第64話 賑やかな日々
全部で六羽に増えたラッシュバードは、キサラさんがほぼ一人で請け負ってくれています。なので、私はギルバートたちと一緒に畑のお世話を始めます。
育てるものが増えましたので、まずは畑の拡大ですね。
それが終われば、植える時期や育て方をノームと相談です。いくらノームの恩恵があるとはいっても、適切な時期を間違って育ててしまえば意味はありません。
とはいえ、生育環境の違う作物を同じ場所で育てている時点でまずおかしいんですけれどね。
ええ、今さらです、はい。
まあ、細かいことは気にしないでおきましょう。
畑の仕事が一段落して休憩をしていると、キサラさんが走ってきました。
「レチェ様ーっ、ご報告が!」
「どうかしましたか?」
あまりにも興奮した様子で慌てているようでしたので、私に少し緊張が走ります。
そのせいでどんな報告が出てくるのかちょっと身構えてしまいました。
「はい、スターが卵を産みました」
「あら、それはおめでたいことですね」
キサラさんからの報告を受けた私は畑のことをノームたちに任せて、キサラさんと一緒に鳥小屋へと向かっていきます。
「ブェーッ!」
鳥小屋に到着すると、生まれたばかりの子どもたちに突進されました。くちばしが地味に痛いですね。
ですが、生まれたばかりの可愛い子どもたちですから、私は怒らずに撫でてあげます。
「まったく甘えん坊さんですね。ですけれど、くちばしはやめて下さいね」
「ブェ」
はたして分かってくれたでしょうかね。
ちょっと疑問には思いますが、私は奥の寝床へと向かっていきます。
そこではスターが座って卵を温めています。
私が来たと察すると、ひょっこりと立ち上がって卵を見せてくれます。
今回は五つのようですね。でも、きちんとかえる卵はいくつでしょうか。
私がじっと確認をしていると、スターはそのまま再び座り込んでしまいました。どうやら今回は全部かえるようですね。
ですので、私はそのままスターに近付いて、元気な子どもが誕生するようにと願い込めながら、体を撫でてやります。
「ブフェ~」
スターは嬉しそうに鳴いていました。
「こういうのはいいですね。でも、魔物ですからこのまま数が増えるというのは、後々問題になりませんかね」
「そうですね。そこはまたいずれ考えましょう」
「承知致しました」
キサラさんに言われてはっとしましたね。
確かに、このまま育てていくと子どもの数がどんどんと増えていきます。数が増えていくと管理には限界がきます。
「また、新しく人を雇わないといけませんね。魔物の生態に興味のありそうな人の方がいいですかね」
「それは、その方がよいかと思います。魔物の多くは生態が不明ですし、謎がひとつでも解き明かせるのなら、喜んで飛びつきそうな方は絶対いらっしゃると思いますよ」
「……考えておきましょう」
私はひとまず保留することにしました。
卵を産んだ直後ですから、変なことでストレスはかけたくありませんからね。
そんなわけで、私はキサラさんにその場を任せて、今度はイリスのところへと向かいます。
そろそろご飯時ですからね。少しくらいお手伝いをしておきたいのですよ。
「あれ、レチェ様。お戻りになられたのですか?」
「ええ、そろそろお昼ですから、準備の手伝いをと思いましてね」
「ありがとうございます。私、料理にはまだまだ慣れていませんからね」
イリスはこんなことを言っていますが、これには理由があります。
実は、こっちに来てからの料理の半分は私が作っているからです。その上、イリスとレシピの共有が不十分でして、私が作った日とイリスが作った日とでは、料理に差がついてしまっているんですよね。
初年度の収穫後の落ち着いた時期もうっかり忘れていまして、今になってようやく料理のレシピの共有を始めたのです。
「えっと、ミルクの撹拌はこうするんですよね?」
「そうです。この棒きれを突っ込んで、その周囲に風魔法を起こすんです。ミルクが生クリームになって、最終的にはバターに変化します」
私は手取り足取り、教えていきます。
今日はギルバートが狩ってきた魔物の肉のソテーです。そこで焼きの時に使うバターを作っています。
魔物って筋肉がしっかりしていますので、脂身が少ないんですよね。なので、焼く時の油代わりのバターを作っているわけですね。
将来的には食堂を開くのですから、しっかりレシピは共有しておきませんとね。
「はうぅぅ……。私には無理ですね。なんでレチェ様は作れるんですか……」
「イリス、諦めてはダメです。もっと練習しましょう」
「はい、分かりましたよぉ」
ちょっとスパルタ気味ですけれど、しっかり覚えてもらいませんとね。
撹拌用の魔道具も作りたいですけれど、その前には魔法の練習を兼ねて頑張ってもらいませんと。
結果ですけれど、料理を始める前のバター作りでイリスはダウンしてしまいました。
なので、結局私がお昼を作ることになってしまいました。
「うう、私はレチェ様の足手まといなんですぅ……」
「そんなことはありませんよ。どれだけイリスに助けられてきたのか、とても数え切れませんからね。これでも食べて元気を出して下さい」
イリスが失敗して大量にできてしまった生クリームを、私はスライスしたパンに乗せて食べさせます。
「……おいしい。私、頑張りますね」
ええ、元気を取り戻してくれてなによりです。
試行錯誤の繰り返しですが、二年目の私たちもなんとか元気にやっています。