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第6話 第一歩を踏み出して

 さて、困りました。

 道具はあります。土地はあります。時間はあります。

 何か足りません。

 そう、育てる植物です。

 はっきりいって、私の魔法があれば人手なんて、イリスとギルバートの二人でも足ります。

 ですが、さすがにない植物を育てることはできません。

 そんなわけでして、初日の私は何を育てるのか植物図鑑とにらめっこです。

 私が選定に入っている間、二人には畑を数面作って頂くことにしました。杭とロープは私の魔法で作りましたので、あとは言った通りの広さの畑を作ってくれればいいのです。


「やはり、主食であるパンの材料となる小麦は必須ですね。それと、食材として優秀な豆類。彩を添えるための根菜と葉物野菜、このくらいでしょうか」


 最初なので贅沢は言いません。最低限の食事を確保できる植物を選びます。

 いろんな種類を育てるので、イリスたちには畑を何面もこしらえてもらっているのです。

 あとは動物性たんぱく質の確保。肉に関しては近所に魔物が生息しているらしいですから、少し足を延ばせばよさそうですね。

 育てる作物の選定と、お肉の確保にめどをつけた私は、外に出て二人の作業の進捗具合を確認します。

 さすが不慣れな二人は、かなり苦戦をしているようでしたね。


「あっ、レチェ様。ようやく終わられたんですか?」


 ギルバートが私に気が付いて声をかけてきます。


「はい、まずは最低限の食物を選定しました。これから種の買い付けに行こうかと思います」


 ギルバートの質問に対して、私は正直に答えます。ついでに魔物も倒して来れれば一石二鳥ですね。


「畏まりました。では、すぐにでも出かける準備をしましょう」


「レチェ様、お留守番はよろしいでしょうか」


「建物には結界を張っておけば誰も入れないでしょう。最初ですからみんなで向かいましょうか」


「承知致しました」


 私たちは三人揃って、少し距離はありますが、近くの街まで向かうことに決めたのでした。


 近くの街までは、徒歩で移動してもあまり時間がかかりませんでしたね。

 健康のために一時間くらいウォーキングをしていたこともありますから、そのくらいなら何の苦にもなりません。


「レチェ様、なんでそんなに元気でいらっしゃるんですか……」


 私の後ろでは、イリスが呼吸を荒くしていました。

 使用人とはいっても、体力は人それぞれですものね。イリスはそれだけ歩いたことがないということなのでしょう。


「ギルバート、イリスについてあげて下さい。それと、ここからは私のことは呼び捨てでお願いします。農園を始めようとする田舎の兄妹を装いましょう」


「しかし、さすがにお嬢様を呼び捨てにするのは……」


「ギルバート、これは命令です。おとなしく従って下さい」


「は、はい。分かりました」


 私がきつい表情をして言い聞かせれば、渋々ギルバートとイリスは頷いていました。

 使用人ですからね、従うべき相手に呼び捨てはなかなか難しいでしょう。ですが、これからの私たちはただの農園を営む平民なのです。そのくらいは割り切ってもらわないと困りますね。


 街に到着した私たちはまず、商業ギルドへと向かいます。

 お店にしても農園にしても、何かを始めようというのならギルドに話を通さなければなりません。

 とにかくただの兄妹を装うように二人にきつく言い聞かせました。

 ところが、街に入ると私たちは注目の的です。

 それもそうでしょう。私が一人前に立って、ギルバートとイリスの二人が黙って後ろからついてくるんですもの。

 長年染みついた癖というものは、簡単には抜けませんね。どう見ても平民を装った貴族ですよ、これは。


「なんかすごく見られてますね」


「私たち、何か目立つようなことをしていますでしょうか」


 ギルバートもイリスも、まったく分かっていないようですね。


「私を前にして、二人が後ろからついてくるからですよ。この隊列は、貴族の令嬢に対する位置関係そのものです。服装が平民なのに行動が貴族ですから、みなさん私たちのことを不思議に感じていらっしゃるんです」


「な、なるほど……」


 私が立ち止まって小声でお説教をしますと、ギルバートは理解したような返事をしていました。


「ですが、平民というものが分かりませんし、具体的にはどのようにしたらよいのでしょう」


 なんということでしょうか。二人揃って平民のなんたるかが分からないそうです。

 ですが、ここで私は二人を変えさせずに、平民らしさを出すための一計を案じることにします。

 同じ配置でも、平民らしさを出すにはこうするしかありません。

 ええ、レイチェル、やるのですよ。


「ねえ、兄さん、姉さん。商業ギルドってどんなところなのでしょうね。今から楽しみです」


 無邪気な妹を演じることにしたのです。

 これなら、二人の前を歩いていても違和感はありませんから、私たちの位置関係を変えなくてもごまかせると思います。


「ああ、そうだな」


 ところが、驚かせてしまったせいで会話が続きません。困ったものです。

 仕方ないので、私はこのまま手足を大きく動かして、元気な妹を印象付けることにしました。


 どうにかごまかせたかなと思いつつ、いよいよ私たちは商業ギルドに到着します。

 私の気ままなスローライフの第一歩が、ようやく踏み出せそうです。

 私は逸る気持ちをぐっとこらえて、二人ともう一度確認を行った上で、商業ギルドへと足を踏み入れたのです。

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