仲間
敵によって飛ばされた先に居たのは蒼の人生を大きく変えた張本人、空だった。
十年という時間を背景に彼女を目の前にした彼は過去を振り返る。
小さな、村だった。
特に大きな宿泊施設も無かったし、外との関わりも無かった。
紛争に巻き込まれることも起こすことも無く、決められた枠内での自由を喫していた。
しかしただ一つだけ、この村には他とは違う伝統があった。
この村の一族は生まれつき、身体能力が他の地域の人間たちよりも長けているという性質があり、異端である一族は他所から脅威になると恐れられ続け、都より隔離された。
そして外出の有無も関係なしに一族は迫害されることが増え、存続に関して危機的状況へと陥った。
しかし、国の上層部の一部は利用価値があると踏み、従うしか生き残る術がない一族は国のための暗殺マリオネットの集団へと生まれ変わった。
『今日はあいつだ』
『いいか、跡は残すな』
『捕まったら自害しろ』
『現場に出たら仲間は利用しろ』
時に非情に、村を救いたいのなら他国の者を殺せ、犠牲は常に付き物だと、理不尽に叩き込まれた。
それは男女問わず一族全員に化せられた生き残るための義務だった。
村の子どもには一族の大人たちが優秀な暗殺者に仕立てあげるために教育を施していき、幼少期から殺人というものが常に付きまとう生き方を歩まされ続ける。
そして徐々に村人たちは家族以外の者と馴れ合うことをしなくなっていった。
皆生きていくことに必死な上、今日明日知り合った仲間を時には見殺し、時には裏切らなければならなくなるからだ。
当然のごとく、特別な感情を誰も持とうとはしなかった。
そんなある日、仕事を始めて数十件目の依頼で、そろそろ実践にも慣れてきた頃だった。
仕事内容は、敵国に侵入したのち要政治家とその夫人を殺害するという二人一組でこなされる当たり障りのない任務だった。
目標の家屋で待ち伏せ、確認でき隙が見え次第、遠方から自前の即効性の毒を射る。
計画はすぐに出来上がった。
そして、予想外に時間が掛かったが標的を射止めることができた夜。
本来ならばすぐに立ち去るべきなのに、自らの仕事への油断から思うように動けなく、マニュアル通りにはいかなかった。
現地は熱帯地で予想を遥かに上回るほどの暑さであった。
何日間も飲まず食わずに見張りを続けていたせいで睡眠不足にもなり、体力が限界へきていた。
耐えきれずに、目標を射た後意識を易々と手離してしまったのだ。
『殺すなら今すぐ殺せ』
意識が戻り先にそう呟いたあと、目を開いた。
状況を飲み込もうと辺りを目で探る。
洞窟らしく土の匂いが間近に草木を下敷きに横になっていたようだった。
何より手足の自由が利くことに驚いた。
そして、ふと、壁にもたれかかっていた女がこちらへ近づいてきた。
『誰があなたを殺すの』
装備が幾らか外れて顔を顕わにされ、青色の長髪に瞳は赤色をしていた。
それが、翠だった。
『なんで助けた』
どうして自分が生きているのか、任務を達成出来たのに何故まだ一緒にいるのか、理由が分からなかった。
幼い頃から他人は他人でしかないと教えられてきた自分にとって今の状況はあまりにも受け入れ難いものであるからだ。
『だって仲間でしょ』
彼女の腕には来る以前には無かった乱闘の末に残るような痕があった。
当たり前のように問い返してくる彼女が、異質で仕方なく信じられなかった。
しかし任務を終え村に戻った後にも、他にはない彼女の親切さに段々と惹かれていった。
生まれて初めて出来た仲間だった。
その後何度か同じ仕事に当たることがあり、人望の厚い彼女の周りには徐々に人が増え、人だかりが出来ていった。
珍しく村に活気が見え、皆が繋がろうとしていた。
『双子の妹の空っていうの』
そんな折、改まって初めて翠の家族を紹介された。
空は髪は短かったが彼女に似て青の髪色に赤色の瞳を持っていた。
翠に似て感情的な部分が多く、自分たちの集まりにすぐに馴染んでいった。
『俺らの代になったらみんなで国を変えていこう』
いつしか村は、夢や希望で溢れていた。
非難するものも多少はいたが、それでも日増しに自分と翠を筆頭に理解者が徐々に増えていった。
一族の大半が国へ、政府へと立ち向かおうと志し、それを共にするということがとても嬉しく有難く、一族は温かな情に溢れていった。
そして村長が弔われたのち、次期後継者へと選ばれていた自分に代が交代した。
それからしばらくして、ついに政府へのクーデターの計画が練られた。
翌週に決行することとなり、それまで各々で準備を済ませることにした。
村長として威厳が出始めた頃の自分は、翠の下へと向かった。
『もし無事に全てが終わったら』
その先は言わずとも伝わり、最愛の人間、翠と約束を交わした。
死亡フラグ出しました。
この先はもうお分かりいただけると思います。
設定が浅くて申し訳ないです。
主人公の過去編は次ページで幕を降ろします。
でも話自体はまだ続きます。
もう短編と言い張るのは辞めることにします。