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ヤンキー娘、貢がれる。

 働き始めてから一ヶ月が経った。姐御姐御とうるさい連中もいて、思わず睨みつけたり裏拳が炸裂したりもしたものの、何故かそれを羨ましそうに見ている連中もいて正直ウザい。だけど、仕事自体は上手くやれてる、と思いてぇ。


 本当であれば、三日働いたら二日休んでいいと親爺さんから言われていたものの、一日休んだらシオリはどうしたんだ、と客から聞かれることが多くて面倒とのことで、結局休みは一日だけにすることに親爺さんと話して決めた。そして、既に客が増えて売上もかなり上がって忙しいってことで、給料もあげてもらえることになった。正直そんな簡単にいいの?と思わないこともないんだけどよ…。



「シオリ、これ終わったら上がりでいいよー。」

「あいよ。ちゃっちゃっと配ってくらぁな。」



 すいすいと客とテーブルの間を通り抜ける。もう完全に慣れて…ってまた痴漢か!と尻に伸ばされた手を空いた手で払う。両手が塞がっている時など踵で蹴り飛ばすこともあるが、どうしても避けられずに触られることもたまにある。そういう時は睨みつけてやると気付いたファンクラブのおっさん達が外に連行して〆てくれることが多い。というか、最近はファンクラブというよりは舎弟と言った方がしっくりきたりするんだけどよ。街で見かけると『シオリさんじゃないっすか、チィーっす!』とか頭下げてくるし。

 三角巾と前掛けを外してアタシが賄いをカウンターの何時もの席で食べていると、店の入り口が何やら騒がしくなった。



「何しに来たんだよ坊ちゃんよう」

「またアネゴに因縁付けに来たんじゃねぇだろうなぁ?」

「チッ、いいからどいてくれ。喧嘩売りに来たわけじゃない。」



 スプーンを咥えながら入口の方を仰ぎ見ると、そこには領主の息子がお供を一人だけ連れてこちらに向かおうとしていた。お供の名前は思い出せないな…誰だっけ、ほら、短剣の男だ。二人はファンクラブの連中を上手にいなしながらアタシのところまでやってきた。なんか、ヒキガエルっぽいのは変わってねぇけど痩せたな、こいつ。



「夕飯中すまん、ちょっといいか?」

「…何?」

「ディーク、出してくれ。」



 短剣の男…ディークがマントの内側から取り出したのは一双の籠手だった。…アタシだって防具屋に行ってレザーアーマー買ったからさ、籠手なのはわかる。ディークはそれをアタシの夕飯のトレイの隣にそっ、と置いた。



「…お前も何か準備してなかったか?」

「イッショ二ダシテ、イイノデスカ?」

「構わん。」



 なんだぁ?と思っていると、ディークはまた懐からずるり、とブーツのようなものを取り出した。



「俺のは籠手だ。貴女はよく殴ったりするだろう。俺の手下を殴り飛ばした時も、手に傷がついていた。薄くて軽いが、ちょっとした刃物では傷もつかんし、拳から腕にかけてのプレートはミスリルだから、そこらの冒険者共の持っている剣も楽に受け止められる筈だ。是非、使ってくれないか?その美しい手に傷がつくのは見てられないのだ。」

「は…?」


「ワタシノハ、キャハン。レギンスタイプダカラ、イマハイテルソウビノウエカラツケレル。アシヲマモッテクレル。」

「お、おう…?」



 アタシが怪訝な顔をしていると、ファンクラブの男達がぞろぞろとやってきて二人の肩に手を乗せると、顔をニヤつかせた。



「何だ、坊ちゃんもアネゴの魅力にやられちまったのか。俺たちシオリの姐御ファンクラブは何時でもメンバーを募集してるぜ?」



 アタシは心底呆れた。



「うひょぅ、アネゴのそんな顔も美しいぜ。ご褒美だな!」

「お前ら、もう帰れ。シオリが呆れてるだろ?」



 頭痛がする、と頭を押さえていると親爺さんが助け舟を出してくれた。



「まぁ、くれるっていうなら貰っとけ。それ、買ったらすごい高いぞ。」

「そ、そうなのか。悪りぃな。」


「い、いや、いいんだ。俺が使って欲しいと思ってるだけだから、それをネタにどうこういうつもりもないから。」

「ツカッテクレ。」


 照れたような顔でいう領主の息子と、仏頂面だが頬が少し赤いような気がするディークの二人に素直に礼をいうと、アタシは実際に身につけてみた。



「ん、大きいかと思ったらピッタリになったし、違和感もねぇ。ありがとよ。」



 思わず笑顔になったアタシを見て、前にいた男連中からふぉっ、というような声が漏れる。



「坊ちゃんグッジョブ!」

「いやぁ、堪能した!」


「…俺らも今度なんか持ってこようぜ…」

「…そうだな…」


「なんか言ったか?」

「なんでもないっす!姐御!」

「そ、そうか?」

「そうっすよ。」



 首を傾げるアタシに、男達は領主の息子とディークの肩を抱くと、別の店で飲み明かそうぜ!とぞろぞろと出ていった。



「…。」

「…。」

「よかったな、シオリ。こりゃ当分いろいろと貢がれるぞ?」

「…貢がれてもなぁ。」

「いいじゃないの。私もたまにお客さんからプレゼント貰ったりするわよ?笑顔の一つも返してあげれば相手は満足するんだから。」

「そんなもんか?」

「ええ、そうよ。」



 これまでアタシの周りにいた男共は…普通のクラスメイトは近付いて来ねぇし、不良共は近付いて来てもボコってカツアゲしちまうせいか、プレゼントなんて…って一回だけあったか?あん時は花だったような気もすっけど。そんな感じだったから、物を貰っても正直どうしたらいいのかよくわかんねぇんだよな。この籠手と脚絆はカッコいいから使おうと思うけどな。



「つうかよぉ、これで殴ったら…拳のとこにも金具ついてるしよ、下手すると死ぬんじゃねぇのか?アタシ、ただでさえ馬鹿力だしよ。」

「そこは加減するか、ギルドの依頼のモンスター退治とかで使うといいんじゃないのか?どうせもうすぐこのギルドは訪れる人が少なくなる時期だから、しばらく雇い止めになるからな。」

「雇い止め…?」

「ああ、二ヶ月くらいシオリにも暇を出すぞ。其の後また復帰してもらうつもりだけどな。」

「暇を出すってなんだ?」

「うちの食堂も人余りになるから、一時的に首ってことだ。まぁ、今年は雇い止めしなくてもシオリ目当ての男どもが通って来そうな気もするんだがな。」

「マジか、く、クビかよ。」



 落ち込んだアタシに、リタちゃんが声を掛ける。



「だから、二ヶ月くらいのあいだだけよ。それに、シオリはどうしたって声が多かったら週に一日二日だけでも来てもらうから。その繋ぎにギルドの依頼を受けるのもいいんじゃない?って父さんは言いたいのよ。」

「そ、そうだ、言葉が足りなくてすまん。」



 アタシ頭悪いからな。二ヶ月の間だけ他のことしてればいいってこったな?ちょっと涙ぐんだアタシに焦った親爺さんが頭を下げた。


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