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ヤンキー娘、宣戦布告される。

 いつもの職場である冒険者ギルドの食堂にその男がやって来たのは、日も落ちて辺りが真っ暗になった頃だっただろうか。アタシがその男に気付いたのは、何を食べようか、と食べている連中の手元辺りを見渡すんじゃなく、人を探すかのようにキョロキョロしたのが目に留まったからだった。それなりの地位がありそうな40代前半の髭を蓄えたおっさんなんだけど。



「いらっしゃい。誰か探してんのか?」

「お、おう。探してるんだが、見つからないほうがいいっていうかな。」

「あん?よくわかんねぇな。まぁ、何か飲み食いするなら空いてる席に座んな。今日のオススメはケロロ鳥のステーキにサラダと黒パンがセットになった定食、銀貨2枚だ。ケモホロロ鳥のソテーなら銀貨1枚と銅貨5枚だけど?」



 アタシの愛想笑い付きのセールストークに、あーすまん、と目を伏せて一瞬考えるような仕草をして、仕事を先にさせて貰うと呟くと荷物から書類を取り出して掲げるように読み上げた。



「あー、ベレンデティ王国からの布告を通知する。ユーレディス帝国からの求めにより、シオリ・イイノの身柄を確保して王都まで連行せよ。本人が従わない場合には怪我程度であればさせても構わないが、殺してはならない。彼女を組織として隠匿した場合、その組織は国家に対しての反逆を侵したとしてのちに処分される。以上。」



 食堂が一斉に沈黙した。アタシが口を開こうとしたところで、周りに座っていたファンクラブの連中が本気を出したのか一瞬で口を押さえられてバケツリレーのように店の奥にアタシは運ばれた。何しやがんだ!と言う前に、いつの間にか側にいたジャレットが口の前に人差し指を一本立てた。

 アタシが連行されていくのと同時にリタちゃんも同様に奥に引っ込められていた様子で、二人一緒なら揉め事から単に遠ざけただけとも取られやす、とジャレットがひそひそっと耳打ちしてきた。おっさんの近くにいたコワモテの冒険者がふらり、と立ち上がると無造作に近寄ったのが見えた。



「…アンタァ、誰だい?」

「私か?ベレンデティ王国近衛騎士団第一師団長を務めている、カニングという。」

「ヘェ、近衛騎士団の師団長さまですかい。そんな人がそれを告げるだけの為にこんなトコまでおいでなすったんですかい?」

「ああ、かなりの実力者という話を聞いているのでね。それと、私だけじゃなくて外にはウチの連隊も連れて来てるんだがね。」



 ざわり。食堂内が一瞬ざわついたが、また急に静かになった。食堂で飯を食い終わっていた数人がギルドの宿へと引き上げ、入り口の外に数人が出て行ってすぐに戻って来た。ジャレットからは小さく舌打ちが聞こえて来る。どうやら宿にいる連中はともかく、外に応援は呼べない様子でやすね、と小さな声でアタシに囁いた。てか、レンタイって何だよ。愚連隊の事か?



「で、ここに勤めてるって聞いたんだがね。先程の二人のお嬢さん達のどちらかかい?」

「…冒険者ギルドには話は通ってんですかい?旦那。」

「勿論先に話してるさ。隠しも守りもしないが、連行もしないから勝手に探して勝手に連れてけってことだったんだがね。」



 カニングのその言葉に、やっぱりなぁ、という言葉が幾つか上がった。…そうだよなぁ、ヘレネさんもそう言ってたからな、こうなりゃそうなるわけだぜ。みんなに迷惑掛けてらんねぇしなぁ、とアタシが立ち上がろうとすると、ジャレットを含めた周りの男たちがアタシをどうにか押さえつけようと集って被さって来やがったが、アタシはホイホイと相撲の座布団飛ばしの様に引き剥がして辺りに放り投げ、立ち上がると更に何人かを引き摺りながらカニングの元に出る。



「アタシが飯野詩織だけどよ。」

「ああ、やっぱり君がそうなのかい。で、ご同行願えるのか、な?」

「まず表に出ろや。話はそれからだ、オッサン。」



 アタシの威圧に気圧されたのか、カニングからは、ぐっ、と声が漏れたのが聞こえた。それでも何とか耐えた様子でアタシの肩をそっと押して外に出るように促して来た。何だよ、随分と気安いじゃねえか。

 アタシが素直に外に出ると、ギルドの前にはずらりと整列したフルプレートのおっさん共と、それを遠巻きに眺める冒険者のおっちゃんや若え坊主達が見える。裏口の方にも人が回っていたのか、合図と共にバタバタと走って戻ってくる一群も見えていた。それにしても随分と数がいやがるんだなァ、おい。



