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第18話 影を断ち切る剣

森の夜は、深く静まり返っていた。だが、その静寂は一瞬にして破られた。

洞窟の外で、木々をすり抜ける風とは異質な音がする。剣が鞘から抜かれる、かすかな金属音――アイリスの耳は、それを逃さなかった。


彼女は短剣を抜き、音のする方へ身を低くして進んだ。焚き火の炎を背にしたことで、暗がりに目が慣れている。

そして、木の陰に潜みながら、数十メートル先に人影を見た。


一人――いや、二人。


黒い外套に身を包んだ兵士。胸元には、王国の紋章を簡略化した刺繍がある。

追手だ。

だが、彼らは油断なく動き、言葉も交わさず合図だけで進んでいた。


アイリスは唇を噛みしめる。こんな夜に、こんな場所まで追ってくるなんて……執念深い。

ルークの存在が、彼らにとってどれほど脅威かを思い知らされる。


(このままでは見つかる。戦うしかない――)


だが、そのとき。


 「お姉ちゃん、危ない!」


小さな叫び声が洞窟の方から聞こえた。


しまった、と思う間もなく、兵士の一人が振り返った。


「そこか!」


アイリスは飛び出した。短剣を振るい、相手の刃を受ける。火花が散る。もう一人が横から迫るのを察知し、彼女は足を滑らせるようにして地面へ転がった。


「ルーク、隠れて!」


「いやだ!」


焚き火のそばにいたルークが、こちらへ駆け寄ろうとする。


「動くな、子供!」


兵士の一人が、ルークに向けて剣を振りかざした。


その瞬間だった。


空気が、震えた。

ルークの体から、淡い光がほとばしる。白銀の光は、彼の背後に巨大な竜の幻影を浮かび上がらせる。

牙を剥いたその幻影は、兵士に向けて咆哮した――。


 「グ、アアアッ……!?」


兵士の体が宙を舞い、木に激突して倒れ込む。もう一人の兵士も、その圧に押されるようにして後退し、剣を落とした。


アイリスは、ルークに駆け寄った。


「ルーク、大丈夫? ……すごい、今の……」


ルークは小刻みに震えていた。力を使った直後の反動か、それとも――。


「わからない……でも、怖くなかった。お姉ちゃんが、やられそうで……それだけが、嫌だった」


アイリスはそっと抱きしめる。その小さな背に、まだあたたかい鼓動があった。


「ありがとう、ルーク。でも無理はしないで。あなたの体はまだ――」


「ううん、大丈夫。ぼく、もう逃げたくない。お姉ちゃんを守るって、決めたから」


その言葉は、確かに彼の意思だった。

もしかしたら、竜として過ごした時間が彼に与えたのは“強さ”だけではないのかもしれない。孤独や恐怖を乗り越えて、今ここにいる少年は確かに“成長”していた。


木々の間から、淡く月明かりが差し込んだ。

その光の下で、ルークの肩に乗った銀色の羽が、ふわりと揺れていた。


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