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我が家の神様

作者: 黒月葉織

 我が家には神様がいる。

 しかも自称神様。それはもう胡散臭いったらありゃしない。

 ともかく、あたしの家にはなんくせも変わった神様がいる。あたし個人としてはさっさとどっか行ってほしいほどの。

 八百万の神と言って様々な神様がいるとされているこの国だけれども、果たしてこんな性格の神様がいてもいいのだろうか。むしろこんな奴でも神様をやっていけるなんてどうかしてる。というかなんでこいつを神様にした。

 ちなみに自称神様曰く、

「なれちゃったもんは仕方なくねぇ?すごくね?」

 だそうだ。てか、威張るな。見てて腹立つ。

 自称神様と言えども、結局は神様なので幽霊の如く基本的に他人には見えない。そう基本的にはあたしの家族以外には見えない。

 どうもこの自称神様はこの家の守護者というか土地神らしく、普段はあたしの家族にしか見えない仕様になっている。

 ただし、普段は。

 どういうわけかこの自称神様が念じれば一般の人にも見えるらしい。現にそうやって町を徘徊したりあたしの買い物についてきたり、母さんに買い物の荷物持ちや家事の手伝いにこき使われてたりする。

 ……自称神様をこき使うあたしの母さんって一体何者だ。

 まぁ、我が家の権力者は父さんではなく常に母さんであるが故にそこまで疑問には思っていなかったが。

 いつか父さんと共に自称神様が母さんにへこへこしてたときは思わず大爆笑してしまった。あれは完全な不意打ちであった。

 それでもお前は自称神様なのか。

 他に自称神様がしていることと言えば……ひたすらだらけてるだけだ。

 あまりにも暇で何もすることがないときにあたしの外出に引っ付いてくる。

 あたしとしてはありがたいい迷惑だ。

 わざわざ一般にも見えるように付いてくるせいで周囲がお前をあたしの彼氏だと思うやつがいっぱいいるだろっ!

 誰がお前の彼女だってんだっ!

 ひたすらだらけて、時々父さんとどの女の子が可愛いかと談義してあたしと母さんに白い目で見られてるニート自称神様がっ!