「で、これからどうすんだよ。アタシにもどっかに行くなら言っておかなきゃならねぇ人達くれえはいるんだけどよ、そんくらいの時間は当然くれんだろう?」

「その必要はない。こちらでも多少は調べさせて貰ったんでな、今人をやってるところだ。気にせず王都に向かってくれればいい。」

「あん?人を勝手に呼びつけておいてなんだその言い草はよ。」



 アタシがカニングを睨みつけると、周りの兵隊たちがざわついて一部が剣を抜いたのが見えた。アタシらの後からぞろぞろと外に出てきていた冒険者のおっちゃん達がそれに反応し、その兵士たちを抑えに回っていく。



「おいおい、やめろお前ら。勝手に剣を抜くな。 …それに冒険者連中も控えてくれませんかね。このままじゃあ反逆者として処分せざるを得なくなっちまうんでね。」

「先に勝手に剣を抜いたのはそっちだろうがよ。先に手を出しておいて守るために動いたら反逆者だと?これだからいけすかねえってんだ。」



 声を荒げたのはあれだ、坊ちゃんとこの兵隊だったやつじゃねえか?名前出て来ねえけど…。まぁ、街中じゃあちょっと広いからって言っても街のみんなに迷惑掛かりそうなんだけどよ、冒険者のみんなに手を出すってんならこっちも手加減してらんねえからなぁ。



「で、アタシは建物壊されちゃあクビになっちまうから外に出ただけなんだけどよ、カニングのおっさん。」

「おっさ…まぁ、10台の女の子にとっちゃあ40越えてりゃオッサンか…。地味に傷付くぜ…。」

「そんなのどうでもいいだろ、オッサンよぅ。ところで、アタシはペルエステ教会からは聖女認定とやらをされてるわけなんだけどよ、教会にちゃんと話通したか?」

「当然、断られたさ。今現在、帝国と王国の2つの軍隊が各地の教会を制圧しに掛ってるはz」



 途端に顔色が悪くなったカニングのおっさんは渋々、といった感じで口を開いたが、アタシは最初の少しを聞いただけで即座におっさんを殴り飛ばした。アタシとしてはぶち殺す勢いで殴りつけたはずだったんだけどよ、カニングのおっさんは威力を逃がして最低限のダメージで切り抜けた様子で、剣を抜き打ちざまアタシの伸びた腕に振り上げてきた。その剣はそんな不利な状況であったにも関わらず鋭く、アタシの愛用の籠手の一部を斬り裂いた。

 カニングのおっさんは飛びずさって体勢を整えると、アタシの追撃を躱しながら要所要所で剣を合わせてはアタシに少しずつ手傷を負わせていく。力やスピードで負ける気はしねえけど、ギルベルトのジッちゃんみたいな技巧派っぽい。四つ足やレイルが影から少しずつアタシが有利になるようにアシストしようと動き出しているのが見える。



「てめえら、見た、通り、抵抗が、確認されて、いる。各自対処せよ!」



 カニングのおっさんのその言葉で動いたのは兵隊たちだけでは無く、冒険者のみんなも同様だった。街に散らばっていた連中も呼び戻されたのか、徐々に冒険者達の人数が増えていき、兵隊達は一人また一人と無力化されてってる様子が目の端に映っている。四つ足の糸とレイルの風のマホーのアシストでカニングのおっさんを追い詰めてもう少しだ、と思ったところで状況は一変することになった。街の外から今までいたのとは別のフルプレート装備の騎馬の軍隊が雪崩れ込んで来やがったのだ。


 その中には一人の巨人の姿も混じっていたため、アタシは秘密兵器を使ってアーヴィン達を呼び出すことにして、四つ足とレイルに時間を稼いで貰った。二匹は上手く糸とマホーを使って遠距離からカニングを牽制してくれている。



「アーヴィン、ゼートク、頼むぜ!」

『おうよぅ!出番かいお嬢!!!』

『出番だで、ゼートク!』



 街の外にどんっ、と現れたアーヴィン達…主にゼートクが雄叫びを上げて巨人に突撃していった。巨大な斧を振り回し、直線上にいた兵士たちをバリバリと踏み潰してしまっていたが、まぁ仕方ないんじゃねえかな。アーヴィンはマホーで何かしようとしていた相手方の巨人の動きを留めている。後は任せるか、とカニングのおっさんの方を振り返ると、そこにはもう一人、今度は両手剣を振り回す女性が増えて四つ足とレイルを圧倒し始めているのが見え、アタシは慌てて間に割り込んだ。











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