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ヤンキー娘、ペットにする。

 がばり、と顔を上げて周りを見渡すと、まだファンクラブ連中が数人残っていた。



「なぁ、この子さ、アタシがいないところじゃモンスター扱いで殺されちまうよな?」

「…そうだな、従魔登録して従魔のリングをつけとくしかないんじゃないのか?」

「へぇ、そんなのがあんのかよ。」

「ああ、冒険者ギルドで手続きしてくれると思うぜ。…一緒に行くか?」

「そうだな。あんがとな。」



 アタシが笑顔で礼を言うと、おっさんが真っ赤になった。しどろもどろで俺が手続きしてやるだの何だの言っていたので、蜘蛛の食事が終わるのを待って冒険者ギルドに向かう事にした。



「アネゴ、このギガントビーの羽と甲殻、毒針は良い値段で売れるぜ?1匹は糸まみれであれだけど、2匹分は状態もいい。解体の仕方を教えようか?」

「お?頼むぜ。そういうことって全然知らなくてよ。蜂の名前すら知らなかったぜ。」



 小柄なおっさんが指差しながら、こう刃を入れて、とか、ここは布で包んでから、とか時には手を取りながら教えてくれた。てか、手を取るだけで真っ赤になって手つきが怪しくなられても、アタシ困るんだけどよ。どう考えてもおっさん達童貞じゃねえはずだろ?冒険者向けの安いそういう店もこの辺りにはあるしよ。



「ということで、これで終わり。残りの体は蜘蛛の餌として取っとく?」

「でもよ、アタシ蜂の残骸を入れておける、汚れてもいい鞄とか持ってねぇよ?」



 その言葉におっさん達が我も我もと鞄を差し出した。



「「「「使ってくれ!」」」」

「お、おう…。な、なんか悪りぃな。」



 大小様々な鞄が差し出されたんだけど、どれも状態保存の魔法が掛かった、大容量の荷物入れとのことだった。難しいことはわかんねぇんだけどよ、どうやら内部の時が止まっているような状態になるらしく、血がこぼれたりしないのだとか。時が止まっているから肉がくっついても液漏れして混ざり合ったり鞄に染み込んだりしないらしく、こういった狩りでの獲物を保存しておくのにもってこいの鞄らしい。そんないいものなら値段も高けぇんじゃねぇの?と聞いてみたが、昔からある魔法の技術を使った鞄だから、それなりにはするものの、ベテラン冒険者であれば何個か持っているのが普通のものらしい。


 残骸を貰った鞄に詰め込みそんな話をしていると、蜘蛛の食事がどうやら終わったらしい。気が付くとぐるぐる巻きになっていた糸の塊も消えて無くなっている。



「ついてきな、四つ足。」

『シュ!』



 素直についてくる蜘蛛におっさん達はざわざわしていたが、なんのことはないとにっこりしてやると、おっさん達も次第に顔を綻ばせながらギルドへと向かった。



「…。」

「わっ!まっ、待った!登録、登録しにきたんだって!」



 ギルドの中に四つ足を連れ込むと、受付のお姉さんの頭上に火の玉が幾つか浮かんだ。コメカミには青筋がバキバキに浮かんでいる。それに気付いて慌てたおっさん達が間に立って取りなした。



「…イリエスタの幼生なんて連れ込んで。」

「だ、だってアネゴがよ、もふもふが気持ちいいから子分にするっていうからよ。」

「シオリが?…仕方ないわね。あんた達だったら蜘蛛を丸焦げにして叩き出してるところよ。全くもう。」



 ため息をついて火の玉を消した受付のお姉さんを見て、おっさん達がボソッと聞こえないくらいの声で言い合う。



「…ヘレネもアネゴには甘いよな。」

「そうだよな。女性冒険者には基本甘いけど、シオリの姐御には極甘だよな。」


「なんか言った!?」

「「何も言ってません!」」



 キッ!という効果音がしそうな勢いでおっさん達を睨みつけた受付のお姉さんは、カウンターの下にあるらしい書類入れから用紙を取り出した。



「ほら、必要事項を記入して。」

「…今の火の玉、マホー?」

「ん?そうよ。どうかした?」

「マホーってさ、アタシでも使えんの?」

「そうねぇ、使えるとは思うわよ。」

「マジか!?」

「魔力はたっぷりあるものね。ただ、まともに使えるためにはちゃんと指導者の元で結構頑張って修行しないとダメだと思うわよ?スキルも持ってないわけだから。…それにINTがね?」

「うっせえよちくしょー!。…でも使えんのかー。」



 一瞬ムッキー!となったアタシの横で、さっき登録してくれるっつってたおっさんが用紙にちょちょっと何某か書き込んでいる。



「名前は四つ足でよかったか?」

「おう。」

「種族はイリエスタ、と。主人の所はアネゴが自分でサインするから、後は従魔のリングに丸。最終身元保証は…ヘレネ、ここでいいか?」

「ええ。どうせここにいるみんなが保証するでしょ?ゼールの街冒険者一同とでもしておいたらいいんじゃない?さすがにギルド保証は難しいもの。」

「ほいほいっと。そんじゃ、アネゴ、ここに名前な。」



 差し出された紙に名前を書き込むと、受付のお姉(ヘレネ)さんが二つの紐をくれた。



「ひとつは胴体に巻いて。もう一つは触腕は邪魔になるから、前の方の脚の見えやすい所がいいかしら?巻くと自動的にサイズ調整が効いてくっつくからね。」

「はーい」



 アタシは大人しく隣に佇んでいた四つ足の脚と、胴体の見えやすい所に紐を巻いた。紐はつけてしばらく経つと紐と言うよりはバンドの様な感じになって繋ぎ目が無くなった。



「オイタしないように躾けるのよ?

それとその子すごく大きくなる筈だからね、この間のお金があるうちに家を買って引っ越すことをお勧めするわ。寮の部屋は早晩狭くていられなくなるわよ。」


「そうなのか?」

「そうなのよ。元々山深い森の奥で暮らす種だからね。幼体の時こそ天敵としてギガントビーがいるけど、成体になれば巨人種とか竜種くらいしか敵がいないはずよ。魔法も使うしね。」

「巨人とか竜種?の強さなんて知らねぇけど、相当強えってことか。四つ足、オメェすげえんだな。」



 アタシはカウンターによじ登ってきた四つ足の頭をぽふぽふと撫でた。



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