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ヤンキー娘、家を買う。その2。

「ふむ…」



 一見温厚そうなギルベルトのジッちゃんの目がこちらのことを値踏みするかのように眇められた。…なーんかギルベルトのジッちゃん、隠してるけど強そうな雰囲気があんだよな。背もアタシより若干低そうな感じだから、170cmくらいだろうか。服で隠れていて筋肉は見えねえけど、立ち姿が立派というか、とても高齢といったような感じじゃねえんだよな。それは園丁のマシューのジッちゃんもそうだ。



「なぁ、この訓練場によ、四つ足…イリエスタを住まわせたいと思ってんだけどよ。」

「イリエスタですか。名前があるということは従魔ですかな?」

「ああ、もふもふで可愛いヤツだぜ。今はギルドの寮の部屋で寝てんだけどよ。ギルドの人がすぐデカくなるからってよ。」

「そうですか。イリエスタが懐きますか。その他にも色々といるようで…。規格外そうですな。」

「…?」



 ギルベルトのジッちゃんは一言断ってから、アタシの体の筋肉のつき方をペタペタと触って確かめた後、頷いた。



「もし、懐具合に余裕がおありでしたら、下働きの者を二人か三人、お雇いになるか奴隷を手に入れて頂けますかな。一人はお嬢様の身の回りの世話をさせたいと思いますから、女性の方がよろしいですが。」

「ん?おう。ツテもなんもねえんだけどよ、奴隷とかどこで買うといいのか教えてくんねぇか?」

「よござんす、速やかに売買契約と我ら二人の雇用契約を結んだら、奴隷を買いに向かいましょう。奴隷市は夜に開かれることが多いですから、丁度良いかと。」



 ギルドの職員さんが驚いたような顔をした。



「決まりですか!?他のところは見なくても?」

「ここでイイよ。決まり。お金も持ってきてるからよ、早速手続き終わらしちまおうぜ。暗くなっちまう。」

「こちらとしても異存はありませんな。屋敷の現在の所有者は私、ギルベルトですので、書類は準備してあります。後はそちらのサインをしてお金を頂いたら役所と神殿に複製を保管してもらうだけです。」

「届けに行くの、頼んでもいいか?」



 ギルド職員さんが頷いたので、アタシは財布から板貨を40枚取り出した。二人分の給料は一月5ミスリルらしい。てか、アタシのウェイトレスの仕事だと月だいたい1ミスリル6プラチナくらいだったような気がするから、ウェイトレスの仕事以外に稼がないとジッちゃん達に給料払えなくなるってことかよ。今は3万以上ミスリルあっから大丈夫だけど、むーん。



「私達はもう齢70とか65とかでね。いつお迎えが来てもおかしくないから。屋敷と庭の事をこれから手に入れて連れてくる者に仕込みますから、ご心配なく。」

「んあ?金も10年以上困らないくらいたんまりあるにはあるんだ。ただアタシは心配性なところがあってよ。普段稼いでる額よりも毎月出てく金額がデカイと気になるだけなんだよ。まぁ、デージョブだ。」



 金の心配をしてたのが顔に出てたのか…気付いたマシューのジッちゃんすげえな。



「一応、ですが。庭で栽培している果樹から採れる果物は、食べる分以外は出荷しておりまして、利益があがっております。それと酒もここで造っておりまして、そちらの方が良い値段で売れてますがね。」

「へぇ、それはすげえな。果物はちょっとは食いてぇと思うけど酒のことはワカンねぇから、それはマシューのジッちゃんが

今迄通りやってくれればいいと思うぜ。いい金になるなら、そこから給料払わしてもらうかもしんねぇけどよ。」

「そうですか、それはありがたい。給料のこともそれでよろしいかと思います。賄えるくらいのアガリはありますし。」



 笑顔になったマシューのジッちゃんにつられてアタシも笑顔になる。実は『マシューズヴィタエ』という酒がマシューのジッちゃんが作ってる酒で、貴族の間で手に入らないと有名な高値で取引される逸品で、給料が賄えるどころの騒ぎじゃないことは随分後になってからわかったことなんだけどよ。



