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第56話 二年目の悩み

 二年目の生活も今のところは順調です。

 予想外だったのは、ラッシュバードがたったの一年で卵を産み始めたことですかね。

 ダチョウだと数年はかかっていた記憶があるのですが、魔物であることと、名づけをしたことによる影響なのでしょうかね。

 しかし、この状況になると、やらなければならないことが出てきます。


「えっ、従業員を増やす、ですか?」


 ギルバートが目を丸くして驚いています。

 私、何かおかしなことを言ったでしょうか。


「正直、レチェ様のことを対外的に知らせるのはよろしくないかと思いますが」


 イリスまで苦言を呈する始末です。

 なんでですか!

 ですが、私は負けませんよ。今の状況を考えれば、従業員を増やさないとやっていけなくなるのは見えているんですからね。

 畑の面積は増えますし、ラッシュバードも数が増えます。

 スピードとスターは私の眷属になっているので多少マシですが、他のラッシュバードはそうはいきませんしね。

 私は二人に農園の今後のことを話して理解してもらいます。三人とノーム五体では、いずれ限界を迎えるのは明白なんですからね。


「将来的には農園の野菜や卵を使っての料理屋さん、つまり食堂を開きたいと思っています。どうですか、人手が足りると思いますか?」


「確かに、そうですね……」


「大変申し訳ございませんでした」


 魔法があるとはいっても、できることとできないことがありますからね。

 それに、私はみんなに負担を強いるつもりはありませんから。この農園の主として当然なのですよ。


 さて、思い立ったら吉日です。

 昼間はスピードが卵を温めていますので、スターに乗って私は商業ギルドを目指します。イリスにはスピードの様子を見守ってもらうために残ってもらいました。


「こんにちは、ミサエラさんはいらっしゃいますでしょうか」


「はい、いますよ」


 私がやって来ると、ミサエラさんは今日も受付に座っていました。サブマスターだとばれたのに、なんでいるんでしょうかね。

 本人に聞けば、受付にいれば私が尋ねてきてもすぐ対応ができる、だそうですよ。確かに担当にはなりましたけど、専属じゃないですよね?!

 私が驚いている前で、ミサエラさんは他の職員と席を代わってこっちに向かってきます。


「はい、それでは奥でお話をしましょう」


 驚いている間に、私はドナドナされてしまいました。


 奥の部屋にやって来ると、サブマスターの部屋に連れ込まれます。

 今までは応接室だったので、ちょっと新鮮な気持ちです。


「今日の用事は分かっていますよ。従業員を見繕いに来たのですよね?」


「え、ええっ?!」


 扉に鍵をかけてからの第一声がそれです。

 私は思わず叫んでしまいましたよ。


「そのくらい分かりますよ。見た目若いですが、これでも商業ギルドで十年は過ごしている身ですからね」


 本棚を探りながら、ミサエラさんが話してきます。

 まさかここに来た用事を言い当てられてしまうなんて、思ってもみませんでしたよ。これが商業ギルドのサブマスター……、まったく侮れません。


「そう警戒なさらないで下さい。去年の収穫の状況や農園の規模、ラッシュバードまでいるような状況なのです。そんな状況の農園が、たった三人で経営できるわけがないんですからね」


 うう、さすがはサブマスターなだけあります。なんて洞察力なのでしょうかね。

 ここまで完璧に言い当てられてしまえば、まったくもって反論も言い訳もできる状況ではありません。


「私の観察眼で選び抜いた従業員を今度連れていかせてもらいますので、楽しみにしていて下さい。一応、その方たちには農園の状況を説明しますが、それは問題ないでしょうか」


「はい。というか、状況を説明しないで連れてくるのはどうかと思います」


「そうですね。でも、場合によっては事前情報がない方がいいこともありましてね。先入観は評価の妨げにもなりかねませんから」


 ミサエラさんはいろいろと私たちのことを考えて下さっているようです。

 でも、それって、私が公爵令嬢だからでしょうかね。


「ふふっ、私はレイチェルさんの人柄と能力を純粋に評価しております。確かに、ウィルソン公爵様へのつながりというのはあるでしょうが、そもそもここはウィルソン公爵領です。ギルドの収益を増やすことが、そもそもの貢献です。レイチェルさんへの肩入れも、増益のための投資の一環に過ぎないんです」


 ああ、確かにそうでした。私は結局ウィルソン公爵家からは逃れられていないんですよね。公爵領に住んでいる以上は、その庇護下にあり続けているのです。

 でも、この言葉を聞いて安心しました。

 私を公爵令嬢だから特別扱いをしているのではなくて、ギルドに利益をもたらしてくれる存在だから、手助けしてくれるに過ぎないんですね。

 今の私の方針からすると、そう考えて下さる方が信用できるというものです。

 そんなわけでして、商業ギルドからは人数は未定ですが、農園の従業員を手配してもらえることになりました。

 ミサエラさんの心配りのおかげで話がすぐ済んで助かります。

 ただ、私は一点注文を付けていきました。その私の注文を、ミサエラさんは快く聞き入れて下さいました。なので、私は安心して農園に戻ることができました。本当にミサエラさんは素晴らしい方ですね。


「さあ、これから忙しくなりますよ」


「ブフェッ!」


 スターに話し掛けると、スターは気合いの入った返事をしてくれました。


 さあ、私の手掛ける農園の二年目。もっと素晴らしいものにしてみせますよ。

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