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ヤンキー娘、仕事を貰う。

話中で国と首都の名前を間違ってますが、それは演出です。作者が間違えて覚えているわけではありません。(この先こういうのが幾つか出てきますが、予めご了承下さい。)


「…ふぬぉぉぉぉぉ…。」



 窓から差し込む光と、大きな音でひとつ鳴った鐘の音で朝になったのに気が付いた。のろのろと体を起こすと暫しどころかたっぷりぼーっとしてから脱いでいたブラをもそもそと身に付けた。…アタシ朝に弱えんだよ。

 たっぷりぼーっとした後、階段を降りて飯を食いに行くと、そこには既にたくさんの人が朝食を食べていた。アタシも親爺さんから目玉焼きと黒パンにサラダ、おまけだというスクランブルエッグを皿によそって貰い、あんがと、と礼を言ってからモリモリと食べていると、カウンターの隣の席に誰かが座った。



「隣、すまんな。」



 一瞬ぞくっとしたアタシはその素敵なバリトンボイスのした方をちろっとみた後、片手をすっと挙げて了解の意を示した。すぐに食べ終わるのは間違いないが、食べるのに集中したいのだ。メシ、ダイジ。

 食べ終わって親爺さんに皿を差し出し、カウンターに置いてあったふきんで自分の食べた所をさっと綺麗にする。と、そこで隣に座った男の腕が目に入った。…すげぇ筋肉…。毛もそんなもっさりしてねぇし、超好み。腕だけだけど。さっき見た面も精悍な感じだったから、と席を離れる時に全身をさりげなく眺めると、全身これ筋肉といった様子のマッチョマンだ。背中に背負ったデカイ剣を振り回すんだろうな。眼福、眼福。なよっとした優男より筋骨隆々の大男がいいわ、もしくはダンディーなオジ様だな。


 思ってたよりも時間は遅くねぇみたいだし、と荷物をまとめて背中に背負うと、宿のおばちゃんから地図を貰った。服屋だけでなく、雑貨屋と防具屋の場所も書いてあったのはおまけらしい。素直に礼を言ってギルドを後にした。



◇◇◇◇◇



「なんかよくわかんねぇけど、着替えとか含めて1ミスリル5プラチナか。思ったよりも金無くなるのすぐそうだな…。帰るにしたって森の中も散々歩き回ったしよ、時間かかりそうなんだよなぁ…。金稼がねぇとダメかこれ。」

「…なんだ、嬢ちゃん仕事探してたのか?」



 アタシがぼそぼそと呟いていた愚痴に、食堂の親爺さんがなんだよ、と言わんばかりに答えた。



「あー、実は家に帰る道がわかんなくてよ。小銭は持ってんだけど、黙ってたら減るだけだろ?冒険者登録はしたからなんか出来る仕事でも探さねぇとって思ってな。」

「家に帰る道がわからん、か。転送トラップにでも引っかかったのか?たまに違う大陸とかに飛ばされるってこともあるとは聞くが。」

「て、てん?よくわかんねぇけど、朝ガッコーに行こうと思って歩いてたらすっ転んでよ。街中歩いてたのに顔上げたら森の中だったんだよ。」

「ふむ、街中じゃあトラップってことはないな。ちなみに嬢ちゃんの家はどこにあるんだ?」

「ヨコハマだよ。」

「ヨコハマ?聞いたことねえ街だな。」

「じゃ、じゃあジャパンって国は聞いたことねぇ?」

「…ねぇな。ああ、俺が物を知らねえってことも可能性としてはあるけどな、若い頃は俺も冒険者としていろんな国を渡り歩いて来たからな。他大陸の辺境の小国でも無い限りは大抵知ってるぞ。」



 アタシは思わず絶句した。いくらアタシが馬鹿でも自分の国が日本だっていうのは知ってるしよ、アメリカだの中国だのモスクワとかは知ってるし。



「もしかして、嬢ちゃん迷い人か。」

「迷い人?」

「ああ、全く違う世界から稀に迷い込んでくる人達の事をそういうんだ。嬢ちゃんのように普通の人間だけでなくて、竜人だったりとかもするんだが」

「違う世界かよ…。アタシ家帰れんのかよ…。」

「まぁ、残念ながら、帰れたという話は聞いたことはないな。大抵はどこか一芸に秀でたりするらしいし、嬢ちゃんも何かしらあるんじゃねえか?それを活かせば暮らしてはいけるさ。」



 帰れない、という言葉にアタシの世界が揺らぐ。野良だったのに慣れてきて撫でさせてくれるようになったタマ、窓を開けとくと勝手に部屋に入ってきて気が付くと枕元に寝ているミケ。もうモフモフ出来ねぇだと…!

