第53話 特別を贈りたい
そうこうしている間に、年が明けてしまいましたね。
最初の一週間が過ぎれば、アマリス様とルーチェは魔法学園に入学するはずですから、今頃家は大忙しでしょうね。
「やはり、ずっと使えるものもプレゼントしてあげたいですね」
「また何かお作りになるつもりですか、レチェ様」
机に向かいながら呟いていると、イリスが通りかかったみたいで反応しています。
「ええ。ペンとインクを常に持ち歩くというのも不便かと思いましてね。特にインクはこぼすと大変ですし」
「それはそうでございますね」
「万年筆やボールペンのようなものが作れませんかね。この世界には魔法とか魔石とかありますし、不可能ではないとは思うのですが……」
「なんですか、そのボールペンというものは」
聞き慣れない言葉だけに、イリスが当然反応してきます。
前世では当たり前でしたが、この世界では紙は貴重、ペンも鳥の羽とインクを使うという古い時代の様式です。
とはいえ、植物紙は貴族の間では出回っていますので、本のようなものは存在しているんですよね。なんとも前世でいうのなら時代がごちゃ混ぜという感じで、創作の世界あるあるという感じです。
「ボールペンというのはですね……」
私はイリスに対してボールペンの説明を行います。
イリスはというと、理解は半分ってところでしょうかね。そうなると、実物もどきを作って説明するのが一番でしょうか。
土魔法で筒を作って、インク代わりに水魔法を入れます。
ペンの先端を、同じく土魔法で作った板に押し当てると、隙間から水が漏れ出て文字が書けるようになります。
「とまぁ、こんな感じですね。これなら乾燥や付着防止にキャップをつけてあげれば、結構使えると思うのですよ」
「レチェ様、素晴らしいですね。これはぜひとも作ってみるべきです」
「で、でも、私が目指すのは農園経営で……」
顔を近付けて熱心に勧めてくるので、私は本来の目的を口にします。ですが、イリスは引き下がりません。
「特許だけ取って、生産は商業ギルドに任せればいいのですよ。そうすれば、レチェ様の元には特許による収入が転がり込んできますし、レチェ様の手を煩わせずに済みます」
「え、ええ……」
かなりイリスはボールペンを気に入ったようですね。
仕方ありません。こうなればやってみますか。
どうせ今は畑仕事も知れています。ギルバート一人でもラッシュバードの世話を含めても十分こなせますからね。
土魔法をがっちり固めた筒を作り、先端にボールを入れて中に押し戻されすぎないように栓をします。
中にインクを詰め、土魔法で栓をします。お尻の方の栓はインクを詰め直せるように取り外し可能にしておきます。
「これ、ボールの部分ですけれど、先程は押されて水が漏れ出るようにしましたが、本当はボールにインクが付くようになっています。なので、自由に回転できるようにしておけば、ペンを動かすだけで線が書けるようになるんですよ」
「そうなのですね」
キャップを作り終えると、私はひとまず完成したボールペンのようなものをイリスに見せます。
「思ったより重量がありますね」
「中にはたっぷりインクが入っていますし、土魔法を固めていますので、どうしても重量の問題が出てしまいます。あと、インクが固まる可能性もありますので、その時はお湯で熱してあげれば大丈夫なはずです」
「承知致しました。ちょっと試してみてもよろしいでしょうか」
イリスが試したくてうずうずしていますので、私は土魔法で粘土板を作ってそこに試し書きをさせます。
これには私もごくりと息を飲みます。
なんということでしょう。試しに作ってみたボールペンは、粘土板に何の問題もなく文字を書いていけるじゃないですか。インクを弾く素材なはずですけど、なんででしょうかね?!
イリスは楽しくなってきたのか、木の板やさっき試しに作って水を入れた筒にも何かを書いていきます。驚くことに、全部にじまず弾かれず書いていけるじゃないですか。なんですかね、これ。
「レチェ様、これはいいですね。売れますよ、これは!」
イリスが鼻息荒くなっています。なかなか見ませんよ、こんなイリスは。
「ま、まあ。あとはインクが出なくなった時の対処法くらいですかね……」
イリスの勢いに押されて、もう少し検証を行った上で、アマリス様とルーチェのプレゼントにしましょう。
ケーキもずいぶんと安定して作れるようになりましたし。一緒に持っていきましょうね。
そんなわけでして、二人に持っていくボールペンには、分かりやすく二人のものだと分かるように特殊なデザインと名前を刻むことにしました。
まだ寒い時期で暇を持て余していたので、学園に入学する二人に何か特別なものを贈りたいなと思って作り出したボールペン。
これが後々にウィズタリア王国内で革命を起こして大流行することになるなんて思ってもみませんでしたね。
大流行した時には、これで少しは汚名返上できたかなと安心したなんてとても言えるわけがないのです。




