第87話 さあ、新たな一歩です
収穫の時期を迎えました。
こうなると、ミサエラさんたちによる評価が待っています。
あれからもラッシュバードは増えまして、今では二十羽ほどのヒナが小屋の中でうろうろと可愛く動いています。ヒナの状態を脱している最初の四羽を入れると全部で二十四羽が誕生しましたので、だいたいふ化したのは半分ってところですね。
賑やかになりましたが、キサラさんとマリナさんの二人でどうにかなってるみたいです。すごいですね、あのお二人。
今日の私はと言いますと、畑に出て収穫のお手伝いです。
ノームたちの力も使えば調整が効きますので、こつこつと収穫です。
「さあ、明日はミサエラさんたちがいらっしゃいます。いいものをお届けできるようにしませんとね」
「まったく、レチェ様は頑張りますね」
「うふふふっ、それはもう当然というものです。今回のミサエラさんの訪問では、食堂の話もありますからね」
そう、今回楽しみにしているのは食堂のことで進展があるからです。ミサエラさんはぎりぎりまで候補を絞り込んでいたようですからね。査定と同時に私はそちら行き、ひと晩泊まることにしています。治安のほどを実際に確認するんですね。
同時に新しい従業員の紹介もあります。事業拡大で人手不足は間違いありませんからね。
さあ、明日からは忙しいです。
私は、ミサエラさんたちの訪問を楽しみに思いつつ、今日の畑作業を頑張りました。
翌日、ミサエラさんたちがやってきました。
農園の方が三名、食堂の方が三名ということでお願いしてありましたが、きちんと連れてきていらっしゃいました。
それで、ミサエラさんたちが収穫物の査定をしている間、私は六名の面接を行います。ミサエラさんが連れていらした時点でそこそこ信用はできますが。やはり雇用主として実際に見てみませんとね。
結果としては全員が採用となりました。
その際に、実際に農園で採れるものを使って、食堂で出す予定にしている料理を試食してもらいます。
「おいしい……」
「なんだ、これは!」
「うまいぞ」
ふふっ、どうやら好評のようですね。
今回は公爵領にあるウィルソン公爵邸の料理人から教えて頂いたソースも使っています。教えて下さった料理長には感謝ですね。
「なんだかにぎやかですね」
料理に舌鼓を打つ中、ミサエラさんが戻ってこられます。
今年の農作物の評価は良から優良と高評価を頂きました。さすがノームが関わっているだけあります。ですが、良評価どまりはノームたちは不満でしょうけれど。
でも、これはノームたちの存在をごまかすための手法でもあります。評価をそろえるのではなくちょこちょこと普通評価のものを混ぜることで、普通に育てたっぽく見せかけるんですよ。
「本当にここはいい土地のようですね。これだけいいものが採れるのは羨ましいかぎりです」
「あははは。ありがとうございます」
ミサエラさんに褒められて、私は嬉しくて笑ってしまいますね。
「そちらが食堂でお出しする料理ですか。なかなかに手間がかかっていそうですね」
「はい、ちょっとした伝手でレパートリーが増えました。とはいえ、最初のうちは種類を絞りますけれどね」
「あとで街に戻る中で教えて頂けますでしょうか」
「はい、もちろんでございます」
私とミサエラさんは楽しく会話をしています。
私の年齢でギルドの副マスターと楽しく話しているのが意外だったのか、みなさんにはびっくりされてしまいましたね。
ひとまず、農園に残る新しい従業員たちはギルバートとキサラさんに任せまして、私はイリスとカリナさん、それと食堂で雇用することになった三名を連れて、ミサエラさんたちと街へと向かいました。
街に到着すると、商業ギルドに向かうかと思いきや、街の大通り沿いで降ろされました。
「あれ? もう少しで商業ギルドですのに、なんでこんなところで降ろされるのですかね」
私が疑問に思いますと、ミサエラさんが答えてくれます。
「ここが、レチェさんの経営する食堂の候補地です。老朽化していましたので、取り壊して更地にしてあります。好きなようにして頂いて結構です」
「好きにしていいって……。よろしいのでしょうか、かなり広い土地のようですけれど」
案内された場所は、大通りに面した場所でして、すぐ近くに冒険者ギルドがあるような場所です。こんな場所に大きな更地……。困りましたね、思った以上に良物件を頂きました。
でも、分かりました。ここまでして頂いてここを蹴る理由はありません。
即決した私は、早速魔法を使います。
「ラ・ギア・ルド!」
私が魔法を使うと、あっという間に土地を囲う塀が出現します。これでは不十分、もういっちょです。
「タ・ギア・ルド!」
従業員の住む場所と食堂部分を同時に作ってしまいます。『ラ』という中級では建物としては不十分ですので、上級となる『タ』を使って一気に整えます。
「驚きましたね。その年齢で、しかも魔法学園に通われずに上級魔法まで使われるとは……」
「独学ではありますけれど、魔力量にだけは自信がありますから」
ミサエラさんの言葉に、私は笑ってごまかしておきます。
実は私、最上級の『マ』まで使えます。いわゆる転生者チートです。ですが、目立ってしまいますので、そこは封印ですね。
「今日のところはここまでにしておいて、また明日以降細かい修正をしましょうかね」
「ええ、好きなようにして頂いて結構ですからね。細かいご用命がございましたら、商業ギルドまでよろしくお願いしますね」
私とミサエラさんは約束を交わします。
こうして、食堂経営の第一歩が踏み出されたのです。