 猫たちの事を考えていたのを見て、親爺さんはアタシが落ち込んだと思ったのか慌てた様子でお茶を出してくれた。



「す、すまん。帰れないっていうのはショックだよな?まずはこれでも飲んで落ち着け。」

「…あんがと、おやっさん。」



 親爺さんはさらにちょっと引っ込むと、皿に焼き菓子を乗せて帰って来た。アタシの前にそれも置くと、カウンターの前で腕を組んだ。しばらくアタシがノロノロと菓子を食べるのを眺めていた親爺さんだったが、何かを思い出した様子でアタシの方に手を差し出した。



「嬢ちゃん、ちょっとギルドカード見せてみろ。」

「おう。」



 アタシが差し出したカードを親爺さんはじっくりと眺めてから徐に口を開いた。


「嬢ちゃんさえよければ、うちで料理人見習い兼ウェイトレスになるか?ギルドにも忙しい時期に定期的に働いてくれる人材募集の依頼を出したとこだったんでな?」

「…アタシ態度がこんなんだから接客は難しいと思うんだけどよ。」



 親爺さんは厳つい顔に笑みを浮かべた。



「嬢ちゃんには威圧もあるし、スキルを見るに腕っ節も悪くはねぇ。粉を掛けてくる馬鹿共は威圧して黙らせていい。DEXも高いから料理もすぐに身につくだろうしな。それに何より、美人だ。ちょっとくらい乱暴で言葉遣いがどうあれ、来る客は増えると見たぜ。」

「ぶっ飛ばしていいってことか?」

「ああ。冒険者ならちょっとやそっとじゃ死なんしな。」

「そうか…。」



 正直冒険者の仕事にどんな物があるのかも知らねぇんだけどな。ま、いっか。まずは当たって砕けろだ。ダメなら別のことすりゃあいいだろ。



「よっし、よくわかんねぇけど、おやっさんのとこで雇ってくれるってことだよな?」

「ああ。料理を運ぶのと、料理の下拵えが当面の仕事だな。」

「アタシ馬鹿だけど大丈夫だよな?」

「数こなして体で覚えりゃいいんだ。大丈夫だ。」

「で、いつから来りゃいい?」



 親爺さんの笑みが深まる。



「じゃあそうだな、早速明日から頼む。朝の二つ鐘の後集合で夜の最後の鐘の後、客足が一段落したら終わりで。ちっと長い時間だが、その分給料は1日5ゴールド、三食飯付き。レベルの低い依頼完遂してもシルバー単位しか貰えないからな、割はいいはずだ。」

「金のことはよくわかんねぇ。損してねぇならいいよ。」



 そういったアタシの頭を親爺さんがぐりぐりと撫でた。ちょっとうざったい気もあるが、親爺さんはいい体をしているから許す。とか思っていたら、親爺さんは調理場に向かって大声で叫んだ。



「おい、リタ!見習い決まったからちょっと前掛けとかウェイトレスの服とか準備したりギルドについて行って依頼の受理してもらってこい!」

「…わかったからそう大声で出さないで父さん。」



 おぅ、娘さんが…ってチョーカワイイ!アタシみたいな脱色した金髪じゃなくて、綺麗な金髪に緑の目。肌も真っ白だ。チェックのシャツにちょっとゴワゴワしてそうなボリュームのある膝下までのスカート。胸元のスカーフも似合っててなんちゅうんだろう、カントリーロード風?知らんがな。どきどきしながら見ていると、リタちゃんが寄って来た。



「この人がそうなの?」

「ああ、嬢ちゃん…シオリだ。」

「シオリだ。よろしくな?」

「うん、よろしくね。じゃあちゃっちゃっと行っちゃおう。…父さん、終わったらシオリさんは帰ってもいいんだよね?」

「ああ、っていうかここの宿に泊まっていたと思ったが。」

「む、一泊で泊まったからよ、しばらく泊まるっていわねぇとな。」



 アタシは出されていたお茶と菓子を平らげると、ごっそさん、と親爺さんに礼を言ってリタちゃんと連れ立ってギルドを後にした。


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