第40話 お祝いと未練と
ルーチェとアマリスの魔法学園への入学が決まった報せは、すぐさまアンドリューにも伝えられた。
「そうか、アマリスとルーチェ嬢は無事に魔法学園に入れたか」
「はい。特にルーチェ嬢は首席の合格だそうでして、ウィルソン公爵家の能力の高さを思い知らされるばかりです」
どうやら、ルーチェは首席合格らしい。さすがはあのレイチェルの妹だなと、アンドリューは感心しているようだ。
「この私の婚約者となったのだ。このくらいは当然だろう」
「左様でございますね。それを思うと、レイチェル嬢の落第がますます不可解になります」
「……ジャック、過ぎたことだ。私もそろそろ未練を断ち切らねばならぬな」
「……心中、お察しいたします」
なんともしんみりした雰囲気となっている。アンドリューはまだまだレイチェルのことが好きなようである。
しかし、魔法学園入学試験に落ち、婚約者からも外れたのだ。いつまでもレイチェルのことばかりを追っていられないのである。
「アマリスとルーチェ嬢に、合格のお祝いを贈らねばならぬ。すぐに出るとしようか」
「はっ、今からでございますか?」
アンドリューが言い出したことに、ジャックが思わず驚いた表情を見せてしまう。
学園から戻ったあとなので時間も夕方が近付いてきており、出るにしては遅すぎる時間なのだ。だからこそ、ジャックは驚いているのである。
「お店を呼びつけるのはできるが、やはり妹と婚約者への贈り物なのだ。私がじっくり見て贈るものを決めたいのだよ」
「そのお気持ちは理解できますが、さすがに日を改めてはいかがでしょうか。戻るのが遅くなっては陛下たちに叱られてしまいます」
「だがね、こういうのは少しでも早い方がいいんだ。早速行くぞ」
「……仕方ありませんね。お供いたします」
アンドリューが説得に応じないので、仕方なくジャックはついて行くことにした。
街へとやって来たアンドリューは、装飾品店に入る。
そこには、思わぬ人物がやって来ていた。
「これはアンドリュー王子。こんなところで出会うとは偶然ですね」
「誰かと思えばワイルズか。どうしたんだ、こんなところで」
目の前にいたのはアンドリューの同級生であるワイルズだった。
「平民のくせに、殿下と軽々と口を利くな」
ジャックが間に入ってワイルズを怒鳴りつけている。
そう、目のさわやかそうな少年こそ、このゲームの主人公である。ワイルズはデフォルトネームだ。
武器は剣のみならず、短剣、槍、弓も扱い、魔法の腕も大したもの。それでいて勉強もできる。アンドリューの次席の成績で入学した期待の星である。
「妹とその友人が学園に入学することになったのでね。お祝いに何かと思ったんだ」
アンドリューはジャックを押さえながらワイルズの質問に答えている。
「へぇー、妹さんがいらしたんですね」
「ああ。私の自慢の可愛い妹だよ」
ワイルズは何か考え込んでいるようだ。
どうして考え込むのかは分からないが、アンドリューはワイルズに質問を返す。
「そういう君は、どうしてここにいるんだい? ここは価格が張るから、君のような平民では購入は難しいと思うんだけど」
「ははっ、それもそうですね。とはいえ、俺は平民ですが、魔法学園の学生でもあるんです。貴族社会に触れる中での、ちょっとした社会勉強をしに来たんです」
「なるほどな。君にも気になる方ができたということか。だが、妹は渡せないな。君くらいの腕前なら、城の兵士として取り立ててもいいとは思うけれどね」
アンドリューが釘を刺しておくと、ワイルズは少しびっくりした表情をしたものの、すぐに笑っていた。
「いいですね。殿下の近衛兵の座、狙ってみるのも悪くはありません」
「ああ、君ならなれるだろうな。だが、妹はやらんぞ」
「二度も言うなんて、信用されてませんね」
アマリスは渡さないと、アンドリューはかなりワイルズのことを警戒しているようである。さわやかで実直な性格ゆえに、アマリスが気にかけてしまわないか心配しているのである。まったくの兄バカというものだ。
ワイルズの方も気にしていないようで、あまりにもストレートに出ている警戒感にただただ笑うだけだった。
「さて、俺は帰るとしますか。また学園で会いましょう」
「ああ、また学園でな」
結局、ワイルズは何も買わずに店を出て行った。
何だったのかとアンドリューは思ったものの、それよりも今はお祝いの品を購入しようと、ジャックと一緒になって装飾品を見て回っていた。
「ご購入ありがとうございました」
店員に見送られて、アンドリューは城へと戻っていく。
「結局、無難ところで落ち着きましたね」
「仕方ないな、私は女性の好みが分からないのだからな」
「喜んで下さるといいですね」
「ああ、二人とも気に入ってくれると思うさ」
購入した装飾品をしっかりとその手に握り、アンドリューは城へと戻っていく。
だが、その膝には箱が三つ置かれている。
結局レイチェルへの未練は断ち切れず、彼女の分まで購入してしまっていたのだ。
(レイチェル、私はやっぱり、君への思いを諦めることができそうにないよ)
アンドリューは膝の上の箱をじっと眺めていたのだった。




