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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第99話 オープン直前

 いよいよ、食堂の開業日が迫ってきました。

 お店とすれば開店ですが、事業としてみれば開業です。まあ、この際はどっちでもいいじゃないですか。飲食業のスタートには変わりありません。細かいことはいいのです。


 食堂の貯蔵庫の中には、商業ギルドや冒険者ギルドから入荷した大量の食材が収められていきます。できれば前日からにしたかったのですが、納品数が足りないらしくて数日分を少しずつ納品する形となってしまいました。

 こういう時は冷蔵庫と冷凍庫が大活躍です。まずは冷凍庫で凍らせておいて、前日に冷蔵庫に移して解凍していきます。多少は劣化しますが、腐るよりは断然マシです。


「どうぞ、ラッシュバードの卵の生産が追いついて来たらメニューに追加する予定の料理です」


 私は納品をしてくれた職員たちに、ケーキの試食を振る舞います。

 このケーキに合わせる紅茶も、イリスやカリナさんたちと一緒に選定しました。

 結果として、隣国の茶葉がいいことが分かりました。確か、ゲーム中にも登場するヒロインの一人の出身地だったと思いますが、こっちの生活が長くなりすぎてちょっと覚えてませんね。

 ですけれど、ここまでアマリス様とルーチェしか関わってきてませんし、ゲームのシナリオから逸脱したとみていいでしょうね。気にするだけ無駄ということで放っておきましょう。

 そんなことよりも、ケーキと紅茶の評判です。

 女性陣からの評価はいいのですが、どうも男性陣は苦手そうですね。やっぱり男性って甘いものが苦手な方が多いのでしょうか。紅茶は評価が高いですのに。

 うーん、甘くないお菓子も考えるべきでしょうかね。また余裕のある時に考えるとしましょう。


「みなさん、ありがとうございました。開店当日まで、搬入の方、よろしくお願い致します」


「いえ、仕事ですから当然ですよ。レチェさんの食堂、成功することを願っております」


 最後に挨拶を交わしますと、みなさんはそれぞれのギルドに戻っていかれました。

 これで、明日の入荷までは食堂に近付いてくる人たちはいません。いたらそれは悪い人です。


 食堂の中に戻りますと、イリスたちが食材の確認を行っていました。納品書と実物が違うなんてこともありますからね。この手の類は使用人としての経験の長いイリスが最適です。

 イリスの指示に従って、カリナさんたちが食材の種類と量を確認して伝えていきます。それをイリスが納品書の内容と照らし合わせています。


「どうですか、イリス。内容に問題はございませんか?」


「はい、レチェ様。今のところは問題ございません。ミサエラ様を疑うわけではございませんが、やはり念には念を入れておくべきですからね」


「その通りです。ミサエラさんが問題なくても、他の方がしでかすことは十分に考えられます。特に私たちは素人ですから、悪い人には狙い目ですからね。騙せないとしっかりとアピールしておきませんと」


 私は鼻息を荒くします。それだけこの食堂には熱を入れていますからね。

 食材のチェックを続けるイリスたちと別れまして、私は裏手にいるウィルくんとジルくんに会いに行きます。彼らにはラッシュバードの世話を頼んでありますからね。

 私が鳥小屋に姿を見せると、スピードとスターが突進してきました。


「ブェフェッ!」


 もちろん私にぶつかることなく、手前で止まってじゃれついてきます。まったく可愛い子たちですよ。


「レチェ様」


 鳥小屋の中で世話をしているウィルくんたちも駆け寄ってきました。


「ウィルくん、ジルくん。元気そうですね」


「はい、ラッシュバードたちが元気ですから、僕たちもつられて元気になっちゃうんですよ」


「ふふっ、そうですか」


 私の質問に対する答えに、ちょっと笑ってしまいます。


「レチェ様、いよいよ三日後ですね」


「はい、三日後です。その時はウィルくんにもお店を手伝って頂きますよ」


「はい、僕、頑張ります」


 両手の拳を握って意気込むウィルくんの姿に、思わず私は和んでしまいます。


「いいなあ、兄ちゃん。僕も手伝いたいよ」


「ジルはもう少し大きくなってからだね。そうですよね、レチェ様」


「そうですね。ラッシュバードの世話もありますから、ジルくんにはこちらをお任せします。大切な仕事ですからね」


「うう、分かりました。レチェ様に期待されているなら、頑張ります」


 ジルくんも気合いを入れていました。


「ブフェ」


 スピードとスターも、ジルくんを応援しようと翼を広げていますね。


「主にお客様たちと接するホールの仕事を頼むことになりますので、あとでみなさんとお話をしましょうね」


「はい、頑張ります」


 健気の少年の姿に、私はなんだか頼もしさを感じてしまいました。

 その後も二人はスピードとスターの世話を頑張っていましたので、先に食堂へと戻ることにしました。


 食堂に戻ると、イリスたちはチェックを終えていたようです。

 報告によれば誤差はなしということでして、これなら初日は問題なく回せるかもしれませんね。客数の予想がまったく立ちませんが。


「では、表に開店の告知の張り紙をしてきますね。ギルドを通じては告知をしていましたが、納品がきちんとされたことで確実に回転できるようになりましたからね」


「はい、よろしくお願いします」


 表に出て、ラッシュバードの看板の真ん中に、開店日時を告げる看板を用意します。


「ア・ギア・ルド」


 下級の土魔法を使って看板を作り出し、そこに日時を書いた貼り紙をします。


「これでよしっと。さあ、三日後が楽しみですね」


 ちょうど夕刻ということもあり、道行く方々が私の方をじろじろと見てきます。ここは大通りですから、人通りが多いんですよ。

 いい宣伝効果になりそうですね。

 期待が持てそうな状況に満足した私は、通行人たちに笑顔で頭を下げると食堂の中へと戻っていったのでした。

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