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ヤンキー娘、街に帰る。

 途中で吹雪が酷く、半日ほどのんびり村に逗留したこと以外、帰りの行程では何事も無くアタシ達はゼールの街まで帰ってきた。…帰ってきたら一面銀世界というか、膝丈くらいまでしっかり積もってたのにはちょっと驚いたけどな。



「あら、おかえりなさいシオリ。道中何も無かった?」

「何もって、街の警備隊の人間と冒険者の一群に襲われたくれえじゃねえか?四つ足とレイルが瞬殺してたけどよ。」

「…ほら、冒険者証と完了札を出しなさい?」



 何事も無かったかのようにスルーしたヘレネさんがいつものようににゅっと突き出した手に、お土産のロウソクを乗せた。ヘレネさん向けのはアレだ、ぶっとくて長時間いけるやつ。リラックス効果があるとか何とかって言ってたけどよ、よくわかんねえ。



「あら、ありがと。…火も灯してないのに結構いい匂いするわね。…ふうん、ロールドの香り。あとで使わせて貰うわね。」

「リラックス効果があるとか何とか言ってたぜ?」

「ロールドはそういう効果のある薬草だわね、確かに。たまに採取依頼も出てるわよ?まぁ、単純にいい匂いだから、依頼がなくても採って来て使ってる女性は多いわね。」

「へえ、この辺でも生えてんのか?」

「ええ、東の森の奥の方だけどね。群生地があるって聞いたことがあるわよ。…って忘れるところだったわ、冒険者証と完了札。」



 アタシはへへー、とダージのジッちゃんから貰った完了札と冒険者証を乗せた。ヘレネさんはさっそく機械に両方とも突っ込むと、ふむふむ頷いている。



「いい感じに道中雑魚も倒してたのね。さすがにBランクに上がったばかりだから暫くランクの変動は起きないと思うけれど、これからもしっかりポイント稼ぐのよ?」

「お、おう、っていうかよ、明日っからまた酒場の仕事だからよ。暫く稼ぎになんか行かねえよ。」



 アタシの言葉にヘレネさんは悩ましげな顔をすると、腕を組んで唸った。



「…ここまでくるとランク上げちゃった方がいいのよね。聞き及んでるシオリの実力があればAランクどころかSランクもきっと狙えると思うのよ。四つ足君やレイルも大きくなってくれば高ランクのモンスターとしてサポートしてくれるだろうし。」

「ランク上げたからってなんか得でもあんの?」



 な、なんかジト目で見られているような…。



「最初に説明したと思うんだけど、ランクが上がれば上がるほど、何かあった時に冒険者ギルドから守ってもらえる可能性が高くなるのよ。ランクと貢献度が高ければ引退した時に冒険者ギルドから毎月年金も出るし。まぁ、ランクが高くなりすぎると有事の時に戦力としてカウントされて指名依頼が来ちゃったりもするんだけどね。」

「充分に稼げるんならランク上げない方が縛りがなくていいんじゃねえの?」

「…シオリは自分が色々と巻き込まれる体質だってわかってるかしら?」



 アタシはとりあえずこっちの世界に来てからの事を思い出してみた。



「…いい出会いも多かったしよ、事件とかには別に巻き込まれたりはしてねえし、そんな気にするほどそんな体質とかじゃねえ気がするんだけどよ。」

「ユーレディス帝国の王子様をぶん殴った話、聞いたわよ?今となっては何ともないけど、デニゼンツの坊っちゃまにも喧嘩売られてたと思ったけど?」

「坊ちゃんはしょうがねえだろ、リタちゃんに絡みやがったんだし。…王子様とやらもいきなり嫁になれとか言うからだしよ。」

「玉の輿に乗るっていう考えは無かったのかしら? …ランクBじゃさすがに帝国からの引き渡し要求はギルドじゃ勝手に探して連れてけって言われるだけよ?…独立独歩を保つって言っても国と些事まで対立する必要はないって考えもあるから。」

「フーン。」

「ちゃんと考えなさいよ?」

「…わーったよ、考えるだけは考えとく。」



 アタシはちょっと心配そうにしているヘレネさんに手を振ると、食堂へと向かった。…守ってもらうとかそんな事態になるとか想像もつかねえな。心配してくれんのはチョー嬉しいけどよ?



「…いつもと変わんねーな。ちょっとお客が少ねえくれえか。」

「おう、シオリ。帰ってたのか?」

「おやっさん、ただいま。さっき帰って来たってところだよ。」

「そうか、おかえり。2、3日休んだらまた頼むぜ?」

「明日っから来るぜ?」

「1週間は旅路だったんだろ?途中からは雪道だっただろうし、少しは休みな。若ぇったって疲れは蓄積するもんだからな。」

「そうよ、少しは休んでからでいいのよ?おかえりなさい、シオリ。」



 腕を組んで、まるで親のように話す親爺さんの後ろから、リタちゃんがひょっこりと顔を出した。いつもの制服で、今日は綺麗な金髪をポニーテールに…うむ、今日もカワイイ。



「ただいま、リタちゃん。お土産あるよー。」

「え?本当!?」

「おやっさん、今渡しちゃっていい?」

「ああ。どうせ今暇だからな。構わんぞ。」



 嬉しそうにしているリタちゃんに、いい香りのする石鹸とロウソクのセットを渡した。…こっちの世界じゃ、石鹸をあげたからってお前は臭い、これでも使って綺麗にしろなんては取られないだろうしな。気の利いた包装なんかはねえけど、まあいいだろ。細けえことは気にすんな、ってな。



「ありがと!使わせてもらうね。それにしてもいい香りね。」

「そうだろ?ヴェール姉がカオリモのいい店知っててよ。2人で見に行ったんだ。」

「高くなかった?」

「いんや、普通の石鹸にちょっと上乗せしたくれえだったと思ったぜ。そこの店で作ってるらしくてよ、ハーブ入れてる割には安く買えたんだ。」

「そうなんだ、こっちにもそういう店があればいいのにねー。」

「ヴェール姉とかも結構買いだめしてたぜ?…アタシも結構買ったけどよ。」

「ヴェールさん冒険者だけど結構いい匂いさせてるものね。」



 リタちゃんをニコニコ見ていた親爺さんにはカオリモで売ってた地酒っぽいやつをお土産に、と取り出した。俺にもあんのか?というような顔をしてたけどよ、当たり前じゃん。この世界に来てどうしようか悩んだ時に助けてくれたのは親爺さんだからな。



「別に土産なんていいんだがな。元気に帰って来てくれさえすりゃあ、みんな嬉しいんだからよ。」

「そうよね。」

「でもよぅ、せっかく遠出したんだからよ、なんか空気が感じられるものかこっちじゃあまり手に入らねえものとか土産にもって帰りたいもんじゃん?モール姉とかから偶に貰うと結構嬉しくてよ、アタシもしてえなって思ってたんだよ。」

「そうか。…気持ちは分からなくもねえけどな。」

「ふふっ。」



 3日後から出勤する、ということに決めて、アタシは久しぶりの我が家に帰ることにした。










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