ヤンキー娘、教皇に会う。
その後は何事も無く、たまにまた酒場で絡まれてはどついてカツアゲしたくらいで無事にカオリモの街まで到着した。カツアゲすんな、ってダージのジッちゃんから言われっかな?と思ったんだけどよ、目撃された時に、別に金を出せっては言ってないし相手が許して欲しいと差し出す分にはお布施だと思えばいい、聖女様から有難いお説教を受けてるんだから当たり前とかなんか斜め上の言葉が返って来たんだよな…。ごめんなさいくらい言えねえのかとか確かにほぼ毎回言ってるけど、それって説教なのか…?
「帰りは3日後の朝一になりますのでの、皆様英気を養っておいてくだされ。ささ、詩織様、お疲れでしょうが面倒な仕事を済ませるのは如何ですかの?」
「…そうだな、終わらせちまったほうがいいよな。」
ある意味アタシに付き合わされているヴェール姉も一緒にダージのジッちゃんについて行く。街中は石造の建物が多くて、しかも3階建で路地が狭いみたいな感じで、馬車こそ通れるものの歩行者が避けないと危ない様な感じなんだけどよ、御者をしている教会のごついおっちゃんはたまに気付かない歩行者も上手く避けてスイスイと馬車を走らせているのが馬車の中の小窓から見えた。ちなみに四つ足は馬車に積まれた荷物の更に上に鎮座しているんだけど、最近覚えたらしいマホーで姿を隠しているらしい。動かない時しか使えないとかなんとか言ってたけどよ。
馬車の中は意外と広くて、座席を動かして畳むとベッドになって野営の時に寝られる、とダージのジッちゃんが嬉しそうに言っていた。今は普通に座席として使っていて、レイルを肘掛けにしてアタシが一人で片側の座席を使って、反対側の座席はダージのジッちゃんと、ヴェール姉が座っている。そんな席順でいいのかよ?と聞いたんだけどよ、それでいいらしい。…まぁ、ヴェール姉も美人だし、隣に美女が座るってのはきっとジジイになっても嬉しいんだろうな。
「四つ足とー、レイルとー、御者さんとー、私はここで待ってるよー。」
「おう、ちゃちゃっと終わらせてくるぜ。…だよな?」
「そうですのう、さっさと終わらせて晩酌でもしたいところなんじゃがの、わしは教会の宿舎に泊まることになっておるからのう…。残念無念。」
「…酒の心配かよジッちゃん。」
「ウチの教会はそこまで煩く無いのでの。さすがに酒池肉林、みたいなことでもすれば問題になるがの、控えめにする分にはお咎めなしなんじゃよ。我慢しすぎても体に悪いからの。っとと、行きますかいのう。」
「おう。…四つ足とレイルもちゃんとおとなしく待ってろよ?」
『シュ!』『がおん!』
でけえ建物の中にダージのジッちゃんについて入っていくと、どうやら平屋のようで天井がとても高い事に気が付いた。天井には色彩豊かな絵が一面に描いてあって、所々が光ったりしている。アタシが不思議そうな顔をしていたのに気付いたのか、ダージのジッちゃんが色々と解説してくれた。…正直歴史とか予言とか難しいことはわかんねぇんだけどよ、光ってるのは単に明かりらしい。それよりもどうやって描いたのか気になるって言ったらよ、マホーで浮く絨毯みたいのがあって、それに乗って描いたらしい。随分昔の事だからジッちゃんは自分は描くところは見てないって言ってたけどよ。
デカイ建物だ、っては思ったけど、実際にあっちに行ってこっちに行ってと辿って行って、目的のシツムシツとやらに着いたのは30分以上経ってからだった。まぁ、解説してもらってたのもあっから止まらずに歩いたらもっと近けえんだろうけどよ。ドアをノックして、ジッちゃんが返事も待たずにバタン!と大きな音をたてて中に入っていくと、やっぱりというか、びっくりしたような顔で座っている彫りの深い顔をした、40代前半っぽく見えるオッサンがいた。…書き物してたみてえだけど、思いっきり邪魔したんじゃねえか?
「ジェヴァン二、久方ぶりじゃの。聖女様をお連れしたぞ!」
「…これはこれは、遠い所をようこそお越し下さいました。私は教皇を務めさせて頂いております、ジェヴァン二と申します。
……ノックの返事くらい待ったらどうですか、ダージ先生。」
「お、おう。飯田詩織だ。て、丁寧にあ、ありがとよ。」
随分馴れ馴れしい感じのダージのジッちゃんに驚きながらも、アタシは愛想笑いを炸裂させた。キンチョーしてっからよ、いつも通り引き攣ってるのはアイキョーだ。
「何緊張しとるんじゃ、詩織様。らしくもない。」
「うっせえよ!アタシだって少しくらいはキンチョーくらいするわ!!」
「…あの時通知されたお姿は拝見しておりましたが、本物はやはり美しいですね。」
「う、美しいとか、お、お世辞は要らねえよ。」
お世辞でも言われると照れるぜ。頬が緩んじまうけど、絶対にリップサービスだろ。
「…これはこれは、周りの男共は何をしてるんでしょうね。これだけの人をちゃんと讃えていないのでしょうか。」
「ジェヴァン二、勿論周りの男共は讃えておるとも。余りの神々しさに協定を作って変なのを近付けないようにしているくらいじゃ。」
「…変なのをってなんだ?歯が浮くようなセリフを言う奴らならたまにいるけどよ。」
「そういう奴らもそんなにしつこくはしてこないじゃろ?一度やると諭されて、二度目、三度目は警告、それ以上は袋叩きにされて近付く前にファンクラブの連中が排除してるからじゃよ。」
アタシが呆れたのに気付いたっぽく、キョーコー様が溜め息をついている。
「私もこうやって1度目を諭されているわけですね、先生から。」
「わかっとるようじゃの。わしも何を隠そうファンクラブの一員じゃからの。」
「…何やってんだよダージのジッちゃん…。」
「…ホントですよ…。確かにお美しい方ですし、常識も持たれているようですが。如何に命の精霊様の御加護を受けている聖女様とはいえ、ファンクラブに入って一喜一憂するなど、ペルエステ神殿の最高幹部なんですからもう少し控えていただかないと。」
いきなりセッキョーされてんじゃん、と思ってジッちゃんを見ると、何故かドヤ顔をして一枚のカードを懐から取り出してキョーコー様に手渡した。金色のカード?
「何言ってるんじゃ。聖女様をお守りするのは我らの大切な仕事の一部じゃろうに。どうせおぬしもすぐに詩織様にメロメロになるじゃろうから、先にファンクラブの会員証発行してもらっておいたからの。無くさぬようにの。」
「っとと、いつまでも立たせたままで申し訳ない。聖女様、そちらの椅子へどうぞ。…先生はそこで立っててください。」
そう言いながらさりげなくカードを懐にしまってんじゃねえか、キョーコー様。




