《☆》婚約破棄をしてみたい
☆さらっと読めるショートショートです。
「あなたたちのせいよ!」
公爵令嬢らしからぬ勢いでアイリアナが三人に詰め寄る。
王宮のバラ園の中に用意されたお茶会は、ティーセットもお菓子も優雅を極めていた。
それを楽しむ四人、公爵令嬢アイリアナ、第三王子ルーク、宰相の息子イアンテ、騎士団長の息子ジュノーも、育ちの良さと気品が漂う美しい容姿だが、アイリアナは怒りの表情だ。
「私……、もう13歳なのにあなたたちのせいで婚約者が決まらないのよ! こんなハイスペック男子が近くにいるから、縁談を申し込んでも『もったいないお話です』『畏れ多い』って断られて! あげくに女子には『逆ハー女』って嫌われるし!」
「私たちにそんな事言われても……」
「僕たちは生まれた時からの付き合いですし」
「俺ってハイスペックなのか? 剣しか振れないぞ」
漂う雰囲気に反して話してる内容はゲスいな~、と控えてる侍女たちは思うが、仕事なので顔には出さない。
「ジュノーは口を開かなければ麗しの剣士なのよ」
「褒められた気がしない……」
「おっ、当たりだジュノー」
「それで、私たちにどうしろと?」
「私に婚約者を紹介しなさい! 高望みはしないけど、優秀で家柄も良くて人柄も良くて見た目もいい殿方を! 『友人の紹介』なら、逃げられ、いえ、断りにくいわ」
「「「 無理 」」」
「なんでよ! ならあなたたちと婚約するわよ!」
「「「 いいよ 」」」
「え……?」
ぽっと頬を染めるアイリアナ。
「私はトナリノ国に姫が生まれたら婚約するはずだったのだけど、四人目も王子だったそうで『この話は無かった事に』となったんだ。別にアイリアナでもいいよ」
「別にアイリアナでもいい……?」
「僕は将来アチラノ国に留学して経済を学びたいから、語学堪能なアイリアナが付いてきたら社交を任せられて楽だな」
「楽……」
「俺、難しい事は分からんから結婚したらアイリアナに全部やってもらう!」
「…………」
キュンもときめきも飛んで行って、死んだ目になるアイリアナ。
「全然嬉しくないプロポーズをありがとう……」
低いアイリアナの声に、何か失敗したと気付く三人。
「ほ、ほら、お菓子を食べて。そんなに急がないで、王立学園に入学してから婚約者を探してもいいんじゃないかな」
「そうそう、学園には国中からいい男が集まりますよ」
「強い男もな!」
「なるほど……」
アイリアナの目がキランと光る。
「そうだわ。ルークと婚約して、卒業パーティーで婚約破棄してもらうのよ! そしたらきっと、傷ついて悲しむ私に『密かにずっとあなたをお慕いしてました』って殿方が現れるわ!」
うっとりと宣言するアイリアナに対し
『うわ、面倒くさい』
『なんでお慕いしてる男がいる前提?』
と、うんざり顔の二人。
ジュノーはあっさりと答える。
「そんな七面倒くさいことせずに、気に入ったら押し倒して責任をとってもらえよ」
「まあ、はしたないわ。でも、やぶさかではないわね……」
『『 ジュノー! 面倒を増やすなー! 』』
アイリアナの婚約が整わないのはその性格が一因だと、本人は夢にも思っていない。