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第7話 商業ギルド登録

 私たちが商業ギルドに足を踏み入れますと、さすがに全員が一瞬顔を向けてきます。

 公爵領の外れにある街とはいっても、商業ギルドは普通に存在しています。それが公爵領ですからね。

 ただし、さすがに規模は小さいです。公爵邸のある大きな街に比べれば半分もありません。

 先程、全員と言いましたが、全部で十人もいません。半分は職員です。


「兄さん、姉さん、あそこが空いています。早速話をしに行きましょう」


「そう……だな」


 ギルバートはまだ私への口調に慣れていないようですね。ですが、ここで貴族と知られるわけにはいきませんよ。頑張って下さいね。

 私はそう思いながら、にこにことした笑顔をギルバートとイリスに向けていました。


「はい、お嬢さんたち、一体どのような用件でしょうか」


 受付にいたのは眼鏡の似合う女性でした。


「はい、近くで農園を営むことになりましたので、商業ギルドに登録しに来ました。将来的に取引を考えていますので、登録があった方がいいと考えました」


「あら、よく知っているのね。ただ畑をするだけなら登録は要りませんが、商売を考えているのでしたら、商業ギルドへの登録は必須となります。それで、代表者はどなたでしょうか」


 受付の女性の質問を受けて、私が大きく手を挙げます。


「はい、私です」


 勢いよく返事をした私の様子に、女性はつい目を点にして、じっと私の顔を見てきます。

 いや、そんなに見ないで下さい。恥ずかしいですよ。


「うん? あなた、どこかで見たことがあるような気がしますが、気のせいでしょうか」


 それはそうでしょう。髪色をいじっただけですから、他は私のままです。

 公爵家の令嬢なのですから、顔はそれなりに知られているとは思いますからね。


「おい、あまりじろじろ見るのは失礼じゃないのか。手続きできるのかどうか、それだけに集中してくれ」


 私の顔をあまりに見ているものですから、ギルバートが怒鳴っています。

 さすが護衛ですね。乱暴な言葉遣いはお手の物です。

 ギルバートが怒鳴ったことで、女性は私から目を逸らして手続きの準備を始めます。


「失礼致しました。では、こちらの書類に必要事項をご記入下さい。あと登録手数料は金貨一枚ですが、ご用意いただけますでしょうか」


「分かりました。姉さん」


 私がイリスに合図をすると、ポケットから金貨を取り出します。

 金貨を一枚をカルトンの上に置くと、女性は驚いていました。

 当然、そういう反応になるでしょうね。見た目は平民ですもの。金貨一枚なんて、そう簡単に用意できるものではありませんからね。

 なにせ、平民の生活は三十日ほど暮らしても四人家族だとして金貨一枚にも届きません。

 平均的な平民の収入は三十日で金貨一枚と銀貨二十枚です。

 平民からしたら、かなりの負担でしょうけれど、商人をやりたがる人からしたらはした金でしょうね。

 つまり平民からしたら、どれだけ本気かということを見るための指標になるわけです。だからこそ、受付の女性のような反応が出てしまうのですよ。


「はい、書き終わりました。これでよろしいでしょうか」


「拝見します」


 書き終わった書類を女性が目を通していきます。

 不備はなかったらしく、金貨を回収した女性は後ろから何かを持ってきます。

 異世界転生でよく見るオーパーツですね。知ってますよ、これの上に手をかざして魔力を通すと、ギルドカードができ上がるんですよね。

 女性からは思った通りの言葉が出てきましたので、私は躊躇なく手をかざして魔力を通します。

 ギルドカードが浮かび上がり、私の情報が登録されました。

 そのカードを確認した女性がぎょっとした顔をしています。


「どうなさったのですか?」


「あ、いえ……」


 女性は眼鏡に手を当てながら、何度も私の顔とカードを見ています。どうしたというのでしょうか。


「申し訳ありませんが、これで名前は合っているのですよね?」


 女性がギルドカードを見せてきます。

 そのカードの名前を見た瞬間、私は目を丸くしてしまいます。


「うそっ、本名が出ちゃうのですね……」


 そう、ギルドカードには『レイチェル・ウィルソン』の名前がしっかりと記載されていました。どういう仕組みになっているのかしら。


「あの、とりあえず秘密でお願いします。私みたいな人物が農園だなんて、外聞がよろしくありませんから」


「承知致しました。では、レチェ様、これで登録は完了でございます。他に御用がなければ、お帰り頂いても問題ございません」


 女性もあまり問題にしたくないらしく、記入した名前で私のことを呼んでくれます。

 ですが、今日はこれで帰るわけにはいきません。農業を行うにしても、何の種や苗もないんですからね。

 というわけで、私は候補となる植物の種がないか、女性に尋ねてみます。

 そうすると、女性は奥から私が希望する植物の種を持ってきてくれました。


「こちらでよろしいでしょうかね。今回は私からのサービスです。こちらのお代は頂きませんので、ぜひとも育て上げてみて下さい」


「ありがとうございます」


 女性の厚意にお礼は申し上げておきます。

 おそらくは、貴族の令嬢に畑なんて無理だと思われているのでしょうが、タダでもらえるのでしたらもらっておきましょう。


「申し遅れましたが、私はミサエラと申します。ギルドに来られた時には、ぜひともご用命下さい。あなた方の正体は私しか知らないのですから、ぜひともよろしくお願いします」


 ミサエラはそのように申し出てきました。

 脅しとも取れますし、私たちの正体を広めないという約束にも取れます。どちらにせよ、同じ方と話ができるのでしたらその方が助かります。伝言ゲームになれば、曲がって伝わることもありますからね。

 こうして私は、無事に商業ギルドへの登録と植物の種の購入を終えて畑に戻ることができたのでした。

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