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ヤンキー娘、冒険に行く。

 雇い止めになってから二日目。アタシは冒険者ギルドに一旦雇い止めになったことを報告して、依頼を受けるべく依頼の貼られたボード前へとやってきた。実際に依頼を見るのは初めてで、どんなのがいいのかはさっぱり分からねえ。モンスターとやらも、アタシの実力で倒せるのがどの辺りなのかも分からねえしな。働いたりカツアゲしたりしたおかげで、しばらくどころか一、二年分はのんびり出来る金はあるとはいえ、折角そういう世界に来たんだから冒険者ってのもちゃんとやってみたいんだよな。



「アネゴ、今日は食堂の仕事じゃねえんですかい?」

「ん?。アンタ、たまに夜に食堂に飲みに来る…」

「へへ。ジャレットと申しやす。」

「ああ、すまん。顔は覚えても殆ど話さないし、名前を覚えらんなくてよ。で、食堂の方は今暇な時期に入ったってことで、二ヶ月ほど雇い止めになったんだ。」

「なるほど、で、ここに依頼を探しにってことですかい。」

「ああ。」



 アタシは腕を組んで依頼ボードを見やる。どれがいいかもわかんねぇし、自然とへの字口になるのは仕方ねえだろ。



「アネゴは今までどんな依頼をこなして来たんですかい?」

「食堂の仕事だけだよ。他は何もしてねぇんだ。だからどれが自分に出来んのかさっぱりわかんなくてよ。困ってたんだ。」

「ははぁ…。アネゴなら、討伐系とかどうですかい?最低でもオーガクラス迄なら行けそうですがね。」

「オーガってのはアレか?でっかくて馬鹿力っていう。」

「…大体あってやす。ランクDあたりからの獲物で、街での立ち回りを見る限りアネゴなら2、3匹来ても平気そうですがね。」

「そうか。…ん?ランクって何だ?」



 不思議そうにするアタシに、ジャレットは冒険者証を取り出して名前の辺りを指差して見せた。



ジャレット・セクステンダー

34歳 鼠人族

ランクC

レベル 51

シーフ


HP 5235/5235

MP 1291/1291



「ほら、ここでやすよ。年齢と種族の下に。」

「アタシの、最初に登録した時そんなん見てねぇんだけどな。」



詩織・飯田

16歳 人族

ランクF

レベル 23

格闘家


HP 18265/18265

MP 2558/2558


STR 275

STA 327

DEX 392

AGI 351

INT 22

LUC 489


スキル

威圧レベル5/ど根性レベル4

格闘術レベル3/料理レベル1

魔闘術レベル1


賞罰なし



「…。」

「…書いてあるな。」

「あの、アネゴ…。強いとは思ってやしたが、物凄いステータスでやすね…。オーガどころか巨人系も片手で撚れそうでやす…。」

「ん?そうか?冒険者証作った時はステータス60とか80とかだったんだけどな。いつのまにかレベルがだいぶ上がって数字が跳ね上がってるぜ。」

「普通は、レベル100を超えてマジックアイテムでブーストしてそれくらいのステータスになると…。」

「INTは低いけどな。」

「低いでやすね。」

「どうせアタシぁ馬鹿だよ…。」

「そんなアネゴもみんな好きですよ!大丈夫!」



 思わずジト目でジャレットを睨むが、とてもいい笑顔で親指を立てているのを見てアタシはため息を一つ吐いた。最近、殴り飛ばしても暴言吐いてもご褒美とか言い出す連中が多いし、何を言ってもきっとダメなんだろうな。

 アタシは気を取り直し、ゴブリン討伐の紙を剥がした。…受けられるランクにFがあった討伐系のクエストはこれだけだったんだよ。依頼の紙にはわかりやすく簡単に地図が描かれていたり、受けられるランクとしてF、E、Dと書いてある。空いてる受付は…初日のお姉さん所だけか。



