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ヤンキー娘、制服を作る。

 午睡の時間も終わったのか、ついさっきまで路上に誰もいなかったのに露店にも人が出始めている。アタシはリタちゃんと制服を買いに服屋まで出掛けることになった。というか、アタシは知らなかったんだけどよ、この辺りでは昼メシを食った後に二時間くらい昼寝の時間があるのが一般的らしい。まぁ、飯屋とかはそういうのには含まれないらしいけどな。

 ところで、ギルドでの手続きもあっさりと終わった。ただ、毎日毎日手伝うのかと思ってたんだけどよ、残念ながらそうじゃなくて週三日くらい忙しい日があって、その日に手伝いに行くらしい。まぁ、アタシとしては月区切りで報告に行きゃあ毎回依頼完遂扱いにしてくれるっていうし、実際提示していた額よりも報酬は上げてくれるとの話で損はないようだったんだよな。ギルドのお姉さんも破格の条件だ、ということを言ってたしな。


 さっきとは違った服屋に連れてかれたアタシは何故かムキムキのおっさんに胸や尻のサイズまで計られ、ぴっちり合う服を仕立てられた。というか、リタちゃんと同じ服だ。元々募集を掛けていたこともあってか、生地やらなにやらはストックして置いたとのことで、目の前でみるみるうちに服が出来上がって行く様子は圧巻だった。足踏みミシンだと思うんだけど、ごわごわ硬そうな生地でも正確に縫っていく様をポカーンと見ていたら、ムキムキのおっさんから口の中に飴玉を投げ込まれた。



「むぐっ」

「ガハハ、大口開けてっからだ。」

「飴玉、サンキューな。」

「おう。」



 そういうやりとりをしながらもおっさんの手は止まっていない。やりとりに苦笑していたリタちゃんを見ると、それに気付いた様子で言った。



「デリックさんの仕事の早さは有名なのよね。しかも品質もいいから、うちの制服やらエプロンやらは全部お任せしてるの。」

「おう、そうなんか。」

「ちなみに制服代は今月いっぱい続けて働いたら無料タダだけど、途中でやめたらギルド経由で請求が行くからね。」

「おう、そうなんか。」

「…聞いてる?」

「聞いてるぜ?」



 アタシはその鮮やかな手並みに目を奪われていた。アタシは器用な質でどちらかといえば何でもこなせるタイプなんだけどよ、あくまで目の前に参考になる人がいてそれを真似して上手くなることが多いから、その人を越えて一番になるというようなことは少ない。まぁ、勉強だけは見て真似られるわけじゃねぇから出来ないんだけどな。あ、喧嘩だけは周辺の女子で一番だったな。



「なんだ、嬢ちゃん。興味あんのか?」

「いや、すげえなって思ってよ?こんなに手早く上手く出来る人なんて見たことねえからよ。つい見惚れちまった。」

「そ、そうか。」

「…何照れてるんですか、デリックさん。」



 リタちゃんのツッコミを咳払いをして誤魔化すデリックのおっさんだったが、ちょうど出来上がった様子で糸の始末をしてアタシに服を寄越した。



「そこに着替え用の小部屋があっからよ、着替えてみろよ。動きづらかったりしたら教えな?」

「おう。」



 アタシは渡された服を抱えて小部屋へと入った。日本の服屋にあるような小部屋と同じく、鏡がぐるっと張られていたりする。すぐに着替えて顔を出すと、おっさんとリタちゃんが寄ってきて寸法などを確かめているが、二人ともうんうん、と頷いている。



「動きづらいってことはねえよ。」

「そうか、寸法もピッタリだな。じゃあ、追加で着替え分作っとくから、明日か明後日にでも取りに来い。朝一とかじゃ無ければ出来てるからよ。」

「わかったぜ。」



 リタちゃんが店につけといて、というような話をデリックさんとしている間、店の中をアタシは眺めていた。そこにあるのはアタシにしてみれば奇抜な服も多いのだが、馴染みのあるようなスカジャンのような物や、動きやすそうな綺麗なシルエットのパンツなどが見本として置いてあった。今度着替えが欲しくなったらここに買いに来よう、と思ったのだが、今度かよと言われるかも知れねぇと思ってアタシは黙って待っていた。



「シオリさん、帰ろう。」

「おうよ、別に『さん』付けなくていいぜ?こっちも好きに呼ぶからよ。」

「そ、そう?まぁいいわ。それじゃ、シオリ、帰ろう。」



 アタシ達はだらだらと喋りながらギルドへと向かっていた。ギルドまでは歩いて三十分以上は掛かるということもあってか、途中の露店でおやつを買いながらである。



「シオリはこの辺りは初めてなんだっけ?この揚げパン美味しいんだよ?」

「おお、ほんとだ、うめえ。」

「ふふっ。」

「この香りがいいよな。」

「そうなのよ、シナモンが効いてるのよね」



 そんな他愛の無い会話を続けていると、アタシ達の前に大きな影が出来た。ふと見上げると、二メートルを超える身長の、醜いヒキガエルみたいなデブのおっさんが二人のお供を連れてこちらをイヤらしい目付きで見ていた。



「リタちゃあん、随分と可愛い子連れてるじゃないのー?」

「あぁ!?」



 リタちゃんが何か言う前にアタシはガンつけを開始した。今はパンツスタイルでイマイチ格好が付かないが、防具屋で買ったレザーアーマーとやらのかっちょいいパンツだからまぁいいだろう。ポケットに手を突っ込んでズカズカと近付くと、顔を傾けて斜め下から全力で睨み付ける。



「ヒッ!?」

「なっ、なっ、お、お前、」

「あぁん?なんだコラァ。」



 隣に立っていたお供の小男がアタシに何か言いかけるも、一睨みでその先が言えなくなる。肝細すぎるだろ。



「リタちゃんをイヤらしい目で見てんじゃねぇぞ?このダボがぁ!」



 腰を抜かして後退りしだしたおっさんに呆気に取られていたリタちゃんが漸く再起動した様子でアタシの腕をそっと掴むと、後ろに引っ張った。アタシも抵抗せずにすすすっと下がる。



「さっさと逃げちゃいましょ?関わるとロクなことがないのよ。」

「おう。」



 小声でリタちゃんが囁いたので、アタシはぺっ、と道路に唾を吐いた。



「二度はねぇぞ糞ども。二度とその面見せんじゃねぇぞ。」



 アタシは啖呵を切ると、リタちゃんの手を引いてそいつらの脇をズカズカと通り過ぎた。こういう時は振り返ったら弱気と取られるんだよな、と思いながらギルドへと帰った。






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