第73話 急成長に追いつかない
さて、年始の頃に増やした従業員ですが、秋の収穫を前にもう少し増やした方がいいかと思いました。
それというのも、スターが三回目の産卵を行ったからです。
今回の卵は五個で、かえる可能性がある卵は二個でした。
これがこのまま無事にかえれば、ラッシュバードが十一羽となり二けたに乗ります。
キサラさん一人ではそろそろ手に負えなくなってくるでしょう。
畑の方の面積も広がりましたし、小規模農園もそろそろ卒業が見えてきました。
「イリス、ちょっとよろしいでしょうか」
「はい、レチェ様。なんでございましょうか」
家の掃除など、家事を一手に引き受けてくれているイリスに、私は声をかけます。
「そろそろ、また新たに従業員を雇おうと思うのです」
「年明けに三人雇ったばかりではありませんか」
私の提案にイリスはこのように返してきます。
「雇ったはいいのですが、今の規模の成長を続けていれば、すぐに人員不足で業務が立ちいかなくなると思います。秋の収穫を前にせめてあと五人くらいは雇っておこうかと思います」
「ふむふむ、確かに私やキサラさんの仕事は増えてきていますし、外の畑も広がっています。ギルバートは魔物を狩って肉を手に入れてくることもありますし、確かに手が回らなくなる可能性は高いですね」
イリスも冷静に分析してくれています。さすがは私の侍女ですね。
「分かりました。こちらのことは私たちにお任せして、レチェ様はお出かけになって下さい」
イリスの許可が出たことですし、私は早速商業ギルドに向かおうとします。
ところが、どういうわけかイリスは私を呼び止めてきます。
「街に行かれるのでしたら、ついでにこちらのものを買ってきて下さい。あと、可能でしたら魔法かばんがあるといいですね」
「魔法かばん?」
私は首を傾げてしまいます。
「そんなだから、付与魔法の試験の成績が悪かったのでございます。魔法かばんというのは、普通の小さなかばんに空間拡張の魔法を付与して容量を増やしたかばんのことを言います。レチェ様の今の財産ならそこそこのものが仕入れられると思いますので、この際買われてはいかかでしょうかね」
「そ、そうですね。先日のわらも持っていくのが大変でしたし、考えておきます」
イリスに強く言われたので、私は検討リストに魔法かばんを追加しておきます。
イリスから購入してきてもらいたいと渡されたメモには、主に金属製品が並んでいます。包丁などですね。
「イリス、これは?」
私は鞍の購入が書かれていたので、理由を尋ねてみます。
「ラッシュバードの鞍ですね。そのまま乗っていても問題ないのは分かっていますが、鞍があるとないとでは安定感が違うと思うのです」
「なるほど、分かりました。それでは早速行ってまいりますね」
「はい、お気をつけて」
私は鳥小屋に向かい、この時間は自由にしているスターに乗って街へと向かうことにしました。
今年生まれた子どもたちも、私に乗ってほしいのかじっとこちらを見ていましたね。また考えておきましょう。
街の商業ギルドにやって来た私は、ミサエラさんを指名して話をすることにします。
しかし、指名すると同時にミサエラさんは私の隣に来ていました。ラッシュバードが街にやって来た時点で、商業ギルドには即情報が行くようですね。このスピード感には勝てませんでした。
「なるほど、新しい従業員と魔法かばんですか」
「はい。ラッシュバードはまだまだ増えますから、キサラさん一人ではとても対応しきれないと思いますので、どうしてもと思いまして……」
「分かりました。すぐには集められませんが、できる限り早いうちの解決を約束しましょう」
「お願いします」
新しい人員の選定には、前回同様商業ギルドに一任します。
次に魔法かばんですが、商業ギルドにあるものをすぐに用意してもらえました。
「本当は三年目に入ったところでお渡しするのですが、レチェさんの場合は成長著しいので、ここでお渡しできますね」
「あれ? もしかして無償ですか?」
「記念品ですので無償です。しかもお返しいただく必要はございません」
なんということでしょう。そんなシステムがあるだなんて知りませんでした。
私はまだまだ勉強不足のようですね。
「商人を目指す方なら、基本的な情報だと思いますけれどね。レチェさんは令嬢からの転身ですのでご存じなかったのですね」
ミサエラさんはそのように分析していましたが、はい、その通りです。
魔法学園に落ちたことから急きょ思いついたことですから、いろいろと勉強不足なんです。
私は言ってしまいたいけれど、ここはぐっと我慢をしておきました。
ミサエラさんに新しい人員のことはお任せしましたし、痛い出費になるなと思っていた魔法かばんはなんとただで手に入ってしまいました。嬉しい誤算ですね。
しかもこの魔法かばんは、商業ギルド特製らしくて、盗難防止機能がついているらしいです。そのため、頂いた時にギルド証と同じように私の登録を行う必要がありました。私の魔力になじませたので、私以外では私が許可した人物しか扱えなくなるそうです。ちゃっかりしてますね。
商業ギルドでの用事を終えた私は、スピードも連れてイリスに頼まれた買い物を済ませて回ったのでした。




