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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第61話 おじさまからの贈り物

 取り扱う野菜が増えたのはいいのですが、やっぱり卵が欲しくなってきます。

 前世で食べてきた料理の中には、必ずと言っていいくらい卵が入っていますからね。卵そのものもですけれど、油と酢を混ぜたマヨネーズは必須調味料化してましたからね。

 ですが、卵はまだスピードとスターのつがいから産み落とされるわずかな量しかありません。

 鑑定やノームの力で無精卵はすぐ分かりますが、最初の卵なので必要以上に取るわけにはいきません。まずはラッシュバードの数を増やしませんと。

 そんなわけでして、今日の私はスピードとスターの世話をしております。キサラさんもラッシュバードが気に入ってるようですので、手伝ってくれています。

 今日も小屋の中ではスピードが卵を温めています。太陽が出ている間は、オスが卵を温めるようですね。

 去年刈り取って敷き詰めた乾燥させた小麦のわらの上で、実に気持ちよさそうにしています。

 その間はスターが自由なのですが、小屋の中で周囲を警戒しているようですね。なんといっても屋根がありませんから、ここから襲われる可能性だってありますものね。


「ラッシュバード、魔物だと聞いて警戒してましたけど、何度見ても可愛いですね」


 キサラさんは警戒を強めているスターに、ひるむことなく抱きついています。なかなか強い方ですね。

 スターが私に助けを求めているようですので、キサラさんに少し加減をするようにお願いをしておきます。


「レチェ様、大変だ」


「どうしました、ギルバート」


 あまりきつく抱きしめられないとしょんぼりするキサラさんを微笑ましく見ていると、ギルバードが慌ただしく入ってきました。


「リキシル様がいらっしゃいました」


「えっ、おじさまが?」


 なんと、公爵領をお父様に代わって治めていらっしゃるリキシルおじさまが、私の農園にやって来たようです。一体どうしたのでしょうか。

 キサラさんにラッシュバードたちを任せまして、私はおじさまに対応するために外へと出ていきます。


 畑の入口までやってきますと、やって来ていたのはリキシルおじさまだけではありませんでした。商業ギルドのミサエラさんもいらっしゃいます。

 はて、お二人が揃って一体何の用なのでしょうか。


「リキシルおじさま」


「おお、レイチェル。久しぶりだな」


 思いっきり本名を呼ばれてしまっていますが、おじさまは私の偽名を知りませんからしょうがないですね。ややこしくなりそうなのでスルーしておきます。


「どうなさったのですか、おじさま。こんなところにいらっしゃるなんて」


 おじさまに近付いて理由を尋ねます。


「うむ。商業ギルドから酸っぱくなったワインがないか聞かれてな。うちにもあったことを思い出して持ってきたのだ」


「まあ、そうですのね」


 驚いてちらりとおじさまの後ろを見ると、そこには樽が積まれた馬車がありました。あれが全部ワインビネガーというわけですか。


「しかし、どうするのだ。お前はまだ子どもゆえにお酒は飲んではならぬし、第一お酒というには酸っぱすぎて飲めたものではないのだぞ?」


 おじさまが私が欲しがった理由を聞いています。


「ふふっ、それはまだ内緒ですわ。私が欲しかったものかどうかを確認してみませんと」


「違った場合はどうするのだ?」


「その時は処分します。私の魔法があればなんとかできると思いますので」


「そうか……」


 私との受け答えで、おじさまの表情がなぜかすぐれませんでしたね。一体どうなさったのでしょうか。

 ともかく、これでお酢が手に入りました。あとは油があればドレッシングだって作れますし、ミルクと混ぜてあげればチーズだって作れます。

 おじさまが気になさっているアルコール分は熱を加えれば飛びますし、大した問題じゃないです。ええ、まったくもって大丈夫ですね。

 とはいえ、本当にワインビネガーか確認する必要はありますので、鑑定魔法のついでにギルバートにちょっと味見をしてもらいましょう。

 酸っぱいのが苦手なのか、ギルバートは嫌がっています。ですが、私のためなのですから頑張ってもらうしかないのですよ。


「お嬢様のためなら……」


 ギルバートは渋々、ワインビネガーを一口含みます。


「ぶへっ、すっぱっ!」


 思いきり吹き出しましたね、この人。

 ただ、ちゃんと人のいない方向を向いていたので、不問と致しましょう。


「なんなんですか、この酸っぱいの。まずくて無理ですよ」


「何を言っているんですか。これはお酢といって、体にいいものなんですよ。そのまま飲むのは確かに厳しいですが、お料理に使うことができるんです」


「ほ、本当ですか?」


 ギルバートが疑いの目を向けてきます。

 とりあえずそれは無視しておきまして、私はミサエラさんに声をかけます。


「ありがとうございます。これで新しい料理が作れそうです」


「そうですか。いや、見つけるのは大変でしたね。領主様がお持ちになっていらしたのは僥倖でした」


「私も、身近で見つかるとは思ってませんでした。おじさま、これからもある程度溜まりましたら売って頂けますか?」


 ミサエラさんにお礼を申し上げますと、今度はおじさまに交渉を持ちかけます。


「いや、姪っ子であるレイチェルからお金は取れんよ」


 やはり、おじさまは甘い顔を見せてきましたね。ですが、私は許しませんよ?


「ダメです、おじさま。これは取引なのですから、ちゃんと代価は受け取るべきでございます。私はお支払いした金額以上の利益を出せばいいだけなのですからね」


「だが、そう簡単にいくものか?」


「やってみる前から決めつけないで下さいませ。できるできないかではなく、やるなのですよ」


 私は強い口調でおじさまに言い放ちます。

 私にここまで言われてしまえば、おじさまの表情が引き締まります。


「分かった。そこまで言うのなら代金は受け取ろう。お前の思う通りにやってみるといい」


「お任せ下さい、おじさま」


 私は胸を張って答えました。

 取引が終わると、おじさまとミサエラさんはワインビネガーを置いて帰っていきます。

 運び込むにはどうしたらいいかと考えていましたが、ノームがやって来てあっさりと解決してくれました。

 私はノームたちの頭を撫でて褒めてあげます。


 お酢が手に入りましたので、これでまた一段と忙しくなりそうです。

 私は拳を握って、気合いを入れ直したのでした。

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