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ヤンキー娘、撤収する。

「ところでさ、何でペイルサックと二人なんだ?」

「王国の兵士がちょうど踏み込んできた時にじゃの、その、ペイルサックがわしに詩織様との恋路の相談に来とったんじゃ。」

「じじい!!」



 アタシが笑おうとして痛みに引き攣った様子を見せたところで、ライナスがアタシの鎧をやめた様子で痛みがスッと引いた。サンキュー、とヘアピンを撫でるといえいえ、という返事が返ってきた。ファンクラブの連中の下敷きになっているペイルサックが誤解だとか何だとかもがいているのにダージのジッちゃんがお茶目な笑顔を向けた。



「…冗談じゃ。実際はペイルサックにはファンクラブの活動で一緒になるよしみでの、この近辺の情報収集に対して報酬を払ってお願いしとったんじゃ。その報告に来てたんじゃよ。」

「じじい、最初からちゃんと言えよそういうことは…。変に思われるだろ…。」

「場を和ませようと思っての。そんでの、ついでに防衛戦に参加してもらってのう。ケリがついたところでこっちも襲われとるって情報が来たんでの、慌てて来た次第じゃ。」



 がくり、と倒れ伏したペイルサックの頭を撫でてやると、頬を少し赤らめた。カワイイよな、こいつ。



「他の教会はヘーキなのか?」

「うちは聖堂騎士団が各地にあるからの。近衛騎士団やら帝国の一部隊が敵うようなヤワな鍛え方はしとらんから、一蹴しただの被害はあっても撃退しただのいう報告が上がっておるんじゃ。教皇様なんぞ、逆に全勢力をあげて帝国を滅ぼそうだの息巻いてて周りが苦労してるくらいじゃからのう。」

「…あんな疲れてる感じなのによ、デージョブなんかキョーコー様はよ。」



 大丈夫大丈夫、とダージのジッちゃんが手を振ったところで、アーヴィンが網に捕らえていた部隊の個々の捕縛も完了した様子でその場が一息ついた。アネゴ、椅子です。と差し出された椅子にアタシは一度座ると、ライナスから腕をくっつけて貰えるように骨折した時のように腕を吊って固定して貰った。みんな誰がアタシに触るかとか喧嘩してる間にリタちゃんと親爺さんがさっさと吊ってくれ、リタちゃんはアタシの顔とか無事だった方の腕とかを綺麗に濡れ布巾で拭ってくれた。



「さすがに腕がちゃんとくっついて、リハビリが終わるまでは仕事休みな、シオリ。…ほらおめえらもシオリんとこ押しかけて迷惑とか掛けんなよ!?」

「どれどれ?じゃああたしが送っていこうかしらん。」



 親爺さんからお休みの指令を貰い、モール姉がアタシを立たせてくれると四つ足にアタシを座らせてくれた。そういえば一番揺れないのは四つ足君の上だっけね、とか言いながら。



「四つ足、レイル、帰ろうか。」

『シュ!』

『に゛ゃっ』



 アタシがよっこらしょと鞍に片手で捕まると、四つ足は何を思ったのか王子様に糸を飛ばしてぐるぐる巻きにすると、そのまま引き摺ったまま猛烈に走り出した。太い悲鳴が聞こえて来る気もすんだけどよ、誰が命令しているのかが分かっている四つ足の殺さない程度の嫌がらせなんだろうな。背後からは大爆笑が聞こえてきてるしよ。



「ジッちゃん…?」



 家に着いたアタシを待っていたのは、門前で地面に剣を突き刺して仁王立ちしているギルベルトのジッちゃんと、何やら物凄くたくさんいるチビっちょいゴーレムに指示を出しているマシューのジッちゃんだった。ギルベルトのジッちゃんの後ろと、家の周りの塀の外にはうず高くボロボロになって死んでいるのか気絶しているのかよくわからない兵士たちが積まれている。下の方、重みで死ぬんじゃねえ?…家の奥の庭の方からもチビっちょいゴーレムがえっさほいさといった感じで次々と兵士を引き摺ったり担いだりして来ているところをみると、全方位から攻められたのだろうか。ギルベルトのジッちゃんはパッと手品のように剣を虚空に消し去ると、恭しくアタシに一礼した。



