第57話 従業員、増やします
数日後、私たちの小屋にミサエラさんたちがやってきました。
ミサエラさんが連れてきたのは男性二名、女性一名でした。見た感じがっしりしているので、冒険者の方でしょうか。
「思ったよりも早かったですね、ミサエラさん」
「はい。できるだけ早い方がいいかと思いましてね。実は、先日相談に来られた時より前から募集はかけていたのです」
なんともまぁ。
やはり、できる方というのは違うようですね。まさか先手を打たれていたなんて思いもしませんでした。
「ミサエラさんは超能力者か何かですか?」
「超能力者というのはよく分かりませんが、ただのサブマスターです」
私は思わず「えーっ」って言っていそうな顔をしてしまいます。
それにしても、後ろの方々はちょっと反応が気になってしまいますね。農園の主が私みたいな子どもだからバカにしているのでしょうか。
とりあえず、ミサエラさんの立会いの下、私は農園の中を案内します。
少し案内をしますと、さっきまでの態度が少し改まった気がしますね。
そして、一番の懸念があるともいえる場所までやってきます。
そう、ラッシュバードの小屋です。
ラッシュバードは魔物になりますので、冒険者が狩りたがるのではないかという心配があるのですよね。
しかも、今は卵を温めている時です。生まれてくる子どもたちに悪影響を及ぼさないか、その心配がありますね。
「こちらは鳥小屋です」
「鳥小屋?」
とはいえ、私の農園で働くのであれば、この子たちに慣れてもらわねば困ります。
私はドキドキしながら、鳥小屋の中へと案内します。
当然ながら、ラッシュバードを見た瞬間に男性二人は構えてしまいましたね。スピードとスターも警戒しています。
ただ、残りの女性だけが態度が違いました。
「まあ、あれが噂のラッシュバードですね。お話は伺ってましたが、実物はまた可愛いじゃないですか」
両手を頬に当てて、興奮した様子で私に話し掛けてきます。
どうやら、私が乗って街に姿を見せていたことをよく知っているようですね。
「え、ええ。この子たちのことはご存じなのですね」
「はい、噂はかねがね。私、そろそろ冒険者を引退して、腰を拠点であるあの街に落ち着けようと考えていたんです。その時にレチェさんのお話を聞いて、これだと応募したんです」
なんとも、ラッシュバードにただならぬ思いがあるようですね。
「では、触られてみますか?」
「いいんですか?!」
女性は目の色を変えていました。どれだけラッシュバードを気に入っているのでしょう。
後ろでは男性二人が呆れてますよ。
とはいえ、ラッシュバードが気に入っているとい女性を放ってはおけません。
今の時間はスピードが卵を温めていますので、スターに対応をしてもらいましょう。
「スター、大丈夫?」
「ブェッ!」
私が声を掛けると、いいよと言っているようです。
スターは立ち上がって女性をじろじろと見ています。
しばらくすると、大丈夫と思ったのでしょうね、頭を女性に向かって差し出していました。
「撫でていいそうですよ」
「本当ですか?! 嬉しいですね」
私が言えば、頭を軽く撫でた後、そのまま首に抱きついてましたね。
スターはびっくりしていましたけど、抱きつかれながらもおとなしくしてましたね。悪い気はしなかったのでしょう。
「あなた方はギルバートに相手をして頂きましょうか。馬の世話や畑仕事もありますからね」
「よし、お前たちは俺について来い」
私が男性たちに話し掛けると、男性たちの後ろからギルバートがひょっこり顔を出してきました。
いつの間に来てたんですか、あの人は……。
「おや、この三人は採用ということでよろしいでしょうかね。レチェさん」
「はい。ラッシュバードに対しては反応はそれぞれでしたけど、あとは熱心に聞いてらっしゃいましたのでね。ダメだったらまたその時考えます」
「分かりました。それではそのようにしますね。今から書面を交わしてしまいましょう」
「分かりました」
私はミサエラさんと話をして、このまま雇用契約を交わすことにしました。
「今日からよろしくね、スピードちゃん、スターちゃん」
女性はちゃん付けで二羽の名前を呼んでいました。よっぽど好きなんですね、ラッシュバードのことが。
鳥小屋を後にした私たちは、食堂のある小屋で契約を交わすことになります。
その際に、ようやく三名のお名前を知ることができました。
私が採用しなければ、二度と会うこともないかもしれないということで、ここまで一切名前は聞かなかったんですよね。
ラッシュバードを気に入っている女性は、キサラというそうです。
男性二人の方の名前は……、おいおい出すこととしましょうか。今はギルバートに付き合わされていますものね。
私は先日作ったボールペンで、さらさらとサインをしてしまいます。
「いいですね、そのペン」
「これですか? ボールペンっていうんですけれど、作るのは大変だと思いますよ」
どうやらミサエラさんがボールペンに興味を持ってしまったようですね。
結果として、男性たちがギルバートから解放されるまでの間、延々と話をさせられましたよ、ええ。
イリスが言った通りになりそうです。
とりあえずボールペンの話はまた今度詰めることとしまして、私たちは無事に新たな従業員を増やすことに成功したのでした。