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ヤンキー娘、転ぶ。

「こんのっ、クソだらぁぁぁあ!!」



 その声と共にアタシは木刀を目の前の男に全力で叩きつける。ヘラヘラと笑っていた無精髭の男は手にしていたむき身の剣で木刀をいなそうとしたが、失敗してその利き手を強かに打った。手だけでなく肩もまとめてぶっ叩いたから相当痛えだろうな。どうせ女だと甘くみたんだろうけど、この詩織ねーさんを舐めてもらっちゃー困る。そのほっそりとした体のどこからそんな馬鹿力が、とガッコーの周りの不良どもに怖れられたのは伊達ではないのだよ。

 そのだっせえ男は叩かれた手を押さえると、こちらを睨みつけてきた。



「ぬあああ、このアマ、下手に出てりゃあ…クソッ、おい、おめえら。わかってんな。」



 アタシが置かれた状況はというと…。相手は少なくても四人。一人はいいとして、残り三人はその手に持った剣、剣だろうなぁ、あれだ、ゲームで見たことのあるような剣だ。ショートケーキ…じゃない、ショートソードっていったっけか?腹減ったな…。



「姉ちゃんさぁ、大人しく捕まってくれりゃあ優しくしてやんのによう。」

「そうだぜ、優しく気持ち良くしてやんのによ。そんなんじゃ乱暴にするしかねーぞ?」



 もう一働きしないとダメくせえ、とアタシは頭を振った。ノーモーションで左手に持っていたカバンで下から顎を打ち抜くと、セクハラ男が崩れ落ちる間に勢いのままギュンと半回転して無駄口を叩いていた男の鳩尾に木刀の柄を叩き込んだ。男はぶら下げていた剣を上げようとしたが間に合わなかったようだ。



「弱えぇなおい、このクズども。」

「…!?」



 手首を押さえていた男と、もう一人がずざざ、と後ずさった。アタシは木刀を肩に担ぎ、カバンをダラリ、とぶら下げた。何時もダチには美人なのに三白眼で怖い…と残念がられる目で二人にギンギンにガンを付けると、今まで黙っていた男が急に土下座をした。



「すいまっせんでしたッ!もう勘弁してください!!」

「ハァ?」

「い、いや、襲ってごめんなさい、金輪際姐さんには手を出さないと誓います、見逃してください!」

「あん?」



 男はそこで何かに気が付いた様子で隣にいた男をどついて懐から財布を出させると、まだ転がっている男達からも金目の物をかき集めてアタシの前に差し出した。そして更にだっせえ男の頭を掴むと自分と同じように無理矢理土下座させる。



「め、迷惑料です、これで何とか…!」

「おう。…ああ、おめえちょっと立ってみろよ。」

「…え?」

「いいからそこでちょっととんとんジャンプしてみろ。」



 チャリンチャリン。男がジャンプすると懐から音が聞こえた。アタシはニヤリ、と笑うと男の胸元を軽くとんとんと木刀で突っついた。その顔やめなよ、っていつも言われる顔で。



「まだ持ってんじゃねーか。剣も金も全部置いてけ。あと食いもん持ってねーか?」

「!?」



 アタシは結局奴らから服以外の物を身ぐるみ剥いでやった。奴らが恐らくアタシやこれからくる誰かを縛る為に持っていたであろう縄で一人ずつ縛らせて、最後に土下座男を木刀で更にどついて縛り上げた後、ようやくアタシはその場を離れた。追いかけて来られちゃたまんねぇからな。


 アタシは一時間ほど近くにあった舗装されてない道なりにダラダラと歩き、遠くに街影らしき物が見えたところで道を外れ、そこにあった大木の根の合間に座り込んだ。スカートが汚れないように男どもから奪った外套(コート)を下に敷くのは忘れない。大きくため息を一つついたところで愚痴が思わずこぼれた。



「…なんなんだよ一体。剣なんか持ってる外人野郎が襲ってくるとかさ。腹は減るしよ。それにこのなんだ、金も見たことねえコインだし。剣も、これ本物かぁ?」



 アタシはボロっちい鞘に入れられた剣を抜くと、刃を眺めた。



「なんか切れそうだよなこれ。錆浮いてんのもあっけど。よくアタシの木刀壊れなかったよな。だっせえ奴の剣に叩きつけたのによ。」



 アタシは男達から巻きあげた物を金と食べ物とそれ以外にざっと分けた。

 金はアタシの財布の小銭入れには多いから、男どもの持っていた布の袋にまとめて入れた。食いもん…直接食えるものは持ってなかったけど塩とかハーブのようなものを男達は持っていたので、それも自分の鞄に詰める。剣は握りやすいのだけ一本とっておくかとも思ったけど、男達の持っていた金がどれ位の額になるものなのかもわからない。正直重いからなぁ、と思ってこれも男達から奪った鞄に突っ込んだところ、重くなくなった。


 あ?何が何だかわかんねぇ。

けどまぁいいか、見た目以上に物が入るし重くない。これはきっといいカバンだ。



「しかし…ハラヘッタ。あの街に行けばなんか食えるかな?朝からなんも食ってねぇからもう限界…。」




 アタシは今朝、ガッコーに顔を出す前に言い寄ってきたバカをしばいてカツアゲした後、ガッコーへの道を鼻歌混じりに意気揚々と歩いていたところで何かに躓いた。すっ転んで痛てて、と顔を上げたらなぜか森の中だったのだ。なんじゃーこりゃー、と長い事適当に歩き回ったところで舗装されてない道に出たのはいいんだけど、道の向こうからやってきたのは何とくたびれた馬車だった。車じゃねぇ、ってびっくりしてる間に馬車は通り過ぎていったんだが、御者っつーの?運転手もこっちを驚いたような顔をして見てたのにはちょっとウケたけどな。


 その後、歩いて来たおっさんどもから声を掛けられたかと思えばニヤつく顔で剣を抜かれたのだ。わけがわからねえけどきっとアレはどついても問題ないだろうし、きっと身ぐるみ剥いでも通報されるとかはなさそうだ。本当のところは直感だからワカンねぇけど。


 とにかく、まずは腹拵えをしたい。アタシはすっくと立ち上がり、下に敷いていた外套の土を払って身に付けると街へと歩いた。


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