「これ、受けたいんすけど。」

「ん、書いてある通り東の森のエリアに出没、になってるわ。最近盗賊の噂も聞くから注意してね?」

「盗賊ねぇ…。」

「意外と大所帯みたいだからね。そっちはそっちで討伐依頼が出てるから、遭遇したら逃げるが勝ちよ。ランクに見合わずシオリは強いけど、数に押し負けるってこともあるからね。」

「気を付けまーす。」

「わかればよろしい。で、ゴブリン初めて?」



 アタシが頷くと、お姉さんは足元にあったファイルを取り出し、アタシに最初のページを見せた。ハゲ頭の耳のデカイむさい子供の絵が描いてある。



「これがゴブリンよ。大きさは大体子供くらい。大人サイズがいたらそれは上位種だったりするからね。」

「ふむー。しっかし、絵うめえな。お姉さん作?」

「違うわよ。これはギルドで初心者向けに準備している資料よ。」

「さすが大きいソシキは違うな。」

「そうよー。間違ったの殺して来られても困るってこともあるけどね。殺害証明は冒険者証に自動的に記録されるからね?

 それじゃ、気を付けて行ってらっしゃい。」



 アタシはひらひらと受付のお姉さんに手を振るとギルドを後にした。ちょっと礼でも言おうと思ったのに、ジャレットはいつのまにかいなくなっていたし。



「お?珍しく街の外にお出掛けかい?」

「ちっげえよ、冒険者らしくゴブリン狩りに行くんだっつーの。」

「その割りに手ブラじゃないか?レザーアーマーは着けてるみたいだが。」

「木刀は歩くにゃー邪魔だからな。それに、殴りゃあいいし。」

「まぁ、お前さんの職業からしてそうか。ゴブリンはずる賢いからな。きっちりトドメさせよ?」

「お、おう。気を付けるぜ。」



 まだまだ話し足りなそうなダントンともう一人の守衛に手を振って、アタシは森の中に足を踏み入れた。初めてこの世界にやっていた時以来の森。いつものデッキシューズでは無く、ちゃんとしたブーツにディークから貰った脚絆を付けた足は何時もよりも若干重たいような気もするけど、実際には脚絆のマホー効果もあって軽く感じれるらしい。アタシとしては半信半疑なんだけどよ、この間改めて飲みに来たディークが酒が回ったのか、真っ赤な顔でそう言っていた。あんな強面のくせに、ちょっと酒に弱いよなディークはよ。

 木の根や生い茂る雑草で歩きにくいとは思うものの、いつものロングスカートじゃなくて皮のパンツなおかげで幾分か楽だな。



「15分も歩くといるんじゃないかっていう話だったけど…ってビンゴ。」



 ガサガサ音を立てながら移動していると、ゴブリンがこちらに気付いた様で三匹ほどの集団がこっちを気にしている。間違いない、ギルドで描いてあったような姿してるな。

 アタシが鞄から木刀を取り出したのを見て、棍棒とか錆びた剣とかを構えながらこっちにじりじりと近付いて来ている。女一人で与し易いと思ったんだろうな。雑草に足を取られない様気を付けながらも、アタシは全力で飛び掛かる。



「グェ!?」「わっ?!」



 予想外のスピードが出てアタシは勢い余ってゴブリンを吹き飛ばしちまった。自分ごと。店でも加減したつもりで半殺しとかしちまってたんだから予想すりゃよかったんだが、それも後の祭り。ガサガサっと転がり、一緒に吹き飛んだゴブリンに急いで木刀を振り下ろす。



「アレ?」



 これまた勢い余って木刀がゴブリンを真っ二つ。



「てい!」



 近寄って来ていた残り二匹も一振りで首と胴が別れる。これ剣じゃねえんだけどよ…。馬鹿力で振ってるからか?それにしたって木刀の方が壊れてもいいような気もすんだけどよ。

 血塗れで転がるゴブリン達から使えそうな物を剥ぎ取ると、アタシは次を探して歩き出した。何せ、依頼書では最低十匹は殺して来いと書いてあったからな。


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