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神輿担ぎ  作者: 蒼崎海斗
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0.宴の始まり

 見渡す限りの大自然。舗装されていない獣道に近い土の道。その道なりにそびえたつの木々。軟風が吹き耳に聞こえるのは葉の揺れる音。

 そして、何故かそこにいる俺、小石川(こいしかわ) (まつり)

秋の陽気な空気と自然、その中で自分の中にあるのはそういったものを感じる感情よりも困惑が大半を占めていた。


「どこだ、ここは?」


 壬生高校陸上部の10月の後半という少し季節はずれの強化合宿に参加した帰り。その道中の電車内。

 合宿の疲れが出たのか急激に眠気が襲ってきたので友人に降りる駅に着いたら起こしてくれと頼む。三日間の合宿の疲れが出たのか、姿勢を楽にして目を瞑ると一分も経たないうちに意識は途切れた。

 そして、気づいたら見知らぬ大地の上で横になっていた。そして最初に出た自分の中の結論。


「……イジメか?」


 寝ていた自分をからかい半分で学校の裏山に置き去りにされたことが去年の夏にあった。

 別にいじめといっても冗談の類で、完全にいじめられていたわけではない。……と思いたい。

 男子グループの中の弄られ役が俺というだけで、殴られたり蹴られたりパシられたりとか、そういうことは一切ない。

そう、あれはイジメでなくイジリだ。

 それはさておき、今回もそういった類のことであるならば、少し歩けば場所がわかるというものだ。


「とにかく公道にまで出れば何とか帰れるか」


 ご丁寧にも足元には3日間の合宿用着替えが入った大きめのスポーツバックは置いてあった。念のために中身を確認してみるが無くしたものはないようだ。確認を終えるとバックを肩に担いで歩き出す。

 けれど、歩けども歩けども大きな道に辿り着かない。30分程歩いてアスファルトの道どころか電信柱の一つも今だに発見できていない。

 ちょっと質が悪すぎるだろと、バックの中に入れたままになっていた携帯で位置情報を見てみようと取り出し、ここで異常事態に気づく。


「夜の11時03分?」


 電波に関してはどこにも電信柱がない時点で位置情報に関しては半ば諦めてはいた。

 けど時間に関しては携帯内臓の機能であるので確認できる気でいた。それが確認した時間が深夜も近い時間を示す。空を見上げてみるともう少しで夕方になるくらいの青色の方が強く少しオレンジが掛かった程度の色をしている。正確にはわからないが四時から五時の間といったくらいだろう。けっして十一時過ぎという深夜ではない。

 今時分が置かれている状況どういうことか、だんだんと理解していく。

 状況を察していくにこれは


「いつも以上に手の込んだ弄られ方じゃねえかよ」


もしかして、県境の山間の駅に降ろされた上に携帯電話の時間まで細工された上で放置されるとは、どういった理由かは分からないが流石にやりすぎだろう。


「まったく、こんな手の込んだことを考えたのは部長かあ?」


 我が壬生高校陸上部は強化合宿はしてはいるが、目指せ全国大会とかそういう熱いノリのような部ではなくアットホームな感じの少しゆるい雰囲気の部である。

 その部の部長は友人同士の中のまとめ役のような人がやっており、走るのも好きだがみんなでわいわい騒ぐことも好きな人間だ。

 そして、よく突拍子もないことを実行する人で、副部長が困っている姿を見かけるのは日常茶飯事。

 陸上部部長が在籍するクラスは壬生高校では有名だ。

各部の部長、同好会の会長、生徒会役員。そんな人間が九割を占める異常クラス。

学校始まって以来の秀才や、その分野における突出した人間、そして集団の集まりを纏め上げる資質の高い人間の集まり。これだけ聞けば優秀で模範的なクラス。

 ただし、普通に授業を聞いてくれればである。

 数学の授業では、教師側が考えた証明問題よりも途中式が説得力のある答えを半数以上の生徒が返す。

 英語の授業では、留学経験のある者や帰国子女がネイティブな発音と文法で間違いを教師に指摘する。

 社会の授業では、教科書の内容以上の教師も知らないような内容を史学部部長と歴史研究会会長が、教室備え付けのプロジェクターで大学教授並みの講義を始める。

 現国の授業では、現役高校生小説家のライバル同士の二人が、授業内容そっちのけで教科書の内容を事細かに論戦する。

 古典の授業では、現役高校生書道家が原文を持ち込み字の形から意味や流れを説明し、わかりやすく砕けた内容を作家の二人が意訳する。

 化学の授業では、科学部部長と何故か生徒会長が授業では習わないような物質について性質や使用方法の雑談をはじめる。

 物理の授業では、何故か全員が高校の教科書レベルの内容を理解しており算数としてしかみていない。

 極めつけは体育と武道の授業で、三十年ほど前に政府が掲げた新富国強兵運動。

強い精神や不屈の精神は武道やスポーツによって身につくを原則とした運動で、その実験都市として選ばれた練武市。その運動を色濃く採用した市内三校のうちの一つの壬生高校。授業内容は体育と武道の2種類のものを用意し、ほぼ毎日の時間割にそれが組み込まれている。

 そして、教師にとっての災難なのが、優秀な体育教師を集めた高校で問題児クラスの中のどこかの部長が代役できてしまうことだった。生徒と同じ視点での分かりやすい指導付きで。

