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ヤンキー娘、初仕事。

 朝に鳴った一つの鐘の大きな音でアタシは目を覚ました。今日から仕事があるのだ、起きなければ…と思ったものの、元々ガッコーにすら遅刻がちだったアタシにとって、時間をちゃんと守るということは難しいのだ。とはいえ、初日から遅刻なんてしてらんねぇとの思いで体を起こした。


 昨日とは違い、寮の食堂に行っても何も食べ物はない。アタシはささっと食堂の制服を着て身支度を整えると、スカートがちょっと短けえよ、と思いながらギルドの食堂へと向かった。



「おはようさん。」

「おう、嬢ちゃんか。…まだ時間じゃねぇな。手洗ったらリタにメシよそってもらって、朝メシ食べな。」

「あんがと、おやっさん。」



 話を聞いていたリタちゃんがよそってくれたポテトサラダとレタスを黒パンに挟んでかぶりつく。リタちゃんが忙しそうにたくさん並んだ皿に盛り付けていくのを横目に見ながらアタシは二つ目のパンを口に放り込んだ。



「食い終わったし、手伝うぜ。」

「えっとね、まず頭にこれ。ポニーテールにして三角巾してくれるかな?」



 く、首元がスースーしやがる…。



「それじゃ、テーブルに記号が振られてるのがわかると思うけど、お盆にも記号が書いてあるから、お盆に乗せてある席番号のプレートが同じ番号のところに届けてくれる?あとはお客からお金を取る場合はプレートが赤、取らない場合は青よ。」

「どこの机がどの記号か覚えるまでが勝負…?」

「そうよ!でもね、こっちからみて入口側の左上を頂点に記号の順番がならんでるから、そこまで難しくはないわよ。」

「ぬぬぅ」



 ヨクワカラン。これはもう根性で覚えるしかない。アタシはキュッと三角巾を締め直すとお盆を握りしめ、ズンズンと足を踏み出した。



「…お待ちどうさま!」



 でんっ、と皿をテーブルに置き、お客の方を見る。何事!?と一瞬こっちをみたお客が一瞬ビクッとしたのをみて、いかんいかんとやぶにらみでへの字口になっていた顔に笑顔を浮かべる。…引きつっているのも愛嬌だろ?



「…こ、これ代金…。」

「まいどあり!」



 アタシは差し出された1シルバー5カッパーを受け取ると、エプロンのポケットへと滑り込ませた。お客は何故かこちらをじっとみていたのだが、ひょろっとしたもやしっ子に興味はねぇし、配膳しなきゃならねぇ物が次から次へと待っているしでアタシは無視して踵を返した。



「…どうしたのかしら、ぼーっとして食べないお客さんが多いわね?」

「ん?そうか?」

「ええ。いつもはもっと回転早いのよ。」

「ふーん。」



 暫く地道に配膳作業を行い、たまに間違えながらもひと段落したところで皿洗いへとアタシは仕事の場を移した。洗い場からは一応食堂内も若干見えるのだが、数名がこちらをみているのに気付き、アタシは何見てんだ!とガンをつけてやった。慌てて食べ始める冒険者達を見て、リタちゃんは不思議に思ったらしい。アタシの方をチラッと見てきたので笑顔を返すと、リタちゃんの顔がほんのりと赤くなった。うむ、かわいい。調子に乗って鼻歌を唄いながら洗っていると、親爺さんがいつの間にか後ろに立っていた。



「坊主ども、さっそく嬢ちゃんに見惚れていたな。売り上げが伸びるようなら給料上げてやるからな。頑張れよ。」

「お?おう」



 見惚れて?まさかなぁ。まぁ、給料が上がるなら別にイイか。うむ。

 料理自体はアタシはかーちゃんが体を壊していた時に代わりに作っていたこともあって、特に苦手と思ったこともない。最初こそ失敗してたけど、次第に慣れて適当に作れるようになったのだ。それに、金がねえのをカツアゲした金で補って好きなご飯作ってたからな。食べたいものを作れるってーのは楽しくていいんだよ。あ、カツアゲったって基本的には難癖つけて来るような不良連中からしか巻き上げてはいない。喧嘩を仕込んでくれたじーちゃんが不良するのはいいけどカタギに迷惑かけるな、って言ってたからな。



「皿洗いが終わったら、お昼ご飯よ。その後昼の三つ鐘まで休憩したら夜の仕込みを始めるから、よろしくね。」

「おう。」



 リタちゃんがそういいながらあまり注文のなかった料理などをよそったお昼ご飯を渡してくれる。仕込んだのがもったいないから食べちゃうんだそうで、これを賄いと言っていた。美味しいからなんでもいいよ。


 昼のピークもとっくに過ぎ、ガラガラになって来ている店内を見て、アタシは皿を持ってカウンターへと移動した。しゅるり、と三角巾を解いて前掛けのポケットへと突っ込むと、徐にご飯を食べ始めた。



「ね、ねえ、ちょっと、いい、かな?」

「あぁん?」



 左から聞こえた声に折角の美味しいお昼ご飯中に誰だこの野郎、とガンつけを開始する。無論、口にたくさん入ったままもぐもぐしてるからそこまでの迫力はないだろうけど。いつの間にか隣に座っていた優男は小さくヒッ、と息を飲んだが、気を取り直した様子でアタシに話し掛けた。



「キミ、かわいいね。初めて見る顔だけどいつから働いているんだい?」

「…。」



 何だぁ?藪から棒にクサイセリフを吐きやがって。せめてもっと低音のいい声で、いかついマッチョさんがそんなことを言って来たらうっかり引っかかるかも知れねえけど。優男がクサイセリフをいきなり吐いてくる場合はぜってえ裏があるから無視しろってかーちゃんが言ってた。ダメ、ゼッタイ。



「凄んで見せても美しいそのかんばせ。ただの食事なのに嫋やかなその指…。女神を彷彿とさせるその肢体。全てが素晴らしい。ってうわぁぅ!」



 いい加減イライラしてきていたアタシは皿を抑えていた左手で裏拳を放ったのだが、優男の目の前で何か透明な硬い板のようなものでドゴン、と防がれてしまった。いてぇ。



「チッ、メシがまずくならぁ、失せな。」

「…いきなり拳とは中々攻撃的だね子猫ちゃん。」

「だから言ってんだろ?失せろってよぅ。」



 子猫ちゃんとか抜かす優男にアタシは右手に持っていたフォークを置き、スツールから降りるな否やヤクザキックを繰り出し、また出てきた透明な板のようなものをパリン!とぶち破って優男の膝を踏み抜いた。



「ぐああっ、わ、わたしっ、私の足がああっ!」

「アタシぁ警告したろう?兄ちゃんよぅ。失せなってよ。」



 転がって鼻水を垂らしながら喚く優男の首根っこを掴み、店の外まで引きずってポイっと投げ捨てアタシは笑顔で一言。



「おとといきやがれ。」



 何人も信者が出来たみたいよ?とリタちゃんに後になってから言われたけど、一体何のことだろ?ちなみにあの優男は国のお抱えのマホー使いの一人らしいが、やはり浮気性で何人もの女の子を泣かせているらしい。クズめ。



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