「お帰りなさいませ、お嬢様。今、アトルにお茶の準備をさせております。中に入ってお寛ぎくださいませ。」

「…な、何だと…!連隊二つは注ぎ込んだはず…!」



 ギルベルトのジッちゃんが哀れげな表情で王子様を覗き込む。フッ、という失笑にも似た感じでアタシを見上げた。



「お嬢様、これはなんでしょうか。ゴミであればマシューに言ってチリも残さず焼いてしまいますが…。」

「くっ…。」



 アタシは苦笑すると、違う違うと手を振った。



「これでも隣国の第一王子なんだとさ。四つ足が連れて来ちまったから、事情でも聞こうと思ってよ。」

「…ほう、これが。帝国からここまで軍を進めた事は評価に値しますが、相手の戦力を正確に分析できないなど『常勝』とか『希代の戦術家』とかいう二つ名は過大評価だったようですなぁ。」

「言ってやるなよ、ギルベルト。誰がただの執事が他の大陸の勇者だなんて思うんだよ。」



 いつの間にかアタシの側に来ていたマシューのジッちゃんの言葉に、ギルベルトのジッちゃんに弄られてぐぬぬ、といった表情をしていた王子様が驚愕に目を見開いた。勇者がどうとかはともかく、弟子もとってたくらいだしよ、強さの想像くれえはついてもおかしくなさそうなもんだけどよ。…ジッちゃんが歳食ったからって甘く見たんだろうな。



「ゆ、勇者だと…。」

「それにねぇ、お嬢様の後ろから今もついてきてる巨人がいるだろう?君の所にも巨人が一人居たようだけどさ、相手が悪いよ。魔風のアーヴィンに豪雷のゼートク。御伽噺に聞いた事はないかい?」

「な、何、何を言っているんだ…。あ、アレはただの…。」



 マシューのジッちゃんが人の悪い笑顔を浮かべると、ニヤリとしながらアーヴィンとゼートクを指差した。いつもは本当ニコニコしてて好々爺って感じなのによ、こういう時はホント悪党ヅラなんだよなぁ。そんな事を考えていたら、ゼートクに四つ足ごとアタシは持ち上げられていた。



「御伽噺だと思ったかい? 彼らはあれでも三千年くらいは生きてる。こっちの大陸にも彼らの話が伝わっていたのはびっくりしたけれど、彼らから聞いた話からすれば、多少勧善懲悪はっきりとさせられ過ぎているところはあっても御伽噺ではなくて事実だしね。彼らの争いで割れた大陸の片方に彼らが残ったからこれまでこっちには居なかったんだけど、数十年前に僕らが彼らの王を討ったから、彼らは喧嘩出来る場所を探してこっちに来ちゃったんだよねぇ。」



 しれっと俺ら2人も強えんだぜ舐めてんのかアピールをしているマシューのジッちゃんをスルーして、アタシはゼートクを見上げた。



「すげえな、ゼートク達大陸割ったのか?」

『おう、一人で割った訳じゃあねえけどな。お前さんたちのいう俺たち巨人達が戦ってて、全力の魔法やら剣撃やらが集中したのをアーヴィンがしれっと逸らしちまったんだよな。それが俺の方に来ちまったからから、こっちに寄こすなってそれを俺の超必殺技で地面に叩きつけたらよ、元々一つの大陸っつったってこう、細く繋がってたところだったからよ、そこが跡形も無く何キロも抉れちまうし、海から水が流れ込んでくるしよ…。気がついたら結構広く水没したんじゃねえか?そこら辺は何百年も渦潮みたいのが出来ててよ、船も通れなかったしな。』

「へえええ!」

『それよりも、シオリよぅ、体は大丈夫か?』



 すげえ話を聞いて興奮するアタシを、ゼートクは心配そうに顔を曇らせる。そんなことよりもちゃんと礼を言わなくっちゃだぜ。



「大丈夫、大丈夫。こんなん食って寝てりゃあくっつくさ。それよりも、アタシの為に戦ってくれてありがとな?」

『ん、んお!?と、友達の親友マブダチは俺の親友マブダチだからな!そんなの当たり前だ!』



 アタシはその言葉に破顔した。だって嬉しいじゃねえかよ。マブダチだなんてよ!












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