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ヤンキー娘、戦い明けて。

 何故か真っ赤になったゼートクはそろそろ一息付けな、とアタシをそっと降ろしてくれた。少し蚊帳の外にいるような感じだったアーヴィンもニコニコしながらアタシに手を振った。あれ、そういえば、と王子様を見ると顔色を青くしてガタガタと震えている。何か御伽噺に出てきてたアーヴィン達にでもトラウマがあったのか?ゼートクの話は言葉がワカンねぇだろうから、聞こえてないだろうしな。



「おう、王子様よう。で、この始末はどうつけんだ?」

「…ここまで軍を率いてきたということは、この国を傀儡にまで落としたか既に攻め滅ぼしたかだとは思いますが。」

「そうなんか?ギルベルトのジッちゃん。」

「ええ。帝国と王国は犬猿の仲でしたからね。お嬢様に手を出すためなんて理由で軍を通過させてはくれないでしょうし、進軍してきていた情報が私の元にも来ていませんでしたからね。…近衛が移動していたのは知っていましたから、それに偽装したか何かでしょうから、最低でも協力は得ていたでしょう。」



 難しいことはワカンねぇってばよ。ジッちゃん…。王子様はアタシ達の会話で正気に戻った様子で、アタシをじっと見るとその口を開いた。



「大体察しの通りだ。お主に出逢ってから、余は元々準備していたとはいえ、帝国の実権を完全に掌握するために父王を表向きは病気静養中として何も変わらなく見せつつも隠居させ、これまでに掴んでいた情報を元に王国の王族を支配下に置いて実質属国化を果たした。これに一月余り掛けてしまったのだが、それから近衛軍の旅装を得てここに向かったのだ。演習という名目で、だ。」

「…よくワカンねぇけどよ、王子様が今は二つの国を支配してるってことか?」



 王子様はコックリと頷いた。



「…で、王子様じゃなくて王様ってことだと思うんだけどよ、さっきも言ったけどこの始末はどうつけんだ?」

「お主が望むなら、国でも何でも捧げよう。お主が欲しい、余の望みはそれだけだったのだ。」

「いらねえよそんなもんよぅ。」



 国だって!?メンドくせえし、会ってボコボコにしただけなのにここまでやられてもよぅ…。どーすんだよ、と思って頭を抱えていると、アーヴィンが溜息と共に呟いた。



『ある意味とても純粋なんだでな、この坊主。』

『欲しい女を手に入れるために国まで盗った根性は認めてやってもいいな。』



 そんな感想が聞こえる中、ギルベルトのジッちゃんからはゴゴゴ、と何やら闘気の様なものが立ち昇るのが見えた、と思ったら物凄い勢いで動き、ガシッと王子様の頭を掴み上げた。…首、抜けちまわねえか?頭も潰しそうな勢いだけどよ。



「お嬢様に迫ろうなど、十年早いぞ小童…!俺たちを超えられない男にお嬢様はやれん!!出直してこい!!!」

「…そんなこと言ったらお嬢様は私達が死ぬ迄結婚出来なくなっちゃうぞ、少しくらいハードル下げてあげなよギルベルト…。」



 ジッちゃんが俺って…とアタシが呆れていると、四つ足はもういいと思ったのかさささ、と移動して家の中に連れて行ってくれた。


 玄関には燕尾服でビシッと決めたアトルと、ちょっと心配そうな顔をしているリドリーが待っていた。…ゴードンはマシューのジッちゃんに言われてあちこち後片付けをしているらしい。アタシは腕が取れたりしてくっつけたとかそういう事情をリドリーに説明した後、風呂に連れて行ってもらったり着替えを手伝ってもらったりして、ジッちゃん達を放置してさっさと寝た。

 翌朝、アタシが目を覚ますと、アーヴィンとゼートクはまだ訓練場に居た。四つ足が頑張って糸を張ってハンモックを作ってくれてそれに寝たらしい。



「で、王子様はなんでアタシと一緒に飯食ってんだ?」

「し、執事殿が今回くらいはここまで来たことに免じて、朝食くらいは許してやろう、と。マシュー殿の執り成しがあったのでな。」

「ふーん。まぁいいけどよ。」



 アタシがご飯をパクついていると、王子様はガバリ、と頭を下げた。



「強硬すぎる手段に出てしまったことを謝罪させて欲しい。…昨日言ったように、余はお主に国を捧げたいと思う。」

「シャザイは受け入れるけどよ、国はいらねえってばよ、メンドくせえ。」

「そ、それならば面倒のない様、実際の運営は余やその配下が行う。」

「だからよぅ、国貰ったって何すりゃあいいんだよ。国を貰ってもやって欲しいことも何もねえしよ、意味ねえんだってばよ。」

「い、意味が、無い…。」



 王子様は何やら考えている様子であったが、手と口はテキパキと食事を口に運んでる。うむ、食いモンを粗末にはしねえみてえだな、コイツ。



「まあいいから、王様になったんだろ?国に帰ってもっと良い国にすりゃあいいじゃねえか。…それに、教会に謝って攻められねえようにしろよ。キョーコー様帝国なんて滅ぼしてやるとか言ってたらしいぞ?あと、この街の冒険者ギルドのみんなにも謝っとけよ。」

「む、わ、わかった。」



 王子様はその後、ダージのジッちゃんとか冒険者ギルドのみんなに謝って、部下を引き連れて帰っていった。アタシはしばらく家の温泉に浸かってゆっくりする事にして、一月余りの間のんびりしてたんだけどよ…。ずっとのんびりしなきゃならなくなったのは王子様のせいだ。

 なんとあの野郎、帝国と王国を統一国家にするとか宣言して、アタシを国で一番偉い国母とやらに指定しやがったんだ。それは国内のすべての街にアタシの絵姿と共に立看板で通知されてよ、迂闊に狩りに行ったりとか遊びに行ったり出来なくなっちまったんだ…。だってよ、行く先行く先で国母様、ってキラキラした目で見られるんだぜ?堪ったもんじゃねえよ。盗賊共ですらアタシを見たら逃げ出す始末だしよ、カツアゲしてストレスの発散すら出来やしねえ。ダージのジッちゃんとか訪ねてきたキョーコー様はこれが当然の扱いですとか言ってるけどよ…。



 ああもう!どうしてこうなった!?アタシはただのヤンキーだったのによ!!!



これで完結となります。ありがとうございました。一時間後におまけを一話投稿しますけと。

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