2.スバル
あたし、宮本昴は前世の記憶がある。
まぁ、よく言う転生者というものだね。前世のあたし? そんなのどうだっていいじゃん。今が大事なんだよ。わかる? そこんとこ。
で、今のあたしがどうやって前世のことを思い出したかというと、何の変哲もない、ただ頭を打った衝撃ってだけ。幼稚園の時に幼馴染の男の子とブランコで遊んでたら、頭から落ちちゃったんだよねー。今思い出しても頭が疼くわ。
そして、痛みと驚きでぎゃん泣きしてたら、急に知らないことも脳裏に浮かんでくるんだもん、更に混乱してぎゃん泣きしたよ。いっぱいいっぱいだったんだよ。言っときますけど、幼稚園児だからね? しょうがないじゃん。
そんなこんなで前世のことを思い出して、「あーあたし転生したんだー」って落ち着いたのは、それから1週間後くらいかな。
思い出したからといって、チート能力も神童! と言われるIQも前世のあたしにはなかったみたいで、結局は何も変わらなかったんだよねぇ。あぁ残念。いうなれば、他の子より精神年齢がちょっと上くらいしか特に何もなかったかな。
でもね! 小学生になって気付いたの!
この世界が乙女ゲームの世界だってことが!
あ、勘違いしないでね? 主人公だとか悪役だとか、サポキャラだとかじゃないから。モブです、モブ。正真正銘の。本当だよ?
傍観者とかいいながら攻略対象の妹とか、幼馴染とか、そんなんじゃないから。マジ。言っときますけど、ただのクラスメイトでしたから。
クラスにそれはそれはモテる子がいたのよ~。足が速くてさ! 小学生なんて、運動がある程度出来ればモテるもんじゃない? でもその子は顔も良くてね! みんなキャアキャア言ってたよー。笑顔も爽やかでね、友だちもみーんな好きって言ってたなぁ。
あたし? あたしは興味なかったよ。別な子が好きだったの。その攻略対象者の友だちだった子。みんな、えーって言ってたけど、あの冴えない感じがいいのに。もしかしてこの好みって前世のせい!?
あ、話がそれたね。そんで、その攻略対象の子と席替えで隣になって、一緒に日直やってたんだ。
「オレが日誌書くよ!」とかなんとか言って、さわやかオーラ振りまきながらせっせと書いてたんだ。
あたしとしては正直日誌しかあとやることなかったから、自分で書いてさっさと帰りたかったんだけど、あまりにも一生懸命だったから我慢してやったんだ。ふっ、あたしって大人。
んで、ちんたらちんたら書いてたのがやっと終わって、満面の笑みであたしに見せてきたの。驚いたよ、その字のきったなさに。
読めねーし。
そう口にしたかったけど、攻略対象のキラキラした笑顔に口を閉ざすしかなかったよ……。
すごいよね! オレがんばったよ! 褒めて褒めて!!
そう物語っていたんだよ。誰だって無理でしょ、言うの。
そしてその笑顔見てたら、あれ? なんか見たことあるーってなって、ピーンときたんだ。あ、あたしこいつ知ってるって。