第1話 少年の目覚め
「ここは・・・」目を覚ました少年は周りを見渡した。自分がどうしてここにいるのか
そして自分が誰なのか、少年は全く覚えていなかった。
「おきたか、少年。」テントに入ってきたルデンが少年の顔を覗き込んだ「お前はここから5キロほど離れた大木の枝にぶら下がっていたんだ。」少年は不思議そうな顔をして男を見た「そうか、われらの言葉は通じないのだな。」やはりこの少年、遊牧民ではない、そう思いながらルデンは大陸共通語で同じことを繰り返した。
「誰が助けて下さったのですか?」ルデンは大陸共通語を嫌っているのでいらいらしていたが、それを表面に出さないよう落ち着いた表情を浮かべながら答えた「この私だ。」
少年は驚いた表情を浮かべた「あなたの名は何と?」少年の問いに子供臭いものが感じられないことを疑問に感じながらもルデンは返した「人に聞くときはまず自分からいうのが礼儀じゃないか?」少年は急に下を向いて黙ってしまったが、ルデンが催促すると突然しゃべりだした「思い出せないんです、どうして枝にぶら下がっていたのかも。自分の名前さえ、思い出せないんです。」
『この子、記憶をなくしているのか』ルデンは少々ばつが悪そうに笑いながら言った、「そうか、ならしかたがない、わが名はルデン。ルデン・パラガだ。」少年はルデンを見てニコッと笑った。
少年を連れて外に出たルデンは草原の上に広がる青空を見つめた、いつ見ても美しい空だ、少年の方はどうかと見てみると少年も青空を見つめている。
「どうしたんだ?」「いや、あの空の彼方に何があるか気になったのです。この青い空の向こうに何かがあるような気がするのです。」「そうだな、確かにあの空の向こうには別の世界があるのだろう、おれたちの部族では空の向こうには平安地があるという言い伝えがあるんだ。」少年は不思議そうな顔をした「平安地?」「ああ、そこには我々の部族の今まで無くなった長たちが集い、永遠に争いのない世界を統治していると言い伝えられているのだよ。」ふとルデンは少年が名を忘れていることを思い出した。
「お前は名を思い出せないんだったな。だったら俺が名をつけてやろうか。」
少年は驚いた顔をしながら言った「僕に名前を!?」「そうだ、わが父であり、先代の長でもあった者の名を付けてやろう『ミゲル』というのはどうだ。」
「ミゲル、いい名ですね。どういう意味なのですか?」ルデンは少し遠くを見ながら言った「草原を駆ける風という意味だそうだ、おれたちは遊牧民族だからな誰にも縛られず、誰にも邪魔されることのない自由の象徴が風だから付けられたとよく言われた。」少年はしばらく考えていたが
「じゃあ、お言葉に甘えてその名前をもらいます。」ルデンの顔が明るくなった「よし!今日からお前の名前は「ミゲル」だ。ところでお前はどこかに行くあてもないんだろう?だったら俺達の一族として暮らしたらどうだ。少なくとも俺達の一族に後1人増えたって大丈夫だとは思うが。」少年の顔も明るくなった「じゃあ、たびたび甘えてすみませんけど、ここに置かせてもらいます」「そうときまったら、お前は一族の一員なんだがら一族の姓をつけなきゃな。」「一族の姓・・・ってなんでしたっけ?」ルデンは少々、ずっこけたが気を取り直して言った。「パラガだ、君が一族の一員となったら
ミゲル・パラガという名になるわけだな。」少年、いやミゲルはルデンを期待と不安が
まじりあった表情で見つめていたが急に心配そうに言った「僕が遊牧民族の生活に慣れることができるかな?」ルデンは彼を正面から見据えて言った「大丈夫さ、むしろ頭が真っ白なお前さんならすぐここの環境に慣れることができる。1年もすれば見違えたようになっているよ。」ルデンの言葉にミゲルは力強く「うん!」と答えた。