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死ぬ前に、なにやっておきてー?

 俺と喜央は、幼馴染だ。それも、生まれた日が同じなら、生まれた時間もほとんど同じ、家も隣なら、病院のベッドも隣という筋金入りの幼馴染だ。はっきり言って、ここまで重なるのは双子でもないとそうそうないんじゃないかってくらいの幼馴染だ。

 幼稚園の頃から、おはようからおやすみまでの殆どを一緒に過ごしていたからか、


「で、死ぬ前に何するよ?」


「んー、復讐はしてーな」


画面から目を離さずに、喜央が「むー」と考え込む。


「あとは男とのえっちぃ事の本番とか」


「やかましいわ。このレズ」


頭が痛くなる。そう、こいつはレズなのだ。しかも、外では巧みにその事を隠して……いや、単に他人とあまり話さないからばれてないだけだな。


「残念。冬樹限定でバイだ」


「余計悪いっつーの」


改めて、こいつの他人不適合ぶりを見て、諦観の溜息が出る。


「他には?」


「んー」


考え込む喜央の体を抱き寄せながら、俺も死ぬ前に何をしておきたいかを考える。


「商店街のカクテルバーには行きたいな」


「ん」


適当に、死ぬ前にやっておきたい事として思い浮かんだことを口にすると、喜央が同意するように小さく頷く。


「後は、何か食いたい物とか」


「いざって考えると、なかなかねーな」


ぽへーっとやる気無さ気なこいつの意見に俺も全面的に同意する。人間、いざ自分の死ぬ日を決めてみるとなかなかにやることが思い浮かばないもんだ。そもそも、自分の死ぬ日を区切るなんてこと自体がまず無いが。


「で、いつ殺るよ?」


洗髪は女の癖に適当なこいつの髪を撫でながら問う。その手触りは意外としなやかなものだが、匂いが自分と同じというのは如何なものか……。


「まあ、思い立ったが吉日っつーし、今日か明日には終わらせてーな」


「あいよ」


俺としても、そう何日も何日も「後何日で死ぬんだ」なんて覚悟を決めっぱなしにする労力は避けたい。はっきり言って、疲れそうだからな。


「んじゃ、とりあえず金物屋でも行くか?出刃包丁か何か買わねーと」


「初デートだな!」


「初でもなければデートでもないわ」


こんな殺伐としたデートがあってたまるか。


「じゃあ、非初デートだな」


「あってるけど、態々口にするようなイベントじゃないな」


そもそも、イベントじゃないな。


「ま、いーや、すぐに行こうぜ」


「あいよ」


テレビの画面を見れば、丁度ポリタンクが小学生を乗せたのト○ロに殴り飛ばされたところだった。





 で、


「出刃包丁買った足で、なんでビリヤードやりに来てるんだろうな?」


レンタル用の中々に手入れの行き届いていないキューを握った俺は、買ってきたばかりのメロンソーダを飲みながら、喜央に尋ねる。


「んー?ノリ?」


「まあ、それ以外ねーか」


ホームセンターの正面にビリヤード場があるゲームセンターがあっただけだしな。

 先攻を取った喜央がひし形に組み込んだボールを弾き飛ばして崩しにかかる。


「あ」


「どうしたよ?」


素人目のうろ覚えの構えに入ったところで、ふと何かを思い出したように、声を上げる。マジでどうした?


「なあ、冬樹」


「おう」


「俺の向かい側に立ってくれねーか?」


「……?まあ、構わねーけど」


こいつの発言の意図が読めないのはいつもの事だ。基本実害は無いから、いちいち気にするようなことでもない。


「そのまましゃがんでくれ」


「おう」


「俺、今日ノーブラなんだけど、どうだ?エロいか?」


「死ね」


そして、大抵がくだらない思い付きであるのも、いつものことだった。……はぁ。


「なんだよー。美少女のノーブラだぞ?もっと喜べよー」


「年考えろや」


こいつ、今年で24。俺、同じく24。


「女はいつでも心は美少女らしいぞ?」


「お前自身どう思ってんだよ?」


こいつは、世の中の女性像をどこか嫌っているというか、バカにしている感じがする。


「痛々しいな!」


「言うと思ったよ」


単に、周囲の人間関係で形成されたものだろーけどな。……俺の影響か?


「あ」


と、いやな予想を立てているうちに、喜央がしまったといった表情をした。見ると、こいつの馬鹿でかい乳がボールを押しのけてしまっていた。


「いやん♪」


「あざとい。つーか、わざとらしい」


品を作るな。きもい。


「やっぱり、冬樹に乳を持ってもわねーとだめだな!」


「外でその手の発言するな。殺すぞ」


後24時間しないうちに死ぬんだから、少し早くなっても別にいいだろ。


「嫌だよ!?」


「知っとるわ」


ま、宍戸には自分で復讐してーだろうしな。心を読むな?今更だし、こいつなら別に読まれるくらいは構わねーかな。


「……」


顔赤くしてねーで次。さっさとしろや。


「おー」


結局、こいつは終始照れっぱなしだった。まあ、狙ったけどよ。


「むー、ジゴロー」


「本気で言ってるのか?」


「ぶっちゃけ、俺みたいな特殊性癖以外には受け悪いだろうな」


「まあ、だろーな」


2ゲーム程終え、車に乗り込んだ俺は、相変わらず顔が赤いこいつを助手席に乗せて車を出す。


「あーくそ、三流エロコミでも無い様な口説き文句なのに、お前に言われると嬉しすぎる自分が馬鹿みてー」


「さよか」


俺にそれ言ってどう反応しろっていうんだ。


「おいおい、こんな美少女にここまで言われてるんだから、喜べよ」


「美少女とか分かんねーんだって。知ってるだろ?」


クラスの女は言わずもがな、芸能人もAV女優も、美人て言われてもピンとこねー。正直、大体同じに見える。まあ、


「お前に言われるなら、俺も嬉しいよ」


「やべ、くそ、お前好きすぎるわ俺。ちょっとカーセックスしたくなるくらいに」


「初めては俺ん家とかって言ってなかったか?」


「くそ、むらむらしてきた。さっさと帰ろうぜ。具体的には70くらい出して」


「へーへー」


微妙にチキンめ。


「フェラだけならノーカンだよな?」


「事故るわ」


バカ野郎。


「女だっつの」


やかましいわバカ野郎。


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