オージッド?」

「仕方がないだろう。お前が依頼をしなければ彼女は動かない」

「できればギリギリまで寝たかった、なんて発言は許されないわけだよな。わかってるさ」

「別の日に半日勤務の日を設けてやる。これでどうだ?」

「期待しないでおくよ」


 レイは悪態を吐きつつ、『キーラ』のことを思い浮かべた。人懐こそうで愛らしい顔立ち。小柄で華奢な体躯。しかし、そんなか弱い姿からは想像もできないような、莫大な量の情報を手中に収めることができてしまうせいか、彼女の知に対する意識は極端に低く、変に大人びた内面がその性格を冷めたものにさせてしまっている。レイがよく知る『キーラ』という人物は、そんな食えない一人の女性だ。

 レイは手持ちのPADで時間を確認すると、席を立って言った。


「なら、早いとこ行ってくるよ。あいつももう仕事に出てるだろうし、昼の休憩時間を当たれば今日中にアポは得られると思う」

「よし。では、カンファレンスはここで終わろう。レイはそのまま外へ。キーラを連れて軍部医療機関へと向かい、読心を利用したバイオロイドの視察を。ディソルとニクソンは鑑識から回されたデータの整理を頼む。コトミは事件現場であるカーター宅の検証を。ナタリーを起こして連れていくように」

「「「了解」」」


 3人の声が重なったあと、レイは一同に背を向け、カンファレンスルームをあとにした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