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ヤンキー娘、物思いに耽る。

 リタちゃんの手を握ったまま、ギルドへと帰りついた。食堂のカウンターでは親爺さんが不思議そうな目でこちらを見ていたが、リタちゃんが徐にアタシに抱きついたので厳つい顔が驚きに包まれているのが目に見えて、アタシは思わず吹き出した。



「もー、シオリったらカッコイイ!あのヒキガエルに何もされずにあの場を去れるなんて!いつもは暫く捕まって体を触られたり、卑猥な言葉を言われるのに。」

「…いつもなのかよ。」

「そうなのよ!あのヒキガエル。貴族だからっていい気になって。」



 それを聞いていた親爺さんがムッとしたような顔で会話に参加してきた。



「デニゼンツの糞坊主がまたリタに粉かけて来てたのか?…で、シオリが追い払ったって?」

「そうなのよ!シオリが睨みつけたら三人とも竦み上がっちゃって。しまいには何もしてないのに腰抜かしてね?」

「ああ、シオリは威圧のスキル持ちだからな。」

「そうなの?」

「…スキルとか使ったつもりはねぇんだけどな。ガンつけただけだぜ。」

「まぁ、何にせよ礼を言うぜ。いつもリタが困ってんだよ。親にはリタに近寄らせんなって言ってるんだがな。…クピッツの野郎はまた絞めとかないとな。」



 アタシは照れ隠しもあって、宿に長く泊まるって話してくると席を立った。



「おばちゃん。アタシここの食堂に仕事が決まったからさ、長いこと泊まることにするぜ。」

「長いことだって?」

「ああ。」



 アタシの言葉に、おばちゃんは眉を潜めた。



「ギルドの仕事だっていうなら、ギルドが借り上げてる寮に入ったらどうだい。ここよりも家賃は安いし、まだ空きがあるはずだよ?」

「そんなのがあるのかよ。」

「あるわよ。確かここの食堂だって毎日手が必要な訳じゃないし、手のいらない月もあるんだから。お金は大事にしないといけないよ?一応仕事を継続してもらいたいってギルド側からの意思があれば手のいらない月でも寮には住んでられるからね。」

「そうだな。おばちゃんの言うとおりだな!」



 おばちゃんは手続きしてくるからねと言うと、よっこいせと椅子から立ち上がって奥へと消えて行った。アタシはどうしたらいいんだよ。待ってたらいいのか?と思っているとおばちゃんが三十代くらいに見える女性を一人連れて帰ってきた。



「あとは任せたからね。」



 おばちゃんはその女性にそう言うと、いつもの定位置に戻って帳簿とにらめっこを始めた。女性が身振りでついてくるように促したので、アタシは大人しく後ろからついていった。



「ここがあなたの部屋よ。備え付けの家具は自由に使って構わないから。共同の調理場はあるからご飯は自前で好きに作って食べて。洗濯は階段下に魔導洗濯機があるからそれに入れてスイッチポンで一瞬で終わるしトイレは各階の両端にあるわ。照明はここのスイッチを…って魔石が切れてるわね。魔石は私に言ってくれれば交換しに来るからね。照明は部屋にいない時はスイッチを切って節約するようにね。ちなみに寮費は給料から天引きになるから。何か質問は?」

「一気にまくしたてられてもわかんねぇよ。アタシバカだから覚えらんねぇ。」

「そう?じゃあわからないことがあったら一階の入り口の部屋に基本的にいるから、聞きにきてちょうだい。」

「お、おう。」

「それじゃあ、がんばってね。」



 女性は名前すら聞かず、言わず、嵐のように過ぎ去っていった。



「…なんなんだよったく。まぁいいか。二階で日当たりもヨシ。少々狭めえけど、荷物も置けて鍵も掛かるし。上等上等。」



 アタシは部屋の窓を開けて部屋に風を入れた。ゆっくりと空が赤く染まっていく中、家路を急ぐ人々の姿が見える。窓際に備え付けの丸椅子を置くと、アタシはのんびりとその様子を眺めた。今の所、そうやることもないし。というか、帰れないならベンキョーもしなくていいしな?


 手をつないで歩く親子を見て、ふと親のことを思い出した。まだアタシが小さな頃オヤジが浮気したせいで、気弱そうな外見とは裏腹に芯の通ったところのあるかーちゃんはオヤジを捨てた。一人でアタシを育てる為に無理を重ねたせいか、数年で体を壊したかーちゃんは実家を頼ろうとしたものの、どこで伝わったのか父方のじーちゃんばーちゃんが面倒を見させてくれ、と半ば強引にアタシ達二人を引き取ってくれたんだよな。浮気しやがったオヤジはカンドーされたし、元々そんなことがある前からかーちゃんと義理のじーちゃんばーちゃんの中がとても良かったこともあって、かーちゃんの体も治ってさ。アタシは伸び伸びとやりたい放題好きにさせてもらったんだよな。その結果がこの不良スタイルなわけだが、別に誰かに反抗したいとかそういうわけではないし、オヤジ以外の家族との中も良好。そんな中突然いなくなったわけだし、心配はしてくれてるんだろうけどよ。ケータイもつながらねぇし、帰るすべもないってこったしな。さみしいけど仕方ねえよな。



 もの思いに耽るだなんて似合わねぇことしたなぁ、とアタシはメシを食いにギルドの食堂へと向かった。寮に入ったことも教えておかねぇとなんねぇし。



「リタちゃん、今日のお勧めひとつ!」

「ゼナナの香草焼きと黒パンよ。1シルバーと5カッパー。」

「あいよ!」



 今回はちゃんとぴったりの額のコインをテーブルの上に並べて待つ。忙しくなりつつある店内を、リタちゃんが縫うように料理を運んでいる。



「シオリ、お待ち。…お金もちょうどね。」

「ぜなな?っていうのは魚か。うまそう。」

「臭みもなくて美味しいわよ。…そういえば寮に入ったんですって?」



 既に口にたっぷり詰め込んでいたアタシは頷く。



「明日からは仕事のある日は賄いになるからね。」

「マカナイ?」

「そう、試作品とか、余り物とかがご飯よ。ってもう戻らなきゃ。」



 まだもぐもぐしているアタシに手を振ると、リタちゃんは料理運びに戻っていった。たまに伸びてくる尻への手を巧みに躱しているのをみて、アタシも避けねぇとなんねぇな、ととりとめのない事を考えているうちに食事は終わってしまった。



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