表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/28

第14話 もう一度、名前を呼んで

魔喰獣の咆哮が森を震わせる。


その巨体は炎を纏ったように見え、吐息一つで大気が歪む。

アイリスは剣を構えたまま、竜の姿に戻ったルークと背中合わせに立った。


「ルーク、タイミングを合わせて。私が左から注意を引くから、君は右から回り込んで――!」


「わかった!」


言葉少なに交わした作戦。だがその呼吸は、幾度となく共に過ごしてきた二人にとって、ごく自然なものだった。


アイリスは地を蹴る。

魔喰獣の爪が空を裂き、彼女のマントをかすめる。剣を横に払い、相手の注意を惹きつけたその瞬間――


「うおおおおおっ!!」


ルークが雄叫びを上げ、翼の風圧で魔喰獣の体を押し倒す。

その一撃は確かに効いた。だが、魔喰獣も黙ってはいない。呻き声とともに立ち上がり、黒い煙をまき散らして再び突進してくる。


「っ、こいつ、しつこい……!」


アイリスの額に汗が滲む。

すでに何度も攻防を繰り返していた。相手は魔力を喰らう性質を持ち、精霊の力も打ち消される。普通の剣技も通じにくい。


だが、それでも。


――ルークを守る。それが、彼女のすべてだった。


「姉ちゃん!」


その声に振り向いた瞬間、ルークが体を張って彼女を庇った。

魔喰獣の爪がルークの肩を裂き、銀の鱗が飛び散る。


「ルークッ!!」


「大丈夫、まだ……動けるっ」


血を流しながらも、彼は立っていた。

そして、アイリスの手を強く握った。


「姉ちゃん。……ありがとう。僕、ずっと言えなかったけど、ずっと思ってたんだ。もう一度、名前を……呼んでほしかった」


アイリスの瞳が揺れる。


「……ルーク。私の、大事な弟」


その言葉に、ルークの瞳が静かに潤んだ。


「――もう迷わない。僕は、君の弟として、生きる!」


叫びと同時に、ルークの体がまばゆい光に包まれる。

白銀の鱗が砕け散り、翼が空へと還るように霧散し――


そこに現れたのは、かつての弟。

幼い面影のまま、少しだけ成長した少年の姿だった。


「ルーク……!」


「姉ちゃん!」


二人は互いに抱き合う。

戦いは終わった。

魔喰獣は霧散し、森には再び静けさが戻った。


アイリスはルークの頬に手を添え、確かめるように微笑んだ。


「ようこそ、おかえり。ルーク」


「……ただいま。姉ちゃん」


手と手が重なり、胸と胸が通じる。


この世界に来て、失ったものは多かった。

けれど、再び繋がった絆が、全てを照らしていた。


朝の光が、差し込んでくる。

夜明けが、二人の未来を祝福していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