ヤンキー娘、物に宿る精霊に出会う。
部屋に帰ってきたアタシに待っていたのは、扉に挟まれたメモだった。
『帰ってきたら食堂に来て!リタより』
腹減ってるし黙ってても行くのに、と思いながらも、先に一度荷物整理をしてから向かうことにして、装備を見直すことにした。
ハードレザーのブーツ、レギンス、チュニック。ミスリルプレート付きの籠手、脚絆。基本的にこれは今まで通りでいいとして、今回ゲットしてきたネックレスとヘアピンも別にかぶらねぇし使う。
一番問題なのは3本もある魔剣だよな。護法の劔とやらは持ってりゃ体力回復してくれるっつーんだから、最低でも腰に提げとくのはキマリ。茨の剣は、ちょっと傷つければいいのかガッツリ斬らねぇとダメなのかわかんねぇんだよな。アタシは2本を袖机の上に並べると、問題のもう1本を取り出した。
「オメェ、喋るって本当かよ。」
特に返事がない。
鞘からスラリ、と抜いてからツンツン指で触っても無言。暫くもしもしとか話しかけても無言。
…イラついて来たので机の角に剣の腹をべんっ、と叩きつけると、また声を掛けた。
「とっとと喋んねぇと鉄屑にして売っぱらっちまうぞオィ。」
そう言いながらまたベンベン叩く。下手したら歪むかもなーと思うんだが、まぁ、ダメなら売ればいい。そう思ってると漸く反応が返ってきた。
『ま、まて!わかった、返事をするから!』
「お?」
『ら、乱暴な女人じゃのう…。』
「あァ!?」
『す、すまん、な、なんでもない、なんでもない。』
「わかりゃいいんだよ、ってかとっとと返事しねぇのが悪りいんだろ。」
『ワシだってずっと起きとるわけじゃないんじゃぞ!仕方ないであろう。』
「ん?そりゃ悪かった。寝てたのかよ。」
『…。そうじゃよ。ところで、前の持ち主だと思ったゴブリンキングはどうしたんじゃ?』
「一刀両断にしてやったぞ?あの雑魚なら」
『…。』
不意に黙った剣に、そういえば、と尋ねた。
「アタシぁ、詩織、飯野詩織だ。アンタ、名前はなんて言うんだ?」
『ワシか?ワシはテールゼンという。…そうか、予想通りといえばそうじゃが、お主のような女人がワシを手に入れるとは思いもしなんだ。』
なにが言いたいんだかさっぱりだ。
「気にいらねぇなら誰かに売っぱらってやるけどよ?いい金になるらしいしな。」
『ぬ、気に入らぬわけではない。過去にもワシを女人が手にして玉座についたこともあるのじゃぞ。』
「へー。興味ねぇな。」
『…興味ない、じゃと?』
剣からは何言ってんだこいつ的な雰囲気が漂ってくる。
「アタシとしてまず生活できることが第一だし、楽しく暮らせるなら別に偉くならなくても問題ねぇんだよ。」
『偉くなれば男も選びたい放題、贅沢もし放題じゃぞ?まぁ、その分責任や義務も増えるがの。』
「ギムとかセキニンとかメンドクセェことはいらねぇよ。よし、オメェはお蔵入りな。」
『ま、まて。その他にもだ』
「ウールセェよ。」
あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!、と声を上げる剣を鞘に戻して鞄に突っ込み、茨の剣と護法の劔を引っ張り出した。護法の劔を腰に下げ、茨の剣には紐を付けて背中に担ぐと、食堂へと向かった。
月明かりはあるものの、道は真っ暗。そんな中だと護法の劔から淡い光が漏れているのがよくわかる。眩しいほどでも無く、うっすらと漏れる光が綺麗に見えたアタシは鞘から剣を抜いた。抜いた時には、すらりといった感じじゃなくてシャリン、という鈴のような音がした。
じっ、と立ち止まって劔を眺めると、ゆらゆらと棚引いていた光が渦巻くように集り、一つの塊となった。
『やぁ。』
「お、おう。」
『いい月だね。』
アタシは空を見上げた。そこには太めの三日月が浮かんでいた。満月でもないし、ほっそい三日月でも無いけれど、思わず少し頬が緩む。柔らかな光を出す玉に目を向けなおすと、小さな声で同意した。
「そうだな。」
『…。』
「ん?」
『我、命の精霊ライナスは、汝が死すまで加護を与える事を誓おう。汝以外を主とは認めず、汝に寄り添おう。』
「んん?光じゃねぇのか?」
『残念。光じゃなくて命を司る精霊だよ。だからこそ、体力を回復する加護を授けるんだけどね。』
春先の柔らかな日差しみたいに光ってるから、てっきり光だと思ったんだけどな。よくわかんねぇな。
「なぁ、知性のある剣とやらは別にあるんだけどよ、アンタ…ライナスもそうなのか?」
『厳密に言えば違うね。今は剣の形になっているけれど、腕輪になってた時もあったし、貴女の身につけているような首飾りになっていた時もあったよ。』
「よくワカンネェ。変身出来るってことか?」
『ざっくりといえばそうだね。』
てぇことはだよ。
「もしかして、このネックレスも喋んのか?」
『…ジョックスはどうやら深く閉じこもってるようだね。目が醒めることがあれば、喋ると思うけど、それがいつになるかはわからないね。』
「ほー。じゃあ、このヘアピンは?」
ふよふよと光の玉がヘアピンのあたりまで漂う。
『…この子は喋れないと思うよ。でも、貴女のことは気に入ってるみたいだね。ルビーの中で、揺らめく炎のように踊ってる。』
アタシはヘアピンを外すと、ルビーを眺めた。…暖炉の火みたいで、綺麗だ。
『もし、剣が邪魔なようであれば他の形に変わるけど。』
「ん?うーん。確かに木刀もあるし、茨の剣もあるしな。他のモンのほうがいいんだろうけどな。手甲もあるし、ヘアピン…。そだな、2本目のヘアピンになってもらうのが一番収まりがいいかな。三角巾つけても邪魔にならないしよ。」
『承知した。組み合わせて一つのヘアピンに見えるような形に変わろう。』
変身して素敵なデザインのヘアピンになったライナスと揺れる焔のヘアピンを組み合わせ、アタシは前髪を挟み込んだ。心なしか、道が少し明るいのは2人が照らしてくれているのだろうか。調子こいて鼻歌を歌いながら思い出したかのように食堂へと向かった。




