第88話 おっちょこちょいにもほどがあります
さて、私が建てた建物ですけれど、やっぱり殺風景ですね。魔法でイメージしているとは言いましても、細かい飾りつけまではいくらイメージしても再現が難しいようです。
建てた食堂ですけれど、一応居住スペースを兼用した建物になっています。大通り沿いに近い建物は食堂です。一階部分しかありませんが、天井は少し高くして開放的にしてあります。
厨房を挟んだ奥に、居住スペース用の二階建ての建物があります。お風呂にトイレを完備です。
畑から食材を運ぶのは、ラッシュバードの役目ですね。
卵はまだ数が確保できませんので、一年目はメニューに加えるのは見送りました。だって、年間で確保ができる卵がおそらく四十個くらいですもの。ラッシュバードの卵が大きいとは言いましても、これでは到底売るだけの量が確保できませんからね。スターとキララだけでは無理です。こんなことならもう数羽大きくしておくべきでしたかね……?
まあ、今さらですのでそれはもう置いておきましょう。
ミサエラさんの付き添いの下、設備を確認して頂きまして、必要なものを発注していきます。
内装のテーブルや椅子といったものはもちろん、厨房の調理器具などなど、それは必要なものは多岐に渡ります。外装も食堂だと分かるようにしなければなりませんから、それも注文を出しておきます。
お金自体は薬草を売り払ったものがありますから、そこから賄います。
私からの要望を聞き届けたミサエラさんは、任せて下さいと力こぶを作って笑顔を見せています。私は思わず笑ってしまいましたが、ミサエラさんを信じて任せることにしました。
「さて、明日からは農園から野菜を運んできて早速調理をしませんとね」
「左様でございますね。では、私とカリナさんでこちらの面倒を見ればいいのですかね」
「そうですね。私も最初のうちはこちらで手伝いませんとね。バターやクリームを作るのは、現状では私でないとできませんからね」
「あれはレチェ様でなければ無理でしょう。あの風魔法の使い方は、普通の方では無理ですし、なんなら私も無理です」
イリスってば、かなり謙遜していますね。あれくらいでしたらちょっと加減を覚えればできますって。
当面は、イリスとカリナさんの二人に料理を覚えてもらいませんとね。
特にバターは焼き料理からパンまで、意外と幅広く使います。量が必要ですから作れるようになってもらいませんと困ります。
しかし、このままでは明日の夕方、私が農園から戻ってくるまでの間何もありません。
「それでは、少々ばかり食材を買いにまいりましょうか。このままでは明日のお昼まで何もない状態となってしまいますからね」
「承知致しました。では、早速買い物に参りましょう」
チェックもそこそこに、私たちは食材の買い出しに行きました。
買い物をして戻りますと、食堂の厨房の設備の使い心地を確かめるために、早速調理に取り掛かります。
現在は農園の家の厨房とほぼ同じでして、システムキッチン型になっています。本当はこれではだめなのでしょうけれど、今日のところは間に合わせなので仕方ありません。またミサエラさんと相談してみないといけませんね。
実は今の厨房、私が使うことが前提になっているところがありますからね。水のこととかもうちょっと考慮しませんとね。
「私もどうにか使えるようにはなっていますが、カリナさんには無理でしょう。レチェ様、もうちょっと考えて下さいね」
「分かりました」
イリスからも指摘されましたので、また明日以降手を加えましょう。
そんなこんなで夕食を無事に終えますと、今日のところはもう休むことにします。いろいろあって疲れましたからね。
ただ、寝る時になって問題が発生しましたね。
ええ、シーツがないんです。土魔法で作った硬いベッドはあるんですけれど、寝具の類がまったくないんですよね。これはいけません。
まったくもって困りましたね。
「イリス、私は今から商業ギルドに向かってシーツを購入してきます。オーナーとしての責任がありますからね」
「お一人でですか?」
「はい。イリスにはこちらのことをお任せします」
「承知致しました。どうぞご無事で……」
私は一人で商業ギルドに向かいます。
いけませんね。突貫工事であれこれやり過ぎたひずみが、ここに来て発生しています。もっと早く気が付くべきでした。
辺りは薄暗くなっていますけれども、紹介して頂いた場所は幸いギルドからほど近い場所です。大通りにも面していますので、少々暗くなった時間でも問題なくギルドに到着できました。
私は商業ギルドの中で事情を説明しますと、無事に全員分の寝具を手に入れることができました。代金は口座払いです。
……最初からこんな調子では先が思いやられるというものです。
私はギルドの職員に護衛をしてもらいながら、反省しまくりで食堂まで戻ってきました。荷物まで持ってもらって、感謝が絶えませんね。
「明日もよろしければ、ミサエラさんとお話をしたいのですが、お伝え願えますでしょうか」
「承知致しました。レチェさんは副マスターが期待していらっしゃる方です。必ずお伝えいたします」
送って頂いた職員に頼みまして、私は約束を取り付けました。
もう初日からやらかしまくりで、なんとも先行き不安です。こんな調子で大丈夫なのでしょうか……。




