ヤンキー娘、メシを食う。
腹が減って仕方ねえ。アタシはお姉さんに指さされたカウンターに全力で移動して椅子に座るやいなやそこにいた親爺さんに声を掛けた。
「おやっさん、今日のお勧め何?安いやつね!」
「ケモホロロ鳥のソテーに黒パンだな。ソテーにはサラダが付いて1シルバーと5カッパーだ。それでいいか?」
「それで頼まぁ。すぐ食えんのか?」
親爺さんはサラダの盛られた皿にパンを添えると、どんっとアタシの前に置いた。
「前金だ。肉も今焼いてるからすぐ出せるぞ。」
アタシはまた袋からゴールドとシルバー以外のコインを5枚ずつ並べた。あ、シルバーはわかるから1枚そっと置く。
「なんだ、金使ったことねえのか?こっちはプラチナでこっちがカッパー。んで、こっちがミスリルだな。ミスリル、プラチナ、ゴールド、シルバー、カッパーの順で、カッパーが一番少額。あと一応もっと高額貨幣もあるが、まぁ、見ることも当分ねぇだろうから省略するぞ。」
「そうなのか、おやっさんありがと。」
「お、鳥も来たぞ。ほれ。」
待ってました!とニカッと笑って皿を受け取る。おっさんが釣られたのか厳つい顔が僅かに緩む。
ああ、久しぶりのめし。銀シャリじゃ無いのだけが無念だけどすげえいい匂い。
「うまそ〜!!いただっきまーす!」
アタシは一心不乱に貪った。全部食べるまで一言も喋る気にならなかった。あっという間に食べ終わって顔をあげると、厳つい顔に笑みを浮かべた親爺さんが立っていた。
「そんなにうまそうに食べてもらえるとこちらとしても作りがいがあるってもんだ。最近の若ぇ連中はやれ塩がきついだのなんだのとうるさくてよ。汗かく連中にゃあ塩は大事だってのに。嬢ちゃんがまた来た時にはちょっとおまけしてやっからな。」
「お、おう。ごっそさん。うまかったぜおやっさん。ここ泊まるつもりだからさ、よろしくな。」
こちらとしても願ったり叶ったり。めしは大事だぜ。食い終わって席を立つと、あることを思い出して一度ギルドの外へと顔を出した。
「ん、まだいた。…すっかり忘れてたわ。。。」
日も暮れ、暗くなり始めたとはいえギルドの目と鼻の先。アタシは冒険者証をひらひらと見せびらかすようにダントンのおっさんに近づいて行った。
「おう、冒険者証を無事作れたようで何よりだ。どれ、一回確認させてくれよ。」
「あいよ。」
「賞罰なし、確認っと。ほい、これで手続き終了だ。…なぁ、もうすぐ当番終わるんだが、飯でもどうだ?」
ナンパかよおっさん。
「悪りぃ、今さっき腹減り過ぎてて食っちまったんだ。また今度な。」
「そうか、そいつは残念。」
引きどころは心得てる、ってか。
アタシはおっさんに手を振ると、宿で泊まる手続きをするためにギルドへと戻る。目的の宿泊の受付には体格のいいおばちゃんが一人座っていた。声をかけようと木のカウンターに手を付くと、そこには料金が書かれている紙が貼られていた。どこのハンバーガーショップだここは。
「一人部屋一泊5シルバー朝食付き。二人〜五人部屋一泊一人4シルバーねぇ。おばちゃん、一人部屋って空いてる?」
「空いてるよ。泊まるのかい?」
「うん。」
「お金は前払い、体を拭くのにお湯が欲しければ1カッパー追加だよ。後は冒険者証見せとくれ。」
お金とともに素直に差し出した冒険者証をちらっと確認すると、おばちゃんは鍵とともに冒険者証を返してくれた。
「あんた、ここは初めてかい?」
「おう。」
「…ちゃんと窓とドアに鍵がかかってるのを確認してから寝るんだよ?辺境だからガラが悪いのも多いし、そんな格好じゃ誘ってるって思われてもしょうがないからね。」
そんな、ってそんな変な格好してっかアタシ。紺色のセーラー服。スカートはお気に入りの超ロングでスリット入り。ってこのスリットが悪いのか?コートは羽織ってるからスカートのスリットもそこまで大胆に見えはしねえはずだけどなー。
「おばちゃん、アタシの格好のどの辺がダメなんだい?」
「あんた自覚がないのかい。まずは髪はちゃんと何処か結びな。そんで胸元ももっと隠れる服を着ないと。あんたオッパイおっきいから谷間が見えちゃってるからね。一番ダメなのはスカートさ。長さはいいけどそのスリットがいただけないね。」
「そんなにかよぉ。…髪は結ぶのが普通で、もっと露出がないようにってか。今日はもう寝っけど、明日どっか近くにある安い服屋教えてくんねぇ?」
「素直なのはいいことだね。明日鍵を返してもらう時にでも地図書いてあげようか。」
「助かる。ありがとおばちゃん。」
「…女の子は用心深く。気をつけるんだよ。」
ようやく厨房からお湯を分けてもらい、部屋へと入った時にはもう外は真っ暗になっていた。重くないとはいえ嵩張る荷物を床に下ろすと、アタシはベッドに腰を掛けた。窓からは街灯の灯りがほんの少し入って来ており、部屋の中は真っ暗という程では無かった。アタシはお湯が冷める前にと服を脱いだが、体を拭くタオルがないのに気が付いた。仕方ないのでセーラー服のスカーフで体を拭うと、それを壁際に張られていた紐に干す。
「明日は着替えとかタオルとか手に入れたいもんだぁね。てか、金があるうちに家に帰れればいいんだけど。冒険者とやらの仕事をしてみるのもいいかもしんないけどなー。」
アタシはとりあえず袖卓にコインをぶちまけると、一枚一枚数え始めた。幾らか既に使った訳だけど、四人から巻き上げただけあってそれなりに額はあるかもしれない。
結果として、7ミスリル35プラチナ82ゴールド127シルバー83カッパーもあった。一泊5シルバーで、ご飯が1シルバー5カッパー。単純に倍で2シルバー10カッパー。てか、幾らで繰り上がるんだかもさっぱりわかんねぇ。でも大体二十日位はシルバーだけでも暮らせるんじゃね?と思ったんだけど。…アタシ馬鹿だからなー。明日店で適当に買い物してお釣りもらえばわかるかな?
てか、あの襲って来た奴ら、随分金持ってたんだな。ああいう奴らからカツアゲした方が早いのかもしんないけど、チンピラ締めたらヤクザが出てきた、みたいなのはヤダし。
やっぱ適当にバイトするっきゃねーのかな。
「トイレ…は同じ階の端っこだったっけか。」
アタシはさくっとトイレに行って戻ってくると、おばちゃんの忠告通りに鍵を確認してから思ったよりもふかふかしていたベッドに潜り込んで、こてんと寝た。