表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/28

第24話 風が運んだ未来へ

霧の中を滑空する感覚は、不思議と恐怖を感じさせなかった。


風が翼のようにふたりを抱え、そっと落ち葉のように渓谷の底へ導いていく。


「……ルーク、大丈夫?」


アイリスが手を握りながら声をかけると、ルークは少し汗ばんだ額を拭って笑った。


「うん。こわかったけど、お姉ちゃんがいたから、飛べた」


彼の頬に、あどけないながらも確かな勇気の跡が浮かんでいる。

それは、ただの“弟”ではない。共に戦った“仲間”の顔だった。


やがて霧が晴れ、ふたりは草に覆われた小高い丘に降り立った。そこには、小さな村のような集落が見えた。けれど、見慣れた王国の建築とは異なり、木々と調和するように建てられた、不思議な雰囲気の家々だった。


「ここ……どこだろう?」


「おそらく……“風隠ふういんの里”。伝説に語られる、精霊たちと共に生きる民の村かもしれない」


アイリスは、数年前に読んだ古い書物の一節を思い出していた。王国の勢力が及ばぬ“風の谷”に生きる民たち――彼らは竜の力を崇め、過去には竜と心を交わした者もいたという。


「ようこそ、風の導きし者たちよ」


優しい声が響き、ふたりが振り向くと、長い銀髪を編み上げた女性が立っていた。年齢は不明だが、その姿からは凛とした気品と精霊の気配が感じられた。


「あなたたちは、あの霧の渓谷を越えてきたのですね。それは選ばれし者だけが辿り着ける場所です」


「……あなたは?」


「私はエルシア。この村を守る者です。そして――ルーク、あなたを迎えにきた者でもあるのです」


ルークが驚いて、アイリスの腕にしがみつく。


「ぼくを……?」


「ええ。あなたの中に眠る竜の記憶。それは、完全に消えたわけではありません。まだ、その力は眠っている。けれど――あなた自身の意思がなければ、目覚めることはない」


「ぼくの……意思」


ルークは顔を伏せて考え込む。アイリスはそっと彼の肩に手を置いた。


「無理に思い出すことはないよ。でもね、私は信じてる。たとえ姿が変わっても、ルークはルーク。私の大切な弟だって」


ルークはその言葉に小さく頷いた。


エルシアはにっこりと微笑んだ。


「あなたたちがこの村に来たのは、偶然ではありません。風が導いたのです。しばらくここで、羽を休めなさい。そして、自分の未来を見つけるのです」


ふたりは顔を見合わせ、静かに頷いた。


逃亡と追跡の果てに、ようやく辿り着いた静かな地。

それは、新たな始まりを告げる場所だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