第7話 追われる者たち
森を抜けた空は、沈みかけた夕日に照らされて朱に染まっていた。
風を切り裂き、白銀の竜が空を駆ける。その背にしがみつく少女――アイリスの頬を、冷たい風が何度も打った。
「ルーク……もう少しだけ、お願い……!」
声をかけるたびに、ルークは軽く頷くように翼をはためかせる。
竜の力強い鼓動が、背中越しに伝わってくる。けれど、その体温の奥にあるのは、弟としての記憶なのか、それともただの本能なのか――アイリスにはまだ、わからなかった。
空の彼方には、追手の影が見える。
彼らは魔導具を使って飛行する騎士団で、徐々に距離を詰めてきていた。
「……しつこいな……」
唇を噛み締めながら、アイリスは前方に山が連なる風景を見つけた。
あの中に、精霊たちが眠るという「神秘の泉」があるという話を聞いたことがある。
あの泉なら、きっと――
「ルーク、あの山の方へ……!」
声を張り上げると、ルークは一声低く鳴いて答えた。
翼を大きく広げ、風を巻き込みながら山の方向へと旋回する。
そのときだった。背後から、光の弾が飛んできた。
「っ……危ない!」
ルークが反応し、体をひねって光弾をかわす。
けれど次々と放たれる魔法の矢は、容赦なくふたりを追い立てる。
「なんで、なんでそこまでして……! ルークは、誰も傷つけてないのに!」
アイリスの叫びが空に消えていく。
だが、追手のひとりが応じるように言った。
「"竜"は災厄の兆し。喋る竜など、存在してはならない!」
「そんなの、勝手な理屈よ!」
怒りで視界が滲んだ。けれど、涙を流している暇はなかった。
あと数発の魔法弾が当たれば、ルークは持たない。翼が焼かれれば、墜ちてしまう。
そして――
「……っ」
ひときわ強い光が生まれた。追手の隊長らしき男が、詠唱の終わりに叫ぶ。
「魔封雷撃――撃てぇっ!」
雷のような魔力が、一直線にルークを狙う。
だが――
「ルーク!」
アイリスが叫ぶと同時に、ルークは自ら光の方向に飛び込んだ。
背中の少女を守るように翼を閉じ、正面から雷撃を受け止める。
衝撃が空を走り、轟音が響いた。
アイリスの視界が白く弾け――次の瞬間、彼女たちは空から落ち始めた。
「――ルーク……!」
落下する中、アイリスはルークの体を必死に抱き締める。
竜の体は熱を帯び、傷つきながらもアイリスを庇うように、翼を最後まで広げ続けていた。
木々の隙間を縫うように、彼らは森の奥へと落ちていく――。