 そしてもう一つの武道に関しては実技の先生よりも半数の生徒の方が実力が上で、そのトップが総合武具格闘部部長と生徒会長の女生徒二人というのが教師の面目丸つぶれになっている。

 そのクラスは特別進学クラスで三年間クラス替えはすることはなく、あと一年半もこの状態が続くのかと教師一同の悩みのタネとなっているらしい。


「ある意味で楽しそうだけど、俺は普通のクラスで良かったよ」


 噂によるとテストの平均点が八十以上らしく、月一の全校集会で毎度だれかが表彰されている。常人ならそのクラスに在籍するだけでプレッシャーに耐え切れないだろう。

 だから、そのクラスに在籍する部長が普通のわけがなく、俺をこんな何もないところに放置することを実行したのだとしても何ら不思議なことはない。

それにしても今回は流石にやりすぎではないだろうか。これは少し首謀者を説教してやらねばなるまい。


「とりあえず駅に行くか、みんなを見つけるかしないとな」


少し気合を入れなおし、山頂へ続く土の道を歩き出す。


これがいつの間にか異世界に飛ばされていた俺が体験した第一日目の出来事だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 帝都から歩いて二ヶ月ほどの距離にある人口三百人程度の小さな村。

 そんな小さな村、ここレスター村では今一つの噂が飛び交っていた。

今日の昼過ぎに二つ向こうの山の方向に光る何かが落ちたというものだった。

 村の数少ない宿屋兼酒場では、昼過ぎだというのにこの話題でをする為に多くの人が集まっていた。

 その中を看板娘である私、アリッサ・メイトリクスは書き入れ時を逃さないように必死に働き、満席に近いテーブル席の周りを行ったりきたりと動き回っていた。

 収穫祭も終わり冬支度を始めるまで少し時期もある為か、村全体がどこか緩んでいる。そんな時に飛び込んできた話題のタネとあらば食いつかないハズがない。


「もっと頼め、もっと頼め」


 昼過ぎで平日の売り上げの4倍強くらいを叩き出し、現在進行形で売り上げが伸びていっている状態の帳簿を見ながら店長である父親がニヤニヤしながらブツブツと呟いている。

 はっきり言って、不気味なのでカウンターの裏にでも引っ込んでてほしい。

 それにしても、なぜ何かが落ちたというだけでみんなはここまで盛り上がることができるのかと関心してしまう。

 働きながらみんなの声を適当にまとめると、光る何かを目撃したのは10名程と少なくもない人数のようだが、結局は誰一人として落ちた何かがわかった者はいない。

曰く、天からの使いが降りてきた。曰く、神獣の火の鳥が隣の山にやってきた。曰く、帝都の高名な魔術師が魔法をここまで飛ばしてきた。

と、どこかで聞いた昔話のようなことが起きているのではないかと、わいわいとみんなで意見を出しては違うだの、そうかもしれないだのと言い合っている。


「仕事大変そうだね。アリー」


 そんなみんなが盛り上がっている席の間を動き回っていた私に声をかけてきたのは、このレスター村の村長の息子ベネット・レスターだった。


「わかっているなら、用もないのに話しかけないでくれるかしら」


「まあまあ、こうやって話しかけでもしないと、アリー全く休憩しないだろ。親父さんにさっき少し休ましてあげろって言われたんだ」


「父さんが?」


「そうそう。とりあえず座りなって、今日いるのは村のみんなだけみたいだし少し休んでいても誰も文句なんていわないよ。」


 二人用のテーブル席に一人で座っていたベネットは、自分の向かいにある席に自分を座るように誘導する。カウンターの方を見れば、帳簿をみるのをやめ注文の入った料理を作っている父さんと目が合い、声に出さずに休めと伝えてくる。店長である父さんがいうのであれば、少し休ませてもらおう。


「って、そこで向かいの席に座らずに奥に戻ろうとしないでくれよ。」


 休憩しようとカウンター裏の実家に繋がる通路の方に行こうとした私をベネットが引き止める。

 ため息を一つ吐き、一度カウンターまで戻ってから飲み物と父さんがすでに用意していたまかないを持って、ベネットの向かいの席につく。


「婚約者がいる人が下手に女の子を誘って大丈夫なの。ここじゃあ、みんなに筒抜けよ。」


「あのなあ、婚約者がいたら幼馴染にも声をかけちゃいけないのかよ。それにジェニーはそんな心の狭い人じゃないっての。」


「はいはい。惚気を聞くために休憩取ったわけじゃないから。それで、みんな噂してる空から落ちてきた何かってなんなの?」


 少し冗談めかしてベネットの婚約者、隣村のジェニーについて言外に匂わせただけで、彼女の自慢を始めようとしたので、みんなが噂していることに話の方向を変えることにする。噂にはなっているが、私としては特に興味を引くものでなく今日の話題のネタの一つにしかすぎない。こんな小さな村では隣の家の夫婦がケンカしただけでも話のネタになる。そういうわけで、今回のこの話題も明日になれば話す人がいなくなってしますようなそんな些細なものだろう。

 そうして、なぜかベネットに聞いたはずが、テーブルの周りにいたで近所の人たちも話しに入ってきての大賑わい。答えのないものに、ああだこうだと意見を出し合いながら楽しく笑いあう。

 レクター村の何ら変わることのない日常だった。


 これがわけのわからない同居人と出会い帝都から遠く離れた何もない村に少しのドタバタを巻き起こす一日前の出来事。

初めての投稿となります。

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