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ヤンキー娘、石鹸を買う。

 がやがやと騒がしい夕暮れの街中を、ヴェール姉と2人でだべりながら歩く。四つ足とレイルは隠密行動プレイ中らしく、姿を隠しながらついて行くって言ってたな。ギルベルトのジッちゃんとかマシューのジッちゃんが色々仕込んでくれてるんだけどよ、2匹とも楽しそうなのがいいんだよな。

 ヴェール姉のオススメのお茶屋さんは露店とか店が沢山ある所にあるらしく、買い物途中で喉が渇いてた時に見つけたんだそうだ。



「買い物途中、で思い出したんだけどよ、折角風呂で教えてもらったし石鹸買いに行こうぜ。」

「そうねー。店が変わって無ければ行く途中にあると思うしー、私も補充しとこうかなー。」



 笑顔でそう返してくれたヴェール姉の腕を取ってさっと引き寄せた。



「んー?あー、ありがとねー。」

「いやいや。」



 急に立ち止まった、前から来たとっぽい兄ちゃんにぶつかりそうになってたんだよな。前から来たのに避けずに急に止まったらぶつかるじゃんか。アタシは兄ちゃんに一瞥をくれて通り過ぎた。…一々面倒そうなのに喧嘩売ってらんねえしよ、妙に上等なおべべ着てやがんし。

 ゼールの街の女性陣へのお土産にもしようぜとか話しながら石鹸の店の前に行くと、一応まだ店は潰れていなかった様子で、開いたドアから石鹸のいい香りが漂っていた。



「これ、知ってる香りだな。ラベンダーだっけか。」

「こっちのもいいよー。」

「おう。」



 アタシ達があれがいいこれがいい、と話していると、店主らしい女性が石鹸だけじゃなくて、いい香りのする香水もありますよ、と勧めてくれた。何故かヴェール姉はアタシに香水は要らないんじゃないー?と話してくれたんだけど。なんでだろな。

 気に入ったお肌に良くていい香りのする石鹸をたっぷりと買い込み、お土産に石鹸だけじゃなくいい香りのするロウソクも買い込んで外に出たアタシを待っていたのは、さっきのとっぽい兄ちゃんだった。周りには護衛だろうか、フルプレートのおっさん達が何人も立っている。



「お主、余の妃にならぬか?」

「ハァ?」



 いきなり何言ってくれてんだコイツ。…顔の造りはまあいい、冷酷そうな面構えだけどよ。背はアタシよりかは高えな。服装はさっき見た通り上等な物を着てて、一応似合ってる。別に太ったりとかはしてねえみてえだな。…でもよ、アレだ。空気が読めねえのか、デリカシーがねえっていったらいいのかだな。まず、どこの誰かもどんな奴かも知らねえし。



「もう一度言う、余のき」

「ウゼェ」

「殿下!」



 アタシはそう言い捨てると、裏拳で払い除けようと拳を繰り出した。…が、やり過ぎないよう加減してゆっくり繰り出したのが悪かったのだろうか、隣にいたフルプレートのおっさんの手が割り込んできた。



「ガッ!」

「あ?邪魔すんじゃねーよ。断りの返事だろうがなんだろうが人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるっていうだろ?」



 手を打ち払われて痛みを堪えるおっさんの同僚らしき男達がゾロゾロとアタシらの周りを囲むと、剣を抜き放ってこっちを威嚇する。もう完璧敵扱いされてるような気がすんだけど、人通りの多い往来で剣を抜くとか何考えてんだよ。周りにいた人達はすささ、と移動して遠巻きにアタシらを囲んでる。



「やるってんのか?」

「…やれ。多少の怪我は構わん、連れ帰れ。」

「上等だよ、その喧嘩買ってやんよ。後悔すんなよ!」



 アタシはニヤリと笑みを浮かべると、まずはそう言い放ったおっさんを蹴倒してから周りも見ずに荊の剣を抜きざま回転しながら振り回した。…ヴェール姉は気が付いたらフルプレートのおっさん達の外側でとっぽい兄ちゃんに向かってるな。四つ足とレイルは今回傍観を決め込むつもりなのか、動く気配なし。



「な、なんっ!」「ウワァッ!」



 両断するつもりじゃなくて当てるだけのつもりで振り回した荊の剣の能力がバッチリ発動し、フルプレートのおっさん達ほぼ全員を荊で無力化にセーコーした。残ってるのは蹴倒されたおっさんと、デンカとやらの隣を離れなかったワカモノが1人だけど、ワカモノはあっさりとヴェール姉に剣を飛ばされてこれまた蹴倒されて動けない様踏まれていた。さすが仕事はえーな、ヴェール姉。

 アタシは蹴倒したおっさんのアゴを踵で死なない程度にガッと蹴ると、デンカとやらを睨み付けた。



「クッ…。」

「おうおぅ、とっぽい兄ちゃんよぅ、舐めた真似してくれたじゃねえか。」

「…舐めた真似とは何だ。余は何も指示など出してはおらぬであろう。」

「ハッ、往来で剣を抜いたのは護衛が勝手にしたことだってか?いくら護衛だからってよ、カントクセキニンってーのはオメエにあるんじゃねえのか?止めもしなかっただろうが。」

「…それはそうだが、むしろお主が余に手をあげようとしたのが問題では無いのか?」

「バーカ、口説き文句がコドモ並みなのを棚に上げて何言ってやがんだ。盗賊のほうがまだそれっぽい雰囲気を作るぜ?その程度の事も出来ずに何言ってやがんだ。」



 肩を竦めてヴェール姉の方を見やると、ヴェール姉もそうよねー、あれはないと思うーと苦笑している。デンカとやらはそれまでポーカーフェイスっぽい感じだったのに、よっぽど恥ずかしかったのだろうか少し顔に赤みが差し、プルプルと何かを我慢しているかのような状態になっている。



「それに自分の事をヨとか言っちまってよ、えれえ身分なら声さえ掛ければ誰でもハイハイいうとか思っちまってんのか?」

「…余は隣国の第一王子であるが、さすがに他所の国で誰でも是というなどそこまで思い上がってはおらん。確かに余にも精進の足らぬところは多々あるのであろう、今日はこれで引かせてもらう。」



 踵を返そうとする殿下の腹をアタシは問答無用で殴ってやった。…ちゃんと加減してやったからよ、吹っ飛ばずにくの字に身体を折って胃液を吐いた程度で済んでるな。つーか、アンタ踵を返すって護衛達はどーすんだよ。放置か?



「バーカ、喧嘩売っておいて無傷で帰れるとか思ってんじゃねえよ。何がこれで引かせてもらう、だ。隣国の王子だかなんだか知らねえけどよ、十分思い上がってんじゃねえか。身分を嵩に変な事しやがったらこの程度じゃ済まさねえぞ?」



 フルフルと震えて腹を抑えながらもアタシを強い目で見上げて来る殿下を覗き込んでニヤリ、と笑うと、アタシは何見てやがんだ!と野次馬を追っ払いながらヴェール姉とお茶屋さんへと向かった。…だってよ、せっかく来たのにあんなヤツの為に取り止めにすんのもつまらねえじゃん?


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