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第1話 白銀の森

気がつけば、あたり一面が眩いほどの白だった。

雪ではない。光でもない。けれど、確かに目を開けていられないほどに、全てが白く満ちていた。


「……ここ、どこ……?」


少女――アイリスは、身を起こしながら呟いた。地面は冷たくはなく、草の感触もあったが、それ以上に空気が異様に澄んでいる。周囲には、見たこともない巨大な樹々がそびえ、空は淡く光っていた。


異世界――という言葉が、唐突に胸の奥に浮かぶ。


確か、自分は事故に巻き込まれたはずだった。雷鳴、黒いタイヤ、急ブレーキ、誰かの悲鳴。そこで記憶は途切れている。


けれど今、彼女の目の前には、白銀の鱗に覆われた巨大な存在が、静かに横たわっていた。


「……竜……?」


アイリスはその姿を見て、無意識に息をのんだ。白銀の鱗は光を受けて微かに輝き、まるで宝石のような冷たさと神秘をまとっている。だが、目を引いたのはその顔――いや、瞳だった。


大きな金色の瞳。

その奥に、見覚えのある微かな影が差していた。


「……ルーク……?」


ぽつりと呟いた名は、彼女の弟のものだった。


誰よりも優しく、繊細で、人を傷つけることが嫌いだった小さな弟――ルーク。彼はすでに、病に倒れこの世にはいないはずだった。けれど、この竜の瞳には、彼の眼差しと同じ静けさが宿っている気がした。


竜はゆっくりとまぶたを閉じ、再び眠りに落ちていったようだった。


アイリスは、じっとその姿を見つめていた。恐怖は不思議と湧かなかった。ただ、胸の奥が熱くなる。体の奥から、懐かしさのようなものが込み上げてくる。


「……ついていっても、いい?」


その問いに答えはなかった。けれど、竜の呼吸は静かに、穏やかだった。


アイリスはふわりと微笑むと、竜の脇に腰を下ろし、そっと目を閉じた。冷たい風が吹き抜ける。けれど、その体温はどこかぬくもりを帯びているように感じた。


「――もう、寂しくないよ。今度は、私が守るから」


誰に言うでもない言葉を、彼女は風の中にそっと置いた。


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