 それで知り合いと会ったときには絶望したよ。絶対勘違いされたって。

 やたらと向こうから絡んでくるし。あたしは適当にあしらってるつもりでも、周囲の視線が生暖かい時点で嫌な予感しかしないって。

 しかもどこで学んできたんだか知らないけど、おしゃれな格好までしちゃって。

 ほんとそれでもあんたは神様なのかっ!現代に馴染みすぎだよ。

 完全に我が家に馴染んでるし。母さんなんて尻に敷いてるし。それを断れない自称神様も相当なヘタレだな、おい。

 まぁ。上手く扱えば便利なやつだし。そういう点ではあたしとしてもいいんだけどね。時々めんどうで、うざいけど。

 凄みを利かせるとすぐはいと項垂れて実行してくれるし、なんていいパシリ……。

 あたしの行き先に付いてきたりしなければ、それさえしなければ使えるやつなんだけど。本来は実体がないからストーカーとして通報もできないし。

 とか、以前自称神様にぼやいたら、それからしばらくあたしと母さんの前に現れなくなったことがある。

 ちっ、言われなければよかった。数日間パシリが消えてあんたのかわりにあたしが家事の手伝いしないといけなくなったじゃん。

 それでも結局ひょっこりとあいつは姿を現したけど。

 そもそもいつからあいつはここにいるのだろう。

 今の家に引っ越してきたのは中学生の頃であった。

 ずっと過ごしてきてたマンションを出て移った念願の一軒家。確か引っ越して数日経った頃だったと思う。

 気づけば家の中に自称神様は自分の家と言わんばかりにくつろいでいた。

 その瞬間あたしがとった行動を未だに忘れられないと自称神様は言う。

「初対面の腹思いっきり蹴って顔面を床に叩きつけたあげくに腕をひねって背中に乗りつつ、背骨を膝でぐりぐりするとかどんだけ痛かったと思ってるんだよ」

 だって、家に帰った自分より少し年上の少年とも言えないぐらいの男がいるんだよ?誰だって警戒するじゃん、防衛本能だよ。

「いや、お前のは絶対防衛の領域超えてるから。よかったな、俺が人間じゃなくて、生身の人間だったら病院送りだったぞ」

 うん、あんたが霊体で助かったよ、おかげで本気で殴れるし。

 と、殴る素振りをするたびに本能的にかあいつは危機を察知してすぐに消えてしまう。

 ちなみにこのやり取りは相当繰り返した。

 いつもあたしが勝って終わる。

 それをいつも父さんが同情めいた目で見てるのが常だ。

 残念ね、父さん。この家の女は強いよ。自称神様よりも。

 そうして気づけばこの家は三人家族から四人家族になっていた。自称神様は基本的に食事を必要としてないので、食事代がほとんだかからない。家計にやさしいパシリ、じゃない家族の一員だ。

 今まで一人っ子だったあたしには何気ないこの会話が楽しくて新鮮だった。

 自分で神様と連呼するから胡散臭く思えてしかたなかったけれど、本当にこの地で長い長い歴史を見てきたことはどうも確からしい。

 二人で買出しに行ったときに昔はここは田んぼだったとか、市が開かれてた場所だったとか色んな、あたしの知る由もない時代の話をしてくれた。

 それはもう終わってしまった時代。

 その頃も時折人間に化けて人里で遊んでいたらしいが、どうもその頃から色んな人にパシリにされていたらしい。うん、やっぱりこいつはヘタレだ。神様ならもうちょっとしゃきっとしやがれっ。

 垣間見るあいつの表情の中には確かに過去に対する執着とも呼べる感傷があったのは確かだった。

 あたしの、あたしたち家族の知らない世界を見てきたのは確かだった。

 胡散臭くて、ヘタレでうざったい我が家の奇妙なもう一人の住人は確かに神様だった。



「ほれ、遅刻すんぞー」

「な、朝から何乙女の部屋に入ってきてるの、変態っ」

「わっ」

 目覚めと同時に嫌な顔を見たあたしは朝一番にとりあえず自称神様の顔面に枕をお見舞いしてやった。

 ちなみにあたしはあいつがやってくる少し前には起きていてちょうど制服に着替えたところだった。もう少し早く来てたら枕だけでは絶対すまさなかった。

 枕を顔面に受けてしばらくしたあとすうっと消えていったあいつを尻目にあたしは櫛で髪をとかす。

「ったく、部屋に入るなって言ったのに」

 今頃今度は一階に出現し、父さんとともに朝のニュースを見てるだろう自称神様を思いため息をついた。

 それから自称神様を適当にあしらいつつ、家を出る。今日は学校だ。どうも自称神様には行ける範囲が限定されてるらしく隣の市にあるあたしの高校までは来れないらしい。おかげであたしはかなりその縛りに助けられている。

「いや、見事に金縛りにあって眠れなかった」

「お前も大変だな。こっちは宇宙人に部屋を荒らされて大変だったぜ?」

 最寄り駅から高校までの短い距離を歩いてる間、ちようどあたしの後ろを歩いてる二組の男子生徒の声が聴こえてきた。そのうち一人はクラスメイトだ、未だ話したことはないけれど。

 それにしても宇宙人に部屋を荒らされたとかなんだそれ。

 あの自称神様でさえポルターガイスト的なことはしないのに。というよりやった後が怖くてできないというのが正しい気もするけど。

「あの宇宙人いつまでいんだろ」

「俺の家の座敷わらしもいたずらは程ほどにしてほしいよ、全く」

 さらに耳を傾けていると今度は座敷わらしか。

 なんというか、ファンシーな会話だなぁ。

 作り話に聴こえるけれど、後ろでつかれたため息がやけにリアルでむしろ親近感が沸いてきた。

 あたしの家にいる自称神様も相当なもんだよ?

 まぁ、家に神様がいるなんて言っても誰にも信じてもらえないから一度も誰かに言ったことはないんだけれど。

 我が家の奇妙な住民にして、あたしの住む土地の神様。

 今日も家に帰れば、たわいもない会話きっと繰り返すのだろう。

 ……とりあえず、今日は帰ったら鞄投げつけよう、うん!

本作品は部活で書いた作品です。


お気づきの方もいるでしょうが、我が家の座敷わらしと同じ世界になっています。

そちらを読めば、最後のあたりの意味がわかるかと思います。

最後の文章はつまりそういうことです。

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