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第26話 明けない夜を越えて

焚き火の赤い光がゆらゆらと揺れるなか、ルークとアイリスは寄り添って夜を越した。空気は冷え込んでいたが、ふたりの手の温もりがそれを忘れさせてくれた。


だが、静寂は長くは続かなかった。

夜明け前のまだ暗い時間――森の奥から金属音が響く。


「……来たわね」


アイリスはすっと立ち上がり、ルークの前に身をかばうように立った。

森の影から現れたのは、全身を鎧に包んだ数人の騎士たち。王国直属の追手だ。


「アイリス・ノエル。王命により、おまえの身柄とその竜を拘束する」


冷たい声が夜の森に響く。アイリスは剣を抜いた。

その手は震えていたが、ルークを守るための決意がその震えを打ち消していた。


「この子は……私の弟よ。誰にも渡さない!」


「ならば、力ずくで連れていくまでだ」


騎士のひとりが踏み込んできた。アイリスはそれを迎え撃つ。

火花が散り、夜の森に剣戟の音が響いた。


数では不利だった。彼女は訓練を受けた貴族の娘ではあったが、相手は歴戦の兵士。剣を交えるたびに腕がしびれる。それでも、退かなかった。


「姉さまっ!」


背後からルークの声が響いた。振り返る暇もない。ただ、今この瞬間を耐えることだけを考える。


だが、そのときだった。


轟、と空気が揺れた。

金色の光が夜を裂く。

騎士たちが思わず身を引いた先で、ルークの背に蒼白の鱗が広がり、瞳が再び竜の光を宿していた。


「……ルーク……!」


彼は、自らの意思で変化したのだ。苦しげに息をつきながら、しかし瞳には確かな意思があった。


「姉さまは、ぼくが……守る!」


竜の姿に変わったルークが、咆哮とともに地を蹴る。その姿は以前よりも鋭く、確かな意志を持っていた。驚いた騎士たちが散り、森の木々がなぎ倒される。


アイリスはその背に手を伸ばした。けれど、ルークは振り返りながらも、悲しげに首を振る。


「ここは……ぼくが引きつける。姉さまは、早く!」


「でも、ルーク!」


「大丈夫。ちゃんと、あとで追いつく。姉さまを……守るって、決めたから」


その言葉に、アイリスは立ち尽くす。けれど、ルークの目は嘘をついていなかった。小さな弟が、彼女を守る盾になろうとしていた。


「絶対に……絶対に、また会うのよ!」


アイリスは涙を飲み込み、ルークの言葉を信じて森の奥へ駆け出した。背後で再び咆哮が響く。だが、それはもう彼女の背を押す音だった。


走る道すがら、アイリスは唇を噛んだ。こんな形で引き離されるなんて、誰が望んだろう。


それでも――


(ルーク……あなただって、私を信じてくれたのね)


だから、きっとまた会える。ふたりで未来を掴むそのときまで、絶対にあきらめない。


夜は、まだ明けない。けれど、それでも心には確かな光が灯っていた。

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