第2話 少年の戦い
一つ一つ話が短かくて、恐縮ですがご容赦お願いします。
なにしろ時間がなくて・・・・
「それ、そっちに行ったぞ!」草原に男達の声が響く
「やつめ今日こそは仕留めてやる。」
男達の視線の先にあるのは体長が2メートルはあろうかという『コロコッタ』だった
コロコッタとはライオンとハイエナの合わさったような猛獣で、はるか昔、それらの猛獣たちが地上から姿を消した後草原で繁殖した生物である。
鳴き真似がうまく、牧童の声を真似て家畜をおびき出して食べてしまうので遊牧民族にとっては厄介な相手だった。
「いいか、一発で仕留めろよ・・・」弓を構えた男に向かって友人が忠告する
まさに矢が放たれようとしたその時だった。
「グワオオオオオオ」真後ろで唸り声を発もう1匹のコロコッタが現れたのだ。
「ぐわあああ!」肩を食いつかれた射手が絶叫する。
「この野郎!」射手の友人である男が腰に下げた湾刀を抜こうとする。
「グワオオオオ!」男の動作を確認にしたコロコッタは射手を離し、標的を前方にいる男に変えた。
「くそ、間に合わねえ・・・」コロコッタは走りながら勢いよくとび跳ねた。
まだ刀を抜き終わってない男は観念した「終わりか・・・」
男はすさまじい痛みと衝撃を覚悟して目をつぶった。「グワオ!」
コロコッタの唸り声がした。だが肝心の衝撃や痛みはいつまでたっても来ない。ゆっくりと目を開けた男が見たのは目の前で倒れもがいているコロコッタだった。
その腹には、ショートボウの矢が突き刺さっている。
「あれは、毒矢?」コロコッタに突き刺さっている矢はよく見れば赤い羽根が付いている。
赤羽は毒を意味する。
「グワオオ・・・・」明らかにコロコッタは衰弱している。
何しろ遊牧の民が使う毒矢は彼らがサラマンダーと呼ぶオオトカゲの毒であり、バードタイガーですら一撃で倒す猛毒なのである。解毒剤がない限り助からない。
「助かった。しかし誰が・・・」矢が着たであろう方向を向いた男はその先の人影に目を凝らした。
「あれは・・・ミゲルか!」彼の視線の先、大木の陰で弓を構える少年『ミゲル』は毒の影響で完全に動きが止まっている一匹から、こちらを警戒し様子をうかがっているもう一匹にコロコッタに視線を変えた。
「グワオオオオオオ!」仲間を傷つけられて怒り心頭のコロコッタは唸り声をあげてミゲルに向かってきた。
「無駄だよ・・・」ミゲルは素早く矢を構える
「これだけ距離があるんだ、届かない。」ミゲルはコロコッタに向けて、先ほどに一匹に喰らわせたのと同じ赤羽の毒矢を放つ。
「グワオ!」ミゲルの放った矢は見事にコロコッタに眉間に突き刺さった。
「いまだ!」ミゲルとコロコッタの闘い(というより一方的な殺し)を呆然と眺めてしまっていた男は我に返って飛び出した。
なにしろ、今コロコッタと闘っているミゲルは、まだ15である。遊牧民族である『パラガ』の民は16歳で『大人』と認められるので、15で戦っているからといって大して問題がないように思えるが、それでも15歳まではまだ『子供』である。
村のおきての中には『16になるまで戦はするな。戦に巻き込まれた場合すぐに逃げろ』
というものがある。
この掟は、『大陸戦争』と今では呼ばれている大戦で人数の少ない遊牧民族側で、闘えるものをすべて繰り出しての総力戦を仕掛けた結果、なんとか敵を撃退したものの多くの若い人材を失ってしまい。回復まで長い年月が必要になったためである。
「ミゲル、こいつのとどめは俺がさす。お前は村に戻って長にこのことを報告してくれ!」ミゲルは一瞬、不満げな顔をしたが、すぐに頷き首にかけた笛を鳴らす。
「キアアアア!」すぐさまミゲルの所に一匹のバードタイガーが駆け寄ってきた。
その翼の色はバードタイガーにしては珍しく『黒』。突然変異種といえるだろう。
「よし、いい子だ。『ブラッド』早く長のもとに戻ろう。」ミゲルの声にブラッドは
首を振ってこたえる。
「まじで、あり得んな。バードタイガーに人間の言葉が通じるなんて・・・」
男の言う通りで、普通バードタイガーが人の言うことを理解し、意思の疎通ができる可能性はゼロに近い。もちろん過去にもそんな例はない。だが、ルデンのバードタイガーであるブラッドだけはそれができるのだ。
「もっとも、やつがルデンの言うことしか聞かんから大して意味ないが。」不思議なことにブラッドはルデン以外のものが話す言葉にはまるで反応しないのだ。
「さあ、行くよ!走れブラッド!」
ルデンの声に従いブラッドはすさまじい勢いで走り始める。
「飛んで!」ルデンの声を合図にブラッドは畳んでいた翼を広げ、大きく一振りする。次の瞬間ブラッドは大空に駆け上がるように飛んでいった。
「まったく、実際大した子だぜ。あれで長の『本当の息子』だったらな・・・次の長になるのは間違いないだろうに。もったいねえこった。」
男は首を振り地面に横たわる2匹のコロコッタに目線を向けた。
「さあて、こいつらの後始末をしなきゃな。」男は苦笑いを浮かべながらコロコッタたちの方に向かっていった。