「書類をお持ちしました。内容については、敷地内の土地と建物、建物の内部にある設備や物品と、家畜の所有権を移す、ということだけのシンプルなものですが、それで充分でしょう。」

「あいよ。」



 アタシはサインをして、ギルベルトさんにお金を渡した。ギルドの職員さんはそれを見届けて写しを二枚受け取ると、それを持って去っていった。すぐに届けてくれるらしい。


 暗くなるまでは少し時間がある、とギルベルトさんがアタシを主寝室へと案内してくれた。そこには天蓋付きのベッドが置いてあり、格子にはまった分厚いガラスの窓が印象的な部屋だった。

 一応さっきもちらっと見たんだけど、今回はちゃんと空のウォークインクローゼットとか、壁に設えてあるタンスとかの説明もしてもらった。布団やシーツはこれから保管場から出してきて準備してくれるそうなので、今日から使えるとのことだった。ただ、食材はそれこそギルベルトさんとマシューさんの二人が食べるものしか準備していなかったそうで、今はマシューさんが奴隷を買った後のことも考えて市場に調達に行ってくれているという話だった。ありがたいな。


 書斎にある本はギルベルトさんとマシューさんの趣味だということで、農業書や酒造りに関する本、世界各地の観光名所や生態についての本だったり、旅行記のようなものが沢山あるらしい。それに、漫画で読んだような隠し金庫の開け方も教えてもらい、寮に帰ったら荷物を取ってきて入れておこうと決心した。だってよ、お金いっつもジャラジャラ持ち歩くのも面倒だしよ。袋の中から細かいお金探すの大変なんだよ実際さ。


 風呂はやっぱり温泉だったらしく、24時間いつでもあの状態とのことで、入るときは入浴中の札を掛けておいて欲しいとのことだった。一応使用人の官舎の方にも小さい風呂があるらしいから、基本的には裸でドッキリ、みたいなことは無いはずだけど、掃除はするのでその時のためにとのことだった。そりゃそうだよな。

 立派な厨房には今は専属のコックは居ないので、必要に応じて雇えるなら雇えばいいし、料理のできる女中が手に入るなら作って貰えばいいし、それもダメそうならマシューさんが作ってくれるとのことだった。アタシが…と言おうとした所で、お嬢様は主人なのですからダメですよ、と言われたのはちょっと納得が行かなかったものの、隙を見て好きなもんを作ればいいか、と頷いた。


 トイレと魔道洗濯機の場所も確認し、暮らせる算段をつけたアタシは、四つ足と残りの荷物を引き取りに行くことにした。もう日も傾いてきていて、奴隷市の開催時間も迫って来ているとのことではあったので、戻ってきたマシューさんの馬車に乗ってアタシは寮へと戻った。



「そう、出て行くのね。わかったわ、手続きしておくから、荷物を忘れずにね。残ってたものは処分しちゃうから気をつけて。」



 入居する時にもそうだったけど、あっさりしている寮の管理人のお姉さんに挨拶をした後、アタシは部屋の中へと入ろうとして、部屋の中が糸で真っ白なのに気が付いてびっくりした。一緒に来ていたギルベルトさんも驚愕に目を見開いている。



「四つ足ー?これどしたー?」

『シュシュ!(脱皮ー!)』

「脱皮かよ…。引越しすっから片付けろな。」

『シュ!』



 糸がシュルシュルと引っ込んで行くのを見たギルベルトさんがまだ驚いた顔をしていた。アタシも驚いてはいるものの、もっと驚いている人が隣にいると冷静になるというか、ね。数分で糸が粗方片付いた後には四つ足の抜け殻と、一回り大きくなった四つ足がいた。アタシはふさふさの毛を撫でてから残りの荷物を全部袋に詰めて背中に担いだ。…すぐにギルベルトさんから取り上げられたけど。


 アタシは四つ足を連れ、しばらく住んでいた名残惜しい部屋を後にした。



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