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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第86話 アゲアゲです

 数日後、私の目の前には見慣れないものが置かれていました。


「レチェ様、これは一体何でしょうか……?」


 目の前に置かれた小麦色の物体にイリスが不思議そうな顔をしています。

 いやまあ、これを作るために数日間頑張りましたよ。

 作ったのはいいのですけれど、やはりソースがないのは痛いですね。

 こういう時はウィルソン公爵家を頼るのがいいでしょうかね。ケチャップやデミグラスソースの作り方をご存じかも知れませんからね。ミサエラさんはギルドの仕事が忙しいでしょうから、これ以上増やしては過労で倒れてしまいます。

 とはいえ、私たちの方も今は畑で忙しいですから、収穫が終わってからになりますかね。……間に合いますでしょうか?


「レチェ様、もう夕食ができてらっしゃるんですか?」


 ギルバートたちが食堂に姿を見せます。


「はい。本日は食堂で提供する料理を試作してみました。試食して自分で満足できていますので、みなさんにも味わって頂こうと思います」


「もしかして、俺にしばらく狩りに行かせたのはこのためですか?」


「はい、その通りです。ギルバートが命懸けで獲ってきて下さった肉を使っております。ひとまず、体をきれいにして来て下さいな」


「分かりましたよ。それじゃ、もうちょっと待ってて下さい」


 ギルバートたちは食堂を一度出ていきます。

 室内作業であまり汚れていないサリナさんがじっと料理を見つめています。


「レチェ様、これは一体何なのですか? 見た感じは肉には見えないのですけれど」


「はい、これはカツといいましてね、肉を小麦粉でくるんで油で揚げたものになります。こちらの唐揚げも似たようなものですが、パン粉の有無が大きな違いですね」


「へー……」


 うーん、あまり興味なさそうですかね。一応前世では国民食に近いくらいの人気の食べ物なのですが……。これが世界の違いなのでしょうかね。

 あっ、ちなみにですがフライドスティックポテトとフライドスライスポテトは、今回は見送っていますよ。

 実にメタい話なのですが、こういう異世界転生もので当たり前のように出てくるので、私が飽きちゃってるんです。なので、軌道に乗るまではひとまず封印かなと考えてるんです。両方をやるには、油の確保もまだまだ不十分と思いますからね。

 私の魔法を使えば、使い古した油をきれいな状態に浄化できるみたいなんですけれど、魔法を使っている余裕があるかどうか分かりませんしね。ただでさえ忙しい可能性があるのに、魔法まで使っていちゃ倒れかねませんよ。保険です、ほ・け・ん。


「レチェ様って、どこでこんなことを覚えてこられるのでしょうかね。見たことありませんよ、こんな料理」


「はははっ、夢の中っていったら、怒りますかね?」


「そういうことにしておいてあげますよ。レチェ様の魔力を考えれば、そのくらいの不思議なことがあってもおかしくありませんから」


 あら、意外でしたね。すんなりと信じてしまいました。ちょっとびっくりです。


 さて、そんなこんなと話をしている間に、全員が揃いました。

 夕食を前に、私は今日の料理の説明をします。


「えっとですね。今日の夕食は、食堂でお出しする料理を二品、試作してみました。私はいい出来栄えだと思うのですが、みなさんの忌憚ない意見を聞いてみたいと思いまして、今日の夕食とさせて頂きました。今日のところは何もつけない状態で召し上がって下さい」


 私がそういいますと、みなさん、不思議そうな顔をしていますね。

 やはり、何か分からない料理ではどうしていいのか困っているということでしょうか。


「えっと、料理について説明が欲しいのでしょうか?」


 追加でこのように言いますと、みんな揃って首を縦に振ります。あとで確認しましたが、やはり得体の知れない料理なので手を伸ばせなかったようですね。

 とりあえず説明が欲しいということなので、説明をします。


「平べったい方は、ウルフの肉を厚めにスライスして筋を切り、小麦粉と削ったパンでくるんで油で揚げたものになります。カツと呼ばれる食べ物です」


 黙ったまま、みなさんの視線が私と料理との間で往復しています。よく分からないといった時の行動ですね、これは。

 とはいえまだ説明の途中です。まずはそちらを終わらせます。


「丸っぽい方は唐揚げといいまして、今回はラッシュバードの肉を使いましたが、ある程度の大きさの塊に切った肉に小麦粉をつけて油で揚げたものになります」


 今回もみなさんの視線が、料理と私との間で行き来します。なぜ私を見るのでしょうかね。

 あっ、もちろんラッシュバードはウルフたちと一緒で野生にいたものですよ? うちの子たちを手にかけるわけがないのです。

 説明が終わりましたので、とにかく夕食です。

 ですが、説明したにもかかわらず、みなさんまったく手をつけません。困ったものですね。

 仕方ありませんので、私が率先して食べます。

 ひと口かむとあふれ出る肉汁に、私は実に幸せそうな顔をします。

 よっぽど私の表情が印象的だったのか、ようやくカツと唐揚げを口にしてくれました。

 結果としては好評だったでしょうかね。無事に食堂のメニューとして採用することとなりました。作ってみたかいがあるものです。

 これだけでもおいしいのですけれど、やっぱりソースが欲しくてたまらない私は、ちょっぴり不満でしたね。

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