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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第83話 夏の終わりに

 いろいろと試行錯誤をしている間に、アマリス様とルーチェたちが王都に戻る日がやってきました。

 学園の夏休みが終わり、後半の予定が始まるのです。さすがに王族と殿下の婚約者が学園をさぼるわけには参りませんからね。戻ることは仕方ないのです。


「もっとお姉様と一緒にいたかったです」


 こういうのはアマリス様です。

 そもそも四週間一緒にいたではありませんか。夏休みの六割をこちらで過ごして何が不満なのでしょうか。私は理解に苦しみますね。

 といいますか、その期間放置されてしまった国王陛下たちが気の毒でなりませんよ。アマリス様の中では私が最優先なのですかね。

 ですが、お二人のわがままのおかげで助かったことも多いのも事実です。

 ラッシュバードが泳ぎが得意だったことが分かったのも収穫ですね。なにに役立つかは分かりませんけれど、生態が明らかになったのは十分収穫ですよ。

 あと、食堂の開業に向けてのメニュー選定も進みましたしね。こういう時に人数がいるというのは助かります。


 今回の別れは去年に比べればずいぶんとあっさりしていましたね。去年は今生の別れみたいな感じでしたから。

 結果としては、これでしたけど。


「お姉様、家のことは任せて下さい。アンドリュー殿下の婚約者としてしっかりと守ってみせますから」


「ええ、頼みましたよ、ルーチェ」


「はい、お姉様の邪魔にならないようにしっかりやらせて頂きます」


 本当に頼もしい妹ですね。

 私たちの隣では、ラッシュバードたちも別れを惜しんでいるようでした。長い首を当て合いながら、それは本当に別れを惜しんでいるようでしたね。

 ちなみに、滞在中に生まれた子どもたちはすべて私のところで預かることになりました。ヒナたちには過酷だと判断してのことでした。

 これはフォレとラニも納得したようで、話し合いの席では何度も私に対して頭を下げてきたくらいです。……本当に頭が悪いと呼ばれている鳥なのでしょうかね。


「あまりお手伝いはできませんでしたが、お姉様と同じ場所で過ごせて楽しかったですわ」


「去年みたいにしたかったのでしょうが、新しい従業員を雇いましたからね。王女殿下と一緒に仕事となったら、みなさん仕事にならないでしょうから、そこはご理解下さい」


「ええ、ですからご近所を堪能させて頂きましたわ。こののんびりとした雰囲気、とても気に入りました」


 アマリス様は無邪気な笑顔を見せていますが、こちらは従業員たちを落ち着かせることに必死でしたよ。後半はなんとかなりましたが、最初の頃のパニック状態といったらもうそれはって感じでした。

 ですので、私からアマリス様にひと言申し上げておきます。


「今年の暮れは、私たちに会おうと思っても我慢して下さいませ」


「それはどうしてですか?」


 アマリス様が首を傾げてきます。


「食堂の開業に向けての準備を行いますので、とても対応できるような状況ではないと思うのです。ようやく野菜の生産が落ち着いてきましたし、商業ギルドを通じて各所との連携も取れるようになってきましたから、そろそろ頃合いだと思われるのです」


「なるほど分かりました。では、開業の際にはぜひともお知らせくださいね」


「……学園に集中して下さいませ」


 困りましたね。食堂が開業したら、来る気満々ですよ、この王女様。

 私を慕っておいでなのは分かりますが、ことの優先順位を時々間違われるのですよね。本当に困った王女様です。


「アマリス様、支度整いました」


 話をしていると、護衛の騎士がやって来られて声をかけてきます。

 どうやら荷物がまとまって出発の準備が完了したようですね。


「あら、もうですか?」


「あまり遅くなりますと、陛下方、特にアンドリュー様がご心配になるかと思われますので」


「それは、仕方ありませんね」


 アンドリュー殿下の名前が出た瞬間、アマリス様は納得してしまったようですね。アンドリュー殿下は真面目な方なのですが、ちょっとわがままが炸裂することがありますからね。それを制御なさってられるのがアマリス様なのです。

 アマリス様が不在の間は、きっといろいろ手を焼かれているのでしょうね。心中お察しいたします。


 アマリス様とルーチェがいよいよ出発します。畑とラッシュバードはノームたちにみてもらい、私たちは従業員総出でお二人を見送ります。


「それではお姉様、わたくしたちは王都に戻ります」


「ええ、お元気で」


「お姉様」


「なんでしょうか、ルーチェ」


「成功をお祈りしています」


「ありがとうね、ルーチェ」


 私たちは短く挨拶を交わすと、最後に軽く抱擁し合います。

 アマリス様とルーチェはラッシュバードにまたがり、王都に向かって出発していきます。名残惜しそうに何度も振り返っていらっしゃる姿が、とても印象的でした。


「やれやれ、ようやく嵐が去ったな」


「ギルバート、それは侮辱と取っていいのかしら」


「あ、いえ……」


 頭をかきながら酷い言葉を漏らすギルバートに、私は笑顔で釘を刺しておきます。王女様と私の妹ですからね。侮辱は許しませんよ。


「お二人とも約束したことですし、来年頭に開業させる食堂の場所を決めて設備を準備しませんとね。これから収穫に向けた大切な時期ですし、忙しくなりますよ」


「そうでございますね、レチェ様」


 見送りが終わった私たちは、自分たちの農園へと視線を移します。そこではちょろちょろとノームたちが世話に奔走する姿がありました。

 新しい事業を始める前の正念場、これからが私たちの本番なのです。

 私たちは決意を胸に、ノームたちを手伝うため、農園に戻っていったのでした。

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