第60話 ノームの手で試食品を
種を買って帰ってきた私は、農園に戻ると小屋の裏手にある自分たち用の畑にやってきました。
もちろん、私を乗せて移動してくれたスターは、鳥小屋に戻らせてご褒美を与えてからです。この子たちがいるから、私はこれほど早く農園に戻ってこれるのです。
さて、裏手の畑は小麦と豆とジャガイモで埋まっています。
新しいものを植えようとすると、拡張する必要があります。
『どうしたの、主』
ノームがひょっこりと現れます。
「レタスとトマトとイチゴの種を買ってきたのですが、畑がないなと思いましてね」
『それならすぐに作るよ。どこら辺まで拡張して大丈夫?』
「おじさまからは特に制限は聞いておりませんね」
『だったら、今の畑を倍の面積にするね』
ノームはそういうと、今ある畑と同じ面積を、あっという間に畑に変えてしまいました。
さすがは土の精霊、一瞬でやってのけましたね。
まったく素晴らしいですね。
あっという間に地面を掘り返して畝まで作ってくれましたので、私は早速種を植えます。
『主、実らせちゃって大丈夫?』
私が種を植えると、ノームが私に聞いてきます。
「ええ、いいですよ」
私が許可を出すと、ノームたちは嬉しそうにしています。
そうかと思えば仲間を呼んで三人に増えました。どうやら、一人ひとりそれぞれを担当するようですね。
私がじっと見つめていると、ノームは体を縮こまらせています。力を使うために力んでいるようですね。
『はいっ!』
掛け声のような声を出すと、地面からぽこんと芽が出てきます。
本当に魔法のある世界だということを再認識させられるくらい、恐ろしいほどの速度で成長してきます。
今しがた植えたばかりだというのに、あっという間に収穫が可能になってしまいました。
『どう?』
実りを迎えた野菜を目の前に、ノームたちは実に誇らしげです。
私は呆然と目の前の野菜を眺めるしかありませんでした。
『主?』
ノームがこてんと首を傾けていますが、私はまだ反応できずにいます。
「レチェ様、こんなところにいらしたのですか」
「あ、ああ。イリス?」
イリスに呼ばれて、ようやく我に返ります。
「どうなさったのです……って、なんですか、これは!」
目の前に大量に実る野菜を見て、イリスが叫んでしまっています。
あまりにもうるさかったのか、近くで作業をしていたキサラさんまでが駆けつけてしまいました。
「一体どうなさったんですか」
「見て下さいよ。また一瞬で野菜が実ってしまっているんですよ。レチェ様、ノームにお願いしましたね?」
「は、はい。その通りです……」
怒っているイリスは怖いので、とりあえず素直に認めておきます。
私はイリスの怒りを鎮めるために、こうなった経緯を説明します。
経緯をすべて聞いたイリスは、頭が痛くなってきたのか、手で押さえています。
「精霊って本当に人間の常識が通じませんね。許可を出すレチェ様もレチェ様ですが……」
「申し訳ありません」
言い訳はしないで謝っておきます。
「で、でも、おいしそうな野菜じゃないですか。レチェ様、今夜はこれを使ってお料理をなさるのですか?」
この空気をどうにかしようとして、キサラさんがどうにか和ませようとしています。
私もどうにかして紛らわせたいので、キサラさんの話に乗っかります。
「はい、今日のところは生のままサラダでしょうかね。採れたての野菜はとてもみずみずしいですから」
「おお、いいですね。いやあ、ここにきてよかったと思います」
私が一生懸命アピールをして、キサラさんが笑顔で喜べば、どうにかイリスの怒りはおさまったようです。
イリスはギルバートたちの様子を見に行くと言って、呆れた表情のまま去っていきました。
「ノーム、一部から種を採取しておいて下さい。売り物用の栽培をしなければなりませんので」
『任せてよ』
私がお願いをすると、ノームは実ったばかりの野菜の一部を収穫して、自分たちの能力で種を採取し始めました。
いや、レタスってそんなところに種があるんですか。
前世を思い返してみても、まったく見たことがなかったので新鮮でした。
「さて、キサラさん」
「はい、レチェ様」
「今夜のお食事用の野菜を収穫しましょうか」
「はい、畏まりました」
私が雇い主なためか、言葉遣いが堅苦しいのは仕方ないですね。
ちゃんと手伝って下さるので、そこは気にしないことにしておきましょう。
収穫が終わると、私は一部を手に取って、水魔法できれいにします。
「れ、レチェ様?!」
キサラさんが驚いていますね。
それもそうでしょう。
私がおもむろに口に放り込んだんですから。
私達が食べられないものであるなら、売りに出せるわけがありませんよ。だから、率先して食べるんです。
「うん、このシャキシャキ感、これでこそレタスです」
私は葉っぱを一枚もぎ取って、キサラさんに手渡します。
「一枚どうぞ」
「は、はい。では、ありがたく頂戴します」
堅苦しい返答をしながら、キサラさんはレタスを口に含みます。
「ううっ、シャキシャキしています」
なんということでしょう。目がしいたけです。この目で実際に見るなんて思いませんでした。
ですが、これだけ好評ならば、これから育てる分も十分期待できるというものですね。
結果ですが、夕食に並んだ新しい野菜は、みなさんから好評でした。
そんなわけでして、無事にレチェ農園のラインナップにレタス、トマト、イチゴの三種が加わったのでした。




