第94話 大詰めです
さて、農園をギルバートたちに任せっきりにしていた私たちは、いよいよ食堂の名前を決めることにします。
「レチェトラン」
「却下です」
私の名前とレストランを引っかけた名前などやめて下さい。私のネーミングセンスにも劣るダサさですよ。
「必死に考えましたのに……」
よりにもよってその案を出したのがイリスですから困ります。あなたは優秀な侍女だと思っていましたのに、そのイメージを崩さないで下さいませんかね。
まったく、みなさんも見ての通り苦笑いをしているではありませんか。
そこに、ウィルくんとジルくんの兄弟が入ってきます。
「ねえ、何をしているの?」
ラッシュバードの世話をしていた二人が、私たちが集まっていることを気にしているようでした。
「あのね。レチェさんの食堂の名前を決めようとしているんですよ」
「そうなんだ。決まったの?」
母親であるティルさんが事情を説明しています。二人はとても目を輝かせながら、状況を確認してきます。
「それがね。なかなか決まらないのよ。これといった名前が出てこなくてね」
ティルさんは困った顔を見せています。
その表情を見ていたジルくんが、ぱあっと明るい表情を見せます。何か思いついたようですね。
「ラッシュバードはどうなの?」
「ラッシュバード……。そうですね、現状飼っているのは私たちとお城だけですからね、ラッシュバード」
ジルくんの言葉に、私は思わずはっとしてしまいます。
そうですよ、スピードとスターの二羽がここにいるではないですか。ここの街の人からすれば、ここでしか会えない存在です。農園にもいますけれど、訪れるのは商業ギルドの方々とおじさまたちくらいですからね。実質この食堂でだけとみていいでしょう。
なるほど、これは考えてもみませんでした。
ここまで私たちが案として挙げなかったのは、おそらく魔物がゆえのイメージのせいでしょうね。
やれやれ、身近なものとしていたはずですのに、無意識というものは怖いですね。
「そうですね、その案で行きましょう。名前を決めたら、ミサエラさんに看板の注文を出してきます。私が出ている間は、イリスが中心となって料理の再確認をお願いしますね」
「承知致しました。では、食堂の名前を決めてしまいましょう」
私とイリスの話を聞いていたカリナさんたちは、こくりと大きく頷きました。
これがまた難航しましてね。結局決まるまで体感二時間くらいかかりましたよ。
ジルくんの提案のおかげで、『憩いのラッシュバード亭』というちょっぴり長いですが、そのままで単純な店名に決まりました。
看板のデザインとしては、ラッシュバードの姿を入れたものをお願いしましょう。
「レチェ様、何をなさってらっしゃるんですか?」
「なにって、看板の基礎デザインを描いているのです」
イリスの質問に私は素直に答えています。イリスはどことなく呆れていますが、私の絵心をなめないでもらいたいですね。
私がいざ看板のデザインに取り掛かろうとした時です。今度はホール担当の三人がやってきました。
「レチェ様、よろしいでしょうか」
「はい、なんでしょうか」
私が顔を上げて応対しますが、三人はちょっとまごついたようにしています。言いづらそうにしているようですね。
「レチェ様、お三方は制服についてお尋ねしようとしていらっしゃるのですよ」
「……あっ」
ええ、今思い出しましたよ。そうです、制服を作る予定でした。
いや、いくらなんでも私いろいろと忘れ過ぎではありませんかね? 今十四歳ですよ、私。こんな記憶力でどうするんですか……。
いけませんね、ひとつに取り掛かるとひとつ忘れるのは、経営者としては致命的な欠点です。気をつけませんと……。
気を取り直した私は、改めて三人を見ます。
「希望はございますか?」
「いえ、これといった希望はありませんけれど、制服ということは同じ服を着るということでよろしいでしょうか」
「そうですね。一目でこの食堂の従業員だと分かればいいのです。それこそエプロンでも構わないと思います」
「では、おそろいのエプロンでお願いします」
エプロンという選択肢を出した瞬間、それをお願いされました。変な服を着させられると思ったのでしょうかね。そんなことしませんのに。
「仕方ありませんね。エプロンには看板と同じデザインの刺繍を入れさせて頂きますので、デザイン案ができたら確認してもらいますね。よろしいでしょうか」
「はい、わかりました」
言質は取りましたので、描き上がったら見てもらいましょう。選ばれたデザインをメインとして、ミサエラさんに持ち込みましょう。
そんなわけで、私は早速看板のデザインに取り掛かります。
数点でき上がったところで、イリスたちに見てもらいます。
しばらく話し合いをした結果、私たちの総意としてのデザインがひとつ選ばれました。
ただし、ミサエラさんとの話し合いにおいて、それが選ばれるとは限らないということだけは伝えておきます。
「さあ、商業ギルドに向かいますよ、スピード」
「ブェッ!」
近いので歩いてもいいんですけれど、食堂の名前にしても看板などのデザインにしてもラッシュバードが関わっています。
ですので、連れていかずして何が話し合いかというわけですよ。
そんなわけでして、私はミサエラさんとの打ち合わせに臨みます。
さあ、食堂開業に向けた最終の仕上げ、しっかりと決めさせて頂きましょう。




